182 / 214
♯17ー3
しおりを挟む
そんな私に言葉をかけてきたのは、以前と変わらない体型の小林先生だった。
「緊張してんの?」
「え、は、はい……」
「大方の方針は決まってて、生徒も自分からやるってのがほとんどだから。私らはそれを見守って、必要に応じてアドバイスして、学校への偽装工作を徹底するだけでいいから」
いつもと変わらない厳しさがにじみ出ている語感に、私の中の緊張感はより一層増した。それに呼応するように、館内にも気味の悪い静寂が訪れる。こういう時間は、ほんの数秒の話であっても何時間も経ったように感じるものだ。
その静寂を打ち破ったのは、キイロイトリがプリントされたTシャツを着ている三島先生だった。
「よし! チーム君彦君! 現状の完成具合を樋口先生に見せようか!」
わざとらしい大声と一発の柏手で、彼女は伊達を中心としたチームに指示を出す。それに合わせて伊達本人も、ほか三名の男子生徒ともに「うっす!」という、体育会系丸出しの返事を返した。
彼らはギターとベース、ドラムにスタンドマイクを壇上に準備すると、それぞれ所定の位置につき始める(楽器やマイクなどは、東中の音楽室の備品、個人で持っている生徒や教員のもの、佐布里小学校が無償で貸してくれたものの三つがあるという)。伊達は壇上最前線の中心に位置取り、マイクを軽く叩きながら音量調整をしている。あいつが歌う四人組のバンドなのだろうか。
「ほら樋口、特等席行きなって」
いつの間にか私の後ろに回り込んでいたナイキのシャツの品川が、私の背中を舞台前方に向かって押す。本人に面と向かって質問するまでもなく、彼女と私たちの間の確執はなくなっていたようだ。
舞台正面で体育座りする私がこの会の現状把握に戸惑っているうちに、舞台上の生徒は演奏の準備を終えていた。伊達は一番目立つ最前列のセンターでスタンドマイクの前に立っており、やはり彼がボーカルをするようだった。
彼はまさにバンドのリーダーであるかのように、いつも通りのノリのよさを見せつけながら宣言する。
「それじゃあ聴いてくれ! ボーカル俺、ギター川野、ベース志村、ドラム大河内で! 『カサブタ』(作詞、作曲千綿ヒデノリの曲である)!」
「緊張してんの?」
「え、は、はい……」
「大方の方針は決まってて、生徒も自分からやるってのがほとんどだから。私らはそれを見守って、必要に応じてアドバイスして、学校への偽装工作を徹底するだけでいいから」
いつもと変わらない厳しさがにじみ出ている語感に、私の中の緊張感はより一層増した。それに呼応するように、館内にも気味の悪い静寂が訪れる。こういう時間は、ほんの数秒の話であっても何時間も経ったように感じるものだ。
その静寂を打ち破ったのは、キイロイトリがプリントされたTシャツを着ている三島先生だった。
「よし! チーム君彦君! 現状の完成具合を樋口先生に見せようか!」
わざとらしい大声と一発の柏手で、彼女は伊達を中心としたチームに指示を出す。それに合わせて伊達本人も、ほか三名の男子生徒ともに「うっす!」という、体育会系丸出しの返事を返した。
彼らはギターとベース、ドラムにスタンドマイクを壇上に準備すると、それぞれ所定の位置につき始める(楽器やマイクなどは、東中の音楽室の備品、個人で持っている生徒や教員のもの、佐布里小学校が無償で貸してくれたものの三つがあるという)。伊達は壇上最前線の中心に位置取り、マイクを軽く叩きながら音量調整をしている。あいつが歌う四人組のバンドなのだろうか。
「ほら樋口、特等席行きなって」
いつの間にか私の後ろに回り込んでいたナイキのシャツの品川が、私の背中を舞台前方に向かって押す。本人に面と向かって質問するまでもなく、彼女と私たちの間の確執はなくなっていたようだ。
舞台正面で体育座りする私がこの会の現状把握に戸惑っているうちに、舞台上の生徒は演奏の準備を終えていた。伊達は一番目立つ最前列のセンターでスタンドマイクの前に立っており、やはり彼がボーカルをするようだった。
彼はまさにバンドのリーダーであるかのように、いつも通りのノリのよさを見せつけながら宣言する。
「それじゃあ聴いてくれ! ボーカル俺、ギター川野、ベース志村、ドラム大河内で! 『カサブタ』(作詞、作曲千綿ヒデノリの曲である)!」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
光のもとで1
葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。
小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。
自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。
そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。
初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする――
(全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます)
10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。
フリー声劇台本〜モーリスハウスシリーズ〜
摩訶子
キャラ文芸
声劇アプリ「ボイコネ」で公開していた台本の中から、寄宿学校のとある学生寮『モーリスハウス』を舞台にした作品群をこちらにまとめます。
どなたでも自由にご使用OKですが、初めに「シナリオのご使用について」を必ずお読みくださいm(*_ _)m
月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き
星来香文子
キャラ文芸
【あらすじ】
煌神国(こうじんこく)の貧しい少年・慧臣(えじん)は借金返済のために女と間違えられて売られてしまう。
宦官にされそうになっていたところを、女と見間違うほど美しい少年がいると噂を聞きつけた超絶美形の王弟・令月(れいげつ)に拾われ、慧臣は男として大事な部分を失わずに済む。
令月の従者として働くことになったものの、令月は怪奇話や呪具、謎の物体を集める変人だった。
見えない王弟殿下と見えちゃう従者の中華風×和風×ファンタジー×ライトホラー
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
読まれるウェブ小説を書くためのヒント
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
エッセイ・ノンフィクション
自身の経験を踏まえつつ、読まれるための工夫について綴るエッセイです。
アルファポリスで活動する際のヒントになれば幸いです。
過去にカクヨムで投稿したエッセイを加筆修正してお送りします。
作者はHOTランキング1位、ファンタジーカップで暫定1位を経験しています。
作品URL→https://www.alphapolis.co.jp/novel/503630148/484745251
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる