イレブン

九十九光

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♯16ー4

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しれない。自分だけが彼の真相を知り、逆に目の前には事の次第を何も知らない素人。この状況が、私に妙な勇気を与えてくれたのかもしれない。

「……。あんた。やっぱり教師には向いてないわ」

 私は内田庵にそう言った。

「ああ!? てめえ何を急に」

「そこだよ。あんたは感情的になって、時間をかけて熟考することもしないで、自分の思ったことをその場の勢いだけで口にしたり行動に移したりする。今回のこともそうだし、石井や松田の時もそうだ」

「……! あいつらが今どうしてるのか知ってるのか」

「あまり詳しいことは知らない。大方の予想はついてるけど、教えられない」

 私がわざとらしく冷たく説明すると、内田庵はこれ以上の質問と反論をしなくなった。どうやら彼、彼女らは、内田庵の元を何も言わずに離れたらしい。

「話の続きをしようか。大学時代のあんたは、教授の姿勢が気に食わなくてやめたんだってね。その時あんたいくつだった?」

「……。十九」

「じゃあ教育実習もしてないわけか(教育実習は四年生の五月か九月にやる)。実際に現場に足を運ぶ機会まで待てなかった人間に、教師ができるとはとても思えないね。教師ってのは、どんだけ嫌いな生徒とも、単純に考えると中学高校なら三年は一緒にいなきゃならない。保護者で考えれば、兄弟を通して長ければ十年近いつき合いになることもある。長い目で見て、その場の感情だけで何もかもダメにしない忍耐力がいるんだよ。それをあんたは、たったの一年や二年で見切りをつけた、こんなのがとてもいい先生になれるとは思えない。中教やめたのは正解だったかもね」

 私は内田庵に背中を向けて、自分の車に向かって足を進めた。

 当然、こんなことをすれば周囲の人たちは唖然とし、内田庵も黙ってはいない。

「待てよ! あんたはこれからのことどう考えてんだよ! ただ単に教育委員会からの指示に従っただけじゃ、平治のためには絶対ならねえぞ! そんなに上からの指示を聞くのが大事なのかよ! そんなに教育委員会が大事なのかよ!」

「ホントに教員の勉強してたの? 教育委員会ってのは、私たち現場の人間の給料や配属、教材や給食の管理をする、いわば事務方。確かに私たちの職場の管理をしてるから、上司に相当すると言っても間違いじゃない機関だけど、私たちの教育方針に口出しするような機
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