イレブン

九十九光

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♯14ー3

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 色々な意図をねじ込みすぎてよく分からない文言になっているチラシを、廃品回収用の新聞紙を固めて置いている場所に放り込むと、私はテーブル上にあるリモコンのスイッチを入れてテレビをつけた。相変わらず震災関係のニュースは原発の稼働や安全点検に関する話ばかり。そこにつけ足すようになでしこジャパンの勇姿と、その影響で子供が急増したサッカークラブや、売り上げの上がったボールやシューズの紹介がされていた。今朝の朝刊も同じような内容だったことを考えると、報じる内容やメディアに伝える情報が多少選別されている節はありそうだ。

 代り映えしない遠方の事柄に関する話しかしないテレビを切ると、私はノソノソ歩いてお風呂に向かった。

 ほかの人は大抵、十数分待って湯船を満たしてから服を脱ぐか、湯船につからずにシャワーだけで済ませる場合がほとんどだろう。私の場合は、シャワーを浴びて髪や体を洗っている間に給湯器で湯船を満たし、最後にゆっくりと湯船に浸かるという生活を、一人暮らしを始めてからずっと続けていた。普通の入浴方法と比べて、このやり方だとガス料金が高くつくらしいが、ほかに出費したい物事があるわけでもなく、老後のことを考えるような質でもないので、そこまで気になったということもなかった。それより気になったのは、この時使っていたヘアリンスを買った薬局でのキャンペーンだった。やはりここも復興応援を掲げ、売り上げの一パーセントを被災地に寄付するというものである。

 こうしてまだ午後五時半だというのにパジャマに着替えた私は、携帯電話の充電をしていないことに気がついた。リビングに戻った私は、乱暴に投げ捨てたカバンの中から一台のガラケーを取り出すと、テレビ横のコンセントに差し込んである充電器のもとへ向かう。

 その充電器をケータイに差し込もうとした時に気がついた。ケータイのランプが緑色に点滅し、一本の通話が保留状態になっていたのである。

 仕事中にかかってきたと思われるが、珍しいこともあるものだという気持ちのほうが先に現れた。私のケータイには、同じ三年生の担当の先生と山口の父親のアドレス以外登録していない。そして迷惑な詐欺の電話がかかる原因であるワンクリック詐欺のサイトに入ることもない。要は私の生活において、携帯電話が電話としての機能を果たすことは大変珍しいことなのである。

 私はガラケーを開いて電話の主を確認しにかかった。滅多に使わない機能に四苦八苦しながら確認画面を開くと、横書きでこのように記されていた。

『15:33 Hテレビジョン 三十時間TV』
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