イレブン

九十九光

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♯16ー2

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「……。ありがとう。無理をして昔のことを話してくれて」

 内田は無言のまま、頭を一回だけ縦に振った。その表情はまだまだ曇っていたが、私のやるべきことは決まっている。

「……。おじいちゃんたちのとこに帰るか」

 この私の提案に、内田はやはり無言で首を縦に振った。

 内田が乗ってきた自転車を階段から上に持っていくのを面倒くさがった私は、その場で石井母に電話をかけ、Hテレビジョンの車を一台ここまで持ってこさせた。文化会館の正面玄関までは、それから十分とかからなかった。

 そして勤労文化会館の駐車場。数十分ぶりに彼と再会した内田夫妻は、泣きながら彼に抱きついた。信子さんは、「何やってんのよ、まったく!」と悪態をつきながら、穣一さんは、「先生に謝れ! 迷惑ばっかりかけやがって!」と、やはり同じようにお説教の言葉を述べている。だが両目に涙を溜め込んでいることを考えると、心の底からそう思っているのかはかなり怪しい。抱きつかれている当の本人は、いつも通りのポーカーフェイスである。まあ、いくらこれだけの大事件が起きたからと言って、人間がそう簡単に変わるわけがないということだろう。

「よかったですね。平治君戻ってきて」

 物思いにふける私に後ろから話しかけてきたのは、ハンカチ片手に涙を流している真栄田さんだった。

 聞けば彼女、私が内田の話を聞いている間、文化会館東側の住宅地の中を探し回っていたという。当然、「平治くーん! どこにいるのー!」と、大声をあげながら。大女優が名もない住宅地の中でそんなことして大丈夫だったのだろうか。パニックになりながらも彼女の本気の涙に心打たれて協力した住人たちの表情が目に浮かぶ。

「あの……。樋口先生……」

 その真栄田さんの後ろから、心身ともに疲れきった様子の長谷川さんが話しかけてきた。間違いなく彼も内田の捜索に駆り出されたのだろう。彼の番組のロケなのだから、やってもらわないと困るくらいだ。

 長谷川さんは着ているシャツの襟元をあおぎながら、こんな確認事項をしてきた。

「平治君への……、インタビューは……」

 やっとのことで絞り出した、という感じのこの言葉を聞いて、私はため息をつきたくなった。これだけの大事件を起こしたのだから、何か月間を開けようとインタビューは不可能に
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