112 / 214
♯10ー7
しおりを挟む
ですか。しかも一つは、保護者が裏で糸を引いていたことが生徒にも知れている。家に行って怒ったところで、何も変わらないと私は思うんですけども……」
「そんな言い方ないだろ、佐藤君!」
頭を押さえて意見を述べる佐藤先生に、勢い余って『君』づけになった新貝先生が声を上げた。
「これから問題解決って時に水を差すようなこと……! 自分が二組の担任じゃないからってまるで他人事みたいに」
「私も佐藤先生と同意見です」
新貝先生の言葉を遮ったのは、深沢先生だった。
「子供は理由なくふざけない。面白いことがないから、気に入らないことがあるからふざけるのよ。たった一回の家庭訪問でなんとかなるほど、この問題は単純じゃないわ」
深沢先生の言葉には貫禄があった。あと二年で定年退職というところまできた先生の面目躍如というべきか、この状況に対して冷静に見ているようにも感じられた。
小林先生が口論の総括を述べた。
「すでに決まったことを今さら撤回するのは、保護者の方々にかえって迷惑ですし、何もしないわけにはいきません。家庭訪問は予定通り行いますので、何か進展がありましたら連絡します」
この身もふたもない話を最後に、臨時職員会議は十分かからずにお開きになった。
さっそく私と小林先生が、各家庭での質問内容の最後の擦り合わせを行っている時。天草先生は湯気の立つマグカップを二つ持って、私たちに向かってこう言った。
「まるでドラマみたいですね。今期の三年生。……。うちのクラスも、最近よく騒ぐようになったって感じるんですよ」
そして六月十八日の土曜日の午前七時半。私は珍しく、休みの日に東中の校門をくぐった。
中学校教師という仕事は、私のようにルーズな文化部の顧問でもない限り、土日返上で部活動の指導をするのが当たり前である。そこに遠征の交通費や宿泊費の一部を自腹しないといけないとくるのだから、民間企業なら労働基準法違反で訴えられるほどの劣悪な環境だ。職員用の玄関でもある校舎西側の昇降口の前でランニングする野球部員の監督をしている佐藤先生を見ていると、自分がパソコン部の顧問で本当によかったと心底思う。
職員室で合流してから、私と小林先生は「おはようございます」などの儀式的な挨拶を交わしただけで、それ以上の会話はしなかった。お互い心身ともに疲れている証拠だ。実際、
「そんな言い方ないだろ、佐藤君!」
頭を押さえて意見を述べる佐藤先生に、勢い余って『君』づけになった新貝先生が声を上げた。
「これから問題解決って時に水を差すようなこと……! 自分が二組の担任じゃないからってまるで他人事みたいに」
「私も佐藤先生と同意見です」
新貝先生の言葉を遮ったのは、深沢先生だった。
「子供は理由なくふざけない。面白いことがないから、気に入らないことがあるからふざけるのよ。たった一回の家庭訪問でなんとかなるほど、この問題は単純じゃないわ」
深沢先生の言葉には貫禄があった。あと二年で定年退職というところまできた先生の面目躍如というべきか、この状況に対して冷静に見ているようにも感じられた。
小林先生が口論の総括を述べた。
「すでに決まったことを今さら撤回するのは、保護者の方々にかえって迷惑ですし、何もしないわけにはいきません。家庭訪問は予定通り行いますので、何か進展がありましたら連絡します」
この身もふたもない話を最後に、臨時職員会議は十分かからずにお開きになった。
さっそく私と小林先生が、各家庭での質問内容の最後の擦り合わせを行っている時。天草先生は湯気の立つマグカップを二つ持って、私たちに向かってこう言った。
「まるでドラマみたいですね。今期の三年生。……。うちのクラスも、最近よく騒ぐようになったって感じるんですよ」
そして六月十八日の土曜日の午前七時半。私は珍しく、休みの日に東中の校門をくぐった。
中学校教師という仕事は、私のようにルーズな文化部の顧問でもない限り、土日返上で部活動の指導をするのが当たり前である。そこに遠征の交通費や宿泊費の一部を自腹しないといけないとくるのだから、民間企業なら労働基準法違反で訴えられるほどの劣悪な環境だ。職員用の玄関でもある校舎西側の昇降口の前でランニングする野球部員の監督をしている佐藤先生を見ていると、自分がパソコン部の顧問で本当によかったと心底思う。
