イレブン

九十九光

文字の大きさ
上 下
151 / 214

♯14ー4

しおりを挟む
 意外だと思う前に、私はこれをまず、間違い電話か詐欺の電話だと考えた。こんな辺境の地で中学校教師をやっている私に、全国区のテレビ番組の名前をうたうところから電話が来るなんて、信じようがなかったからだ。

 私は素直にそのアドレスにかけ直さず、Hテレビジョンのホームページをその場で確認し、番組の窓口の電話番号を調べ、そこに電話をかけた。この番組の名前で募金を勧める詐欺があることを知っていたからだ。

 二コール目で明るい男性の声が電話に出てきた。

「はい、こちら、Hテレビジョン 三十時間TV、電話応対サービスでございます」

「あ、私、本日午後三時半頃にお電話をいただいた、樋口明美という者ですが……」

「樋口様……、ですね。ただいま担当の者に確認させますので、少々お待ちくださいませ」

 そう言って男性の声は消え、番組テーマ曲のイントロが聞こえてきた。私は右手でケータイを耳にあてがったまま、コンビニのレジ袋から唐揚げ弁当を取り出す。そのまま片手でどうにかして電子レンジに弁当を入れて温めを開始した。体内時計の乱れというのを気にしない私は、最近は六時頃に晩ご飯を食べることにしていた。

 その電子レンジでの温め作業が終わるのとほぼ同時に、先ほどの明るい男性の声が返ってきた。

「お待たせいたしました。愛知県知多市在住の、樋口明美様でいらっしゃいますね。こちらの番組ディレクターからの、当番組へのご出演のご依頼のお電話でございます」

「出演!? 私がですか!?」

 出演という言葉にあっけにとられた私は、思わず電話の向こうの男性に短い確認の疑問をした。

 その後明るい男性の声は、「今から担当の者とお電話を替わってもよろしいでしょうか」と尋ねてくる。余計に怪しくなり始めてきたが、私は訳も分からずそれを承諾してしまった。

 そこからさらに数十秒間、番組のテーマソングを聞きながらフローリングの上であぐらをかいて待っていると、今度は低い男性の声が電話に出てきた。

「お待たせしました。 Hテレビジョン 三十時間TVでディレクターをしております、長谷川祐樹と申します」

「あ、はい、樋口明美です……」

 私がまだ状況を理解できないでいるのを知ってか知らずか、長谷川と名乗った男は淡々と話を進めてくる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

〈第一部完・第二部開始〉目覚めたら、源氏物語(の中の人)。

詩海猫
キャラ文芸
ある朝突然目覚めたら源氏物語の登場人物 薫大将の君の正室・女二の宮の体に憑依していた29歳のOL・葉宮織羽は決心する。 この世界に来た理由も、元の体に戻る方法もわからないのなら____この世界の理(ことわり)や思惑など、知ったことか。 この男(薫)がこれ以上女性を不幸にしないよう矯正してやろう、と。 美少女な外見に中身はアラサー現代女性の主人公、誠実じゃない美形の夫貴公子、織羽の正体に勘付く夫の同僚に、彼に付き従う影のある青年、白い頭巾で顔を覆った金の髪に青い瞳の青年__謎だらけの物語の中で、織羽は生き抜き、やがて新たな物語が動き出す。 *16部分「だって私は知っている」一部追加・改稿いたしました。 *本作は源氏物語ではありません。タイトル通りの内容ではありますが古典の源氏物語とはまるで別物です。詳しい時代考証などは行っておりません。 重ねて言いますが、歴史小説でも、時代小説でも、ヒューマンドラマでもありません、何でもありのエンタメ小説です。 *平安時代の美人の定義や生活の不便さ等は忘れてお読みください。 *作者は源氏物語を読破しておりません。 *第一部完結、2023/1/1 第二部開始 !ウイルスにやられてダウンしていた為予定通りのストックが出来ませんでした。できる範囲で更新していきます。

幼馴染はとても病院嫌い!

