イレブン

九十九光

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♯19ー8

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 マイク片手に出てきたのは、学ランを着た品川萌とセーラー服を着た桐林隼人だった。突然異性の服を着て舞台に上がれば、再び舞台下から驚きと混乱の声が出てくるのは当然である。何人かの先生がやめさせようとするが、それは山田先生たちの手で止められた。「小林先生、そこどいて!」という二年生の学年主任の声を無視して、司会進行の品川が続ける。

「えー、皆さん! ……。訳が分からないでしょ! あの原田亮太がいきなりアンパンマンの格好で出てきて!」

 会場内の他学年から笑いが起き、原田も恥ずかしそうに、「もうさがっていい?」と、地声で品川に確認する。彼は品川から「はい、ひとまずお疲れでしたー」と言われ、恥ずかしそうに舞台袖へと引き上げていく。その後、恥ずかし気な様子を見せる桐林が、しどろもどろになりながらセリフを続けた。

「えー、皆さん。けやきのきの人形劇ですが……、ぼ、私たちが嘘の日時を言ったから、今日はその……、来ません、ピョン(ピョンを小声で)」

「はあ!? ちょっと待てそれどういうことだ!」

「聞いてないぞ、そんな話! ……。山田先生!」

 突然伝えられた衝撃の真実に、事の真相を何も知らない教師たちが怒鳴り始める。そして次に彼らは、ひとまず一、二年生を教室に返そうとしてなのか、その場から生徒たちの前へと出て指示を出そうとする。

 しかしここまで体育館に来ていなかった天草先生がそれを許さない。

 体育館前側の入り口は、彼に連れられて何も持たずにやってきた、一、二年生の吹奏楽部員で詰まっていた。遠目に見える彼女(一人だけ彼)たちも、「一体何が起こっているんだ」と言いたげにお互いの顔を見つめ合っている。そこに天草先生が、近くにあった西川先生のスタンドマイクに向かって指示を出した。

「東中三年! Show must go on !(そのまま続けろ的な意味)」

 その言葉と同時に、先生たちの怒声をかき消すようにトランペットをはじめとした管楽器の音が聞こえてくる。ささきいさおが歌った『宇宙戦艦ヤマト』の、バラード調にアレンジされた前奏だった。それと同時に順番に舞台袖から出てきたのは、それぞれの楽器を携えた三年生の吹奏楽部員だった。井上由真をはじめとした彼女たち十七名は、冬服姿で壇上を行進しながら演奏を続け、やがてきれいに舞台の上で横二列に並んで見せた。そこから彼女たちは、足りない楽器をスピーカーから流れる録音音声に任せながら、上高田少年合唱団の
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