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♯14ー11
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という長谷川さんの諦めの言葉ののち、彼と真栄田さんの話し合いが行われた。驚きを隠せない真栄田さんが壊れたおもちゃのように首を縦に動かし、こちらはものの一分ほどで終わった。
「それでは内田さんご夫婦にお尋ねしますが……。亡くなった息子さんはどういった方だったんですか」
撮影再開後、真栄田さんの口からすぐに飛び出したこのセリフに、私は非常に分かりやすい路線変更の意思を感じ取った。内田からテレビで使える発言を取るのは不可能と考え、空気を読んでくれそうなこの夫婦に対象を変更したらしい。
質問には信子さんが答えた。
「え、ええ……。人懐っこい、とてもいい子で」
「嘘ばっか。絶縁状態だったくせに」
内田が信子さんの言葉を遮るように口をはさむ。再び室内に「カット!」の言葉が響き渡り、長谷川さんが内田のもとに駆け寄った。
「平治君! そういうこと言うのやめてよ!」
「事実が知りたいって言ったのはそちらじゃないですか」
「確かにそうだけど……」
再びこのような押し問答が五分ほど続き、またしても真栄田さんが撮影班と打ち合わせを始めた。
それにしても分からないのは内田の目的だ。今までの冷たい発言は、他人との距離を置くためのものだったと推察できるが、今回のインタビューでそういうことができるとは思えない。彼が父親に性的暴行されたという話をテレビでするのは不可能だと知っていることも、四か月近く一緒にいれば普通に想像できる。この少年がわざわざ空気を読んで思ってもいないことを口にし、祖父母や私のご機嫌を取ろうとするとも考えられない。するとなぜ、今回のインタビューを受けようと思ったのかが余計分からなくなる。今さら遅い気もするが、この時の私にはそんな疑問がよぎっていた。
「それでは樋口先生。平治君の学校での様子はどうですか」
気がつくと真栄田さんは自分の席に戻り、私に対して質問をぶつけてきた。私は「え? あ、はい。そうですね……」と最初につけて、その後のセリフを思案し始めた。
ここで今の東中の現状をありのまま伝えるのは非常にまずい。かといって「内田は最初は落ち込んでましたけど、今ではクラスのみんなと打ち解けてうまいことやってます」みたい
「それでは内田さんご夫婦にお尋ねしますが……。亡くなった息子さんはどういった方だったんですか」
撮影再開後、真栄田さんの口からすぐに飛び出したこのセリフに、私は非常に分かりやすい路線変更の意思を感じ取った。内田からテレビで使える発言を取るのは不可能と考え、空気を読んでくれそうなこの夫婦に対象を変更したらしい。
質問には信子さんが答えた。
「え、ええ……。人懐っこい、とてもいい子で」
「嘘ばっか。絶縁状態だったくせに」
内田が信子さんの言葉を遮るように口をはさむ。再び室内に「カット!」の言葉が響き渡り、長谷川さんが内田のもとに駆け寄った。
「平治君! そういうこと言うのやめてよ!」
「事実が知りたいって言ったのはそちらじゃないですか」
「確かにそうだけど……」
再びこのような押し問答が五分ほど続き、またしても真栄田さんが撮影班と打ち合わせを始めた。
それにしても分からないのは内田の目的だ。今までの冷たい発言は、他人との距離を置くためのものだったと推察できるが、今回のインタビューでそういうことができるとは思えない。彼が父親に性的暴行されたという話をテレビでするのは不可能だと知っていることも、四か月近く一緒にいれば普通に想像できる。この少年がわざわざ空気を読んで思ってもいないことを口にし、祖父母や私のご機嫌を取ろうとするとも考えられない。するとなぜ、今回のインタビューを受けようと思ったのかが余計分からなくなる。今さら遅い気もするが、この時の私にはそんな疑問がよぎっていた。
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