ならくま。くん
キャラ文芸
三人は生まれた時からずっと一緒。 虹葉琉衣(にじは るい)はとても臆病で見た目が女の子っぽい整形外科医。口調も女の子っぽいので2人に女の子扱いされる。病院がマジで嫌い。ただ仕事モードに入るとてきぱき働く。病弱で持病を持っていてでもその薬がすごく苦手 氷川蓮(ひかわ れん)は琉衣の主治医。とてもイケメンで優しい小児科医。けっこうSなので幼馴染の反応を楽しみにしている。ただあまりにも琉衣がごねるととても怒る。 佐久間彩斗(さくま あやと)は小児科の看護師をしている優しい仕事ができるイケメン。琉衣のことを子供扱いする。二人と幼馴染。 病院の院長が蓮でこの病院には整形外科と小児科しかない 家は病院とつながっている。

いま、あなたに逢いたい

星ふくろう
キャラ文芸
 羊の手。  それは十六歳から十八歳の間に発症する奇病の俗称。  左手の甲に羊の頭のような黒い痣が出た者は、痣が黒から赤くなり、また黒くなった日にこの世から消滅する。  西出かな。十六歳。  バーチャルリアリティーゲームの中で出会った青年、きよはるとゲーム内で何気ない会話をして別れる、そんな日常を受験勉強の息抜きにしていた彼女の左手に、ある冬の日の朝。  羊の手が現れる。  他の投稿サイトにも掲載しています。

侯爵様と私 ~上司とあやかしとソロキャンプはじめました~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 仕事でミスした萌子は落ち込み、カンテラを手に祖母の家の裏山をうろついていた。  ついてないときには、更についてないことが起こるもので、何故かあった落とし穴に落下。  意外と深かった穴から出られないでいると、突然現れた上司の田中総司にロープを投げられ、助けられる。 「あ、ありがとうございます」 と言い終わる前に無言で総司は立ち去ってしまい、月曜も知らんぷり。  あれは夢……?  それとも、現実?  毎週山に行かねばならない呪いにかかった男、田中総司と萌子のソロキャンプとヒュッゲな生活。

あやかし神社へようお参りです。

三坂しほ
キャラ文芸
「もしかしたら、何か力になれるかも知れません」。 遠縁の松野三門からそう書かれた手紙が届き、とある理由でふさぎ込んでいた中学三年生の中堂麻は冬休みを彼の元で過ごすことに決める。 三門は「結守さん」と慕われている結守神社の神主で、麻は巫女として神社を手伝うことに。 しかしそこは、月が昇る時刻からは「裏のお社」と呼ばれ、妖たちが参拝に来る神社で……? 妖と人が繰り広げる、心温まる和風ファンタジー。 《他サイトにも掲載しております》

あばらやカフェの魔法使い

紫音
キャラ文芸
ある雨の日、幼馴染とケンカをした女子高生・絵馬(えま)は、ひとり泣いていたところを美しい青年に助けられる。暗い森の奥でボロボロのカフェを営んでいるという彼の正体は、実は魔法使いだった。彼の魔法と優しさに助けられ、少しずつ元気を取り戻していく絵馬。しかし、魔法の力を使うには代償が必要で……?ほんのり切ない現代ファンタジー。

桜夜 ―桜雪の夜、少女は彼女の恋を見る―

白河マナ
キャラ文芸
桜居宏則は3年前に亡くなった友人の墓参りのためバイクを走らせていた。しかしその途中で崖下の川に転落して濁流に飲み込まれてしまう。どうにか川岸にたどり着いたものの辺りには家もなく、ずぶ濡れの身体に追い打ちをかけるように空からは雪が降りはじめていた。意識が朦朧とする中、ふらふらと彷徨っていると桜の巨木に行きつく。夜、桜の花びらと雪――幻想的な風景の中で宏則は黒髪の女性と出会う――

処理中です...