職員室で合流してから、私と小林先生は「おはようございます」などの儀式的な挨拶を交わしただけで、それ以上の会話はしなかった。お互い心身ともに疲れている証拠だ。実際、
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
妖しい、僕のまち〜妖怪娘だらけの役場で公務員やっています〜
詩月 七夜
キャラ文芸
僕は十乃 巡(とおの めぐる)。
降神町(おりがみちょう)役場に勤める公務員です。
この降神町は、普通の町とは違う、ちょっと不思議なところがあります。
猫又、朧車、野鉄砲、鬼女…日本古来の妖怪達が、人間と同じ姿で住民として普通に暮らす、普通じゃない町。
このお話は、そんなちょっと不思議な降神町で起こる、僕と妖怪達の涙あり、笑いありの物語。
さあ、あなたも覗いてみてください。
きっと、妖怪達と心に残る思い出ができると思います。
■表紙イラスト作成:魔人様(SKIMAにて依頼:https://skima.jp/profile?id=10298)
未亡人クローディアが夫を亡くした理由
臣桜
キャラ文芸
老齢の辺境伯、バフェット伯が亡くなった。
しかしその若き未亡人クローディアは、夫が亡くなったばかりだというのに、喪服とは色ばかりの艶やかな姿をして、毎晩舞踏会でダンスに興じる。
うら若き未亡人はなぜ老齢の辺境伯に嫁いだのか。なぜ彼女は夫が亡くなったばかりだというのに、楽しげに振る舞っているのか。
クローディアには、夫が亡くなった理由を知らなければならない理由があった――。
※ 表紙はニジジャーニーで生成しました
秘伝賜ります
紫南
キャラ文芸
『陰陽道』と『武道』を極めた先祖を持つ大学生の高耶《タカヤ》は
その先祖の教えを受け『陰陽武道』を継承している。
失いつつある武道のそれぞれの奥義、秘伝を預かり
継承者が見つかるまで一族で受け継ぎ守っていくのが使命だ。
その過程で、陰陽道も極めてしまった先祖のせいで妖絡みの問題も解決しているのだが……
◆◇◆◇◆
《おヌシ! まさか、オレが負けたと思っておるのか!? 陰陽武道は最強! 勝ったに決まっとるだろ!》
(ならどうしたよ。あ、まさかまたぼっちが嫌でとかじゃねぇよな? わざわざ霊界の門まで開けてやったのに、そんな理由で帰って来ねえよな?)
《ぐぅっ》……これが日常?
◆◇◆
現代では恐らく最強!
けれど地味で平凡な生活がしたい青年の非日常をご覧あれ!
【毎週水曜日0時頃投稿予定】
太陽と月の終わらない恋の歌
泉野ジュール
キャラ文芸
ルザーンの街には怪盗がいる──
『黒の怪盗』と呼ばれる義賊は、商業都市ルザーンにはびこる悪人を狙うことで有名だった。
夜な夜な悪を狩り、盗んだ財産を貧しい家に届けるといわれる黒の怪盗は、ルザーンの光であり、影だ。しかし彼の正体を知るものはどこにもいない。
ただひとり、若き富豪ダヴィッド・サイデンに拾われた少女・マノンをのぞいては……。
夜を駆ける義賊と、彼に拾われた少女の、禁断の年の差純愛活劇!
月宮殿の王弟殿下は怪奇話がお好き
星来香文子
キャラ文芸
【あらすじ】
煌神国(こうじんこく)の貧しい少年・慧臣(えじん)は借金返済のために女と間違えられて売られてしまう。
宦官にされそうになっていたところを、女と見間違うほど美しい少年がいると噂を聞きつけた超絶美形の王弟・令月(れいげつ)に拾われ、慧臣は男として大事な部分を失わずに済む。
令月の従者として働くことになったものの、令月は怪奇話や呪具、謎の物体を集める変人だった。
見えない王弟殿下と見えちゃう従者の中華風×和風×ファンタジー×ライトホラー
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
ガダンの寛ぎお食事処
蒼緋 玲
キャラ文芸
**********************************************
とある屋敷の料理人ガダンは、
元魔術師団の魔術師で現在は
使用人として働いている。
日々の生活の中で欠かせない
三大欲求の一つ『食欲』
時には住人の心に寄り添った食事
時には酒と共に彩りある肴を提供
時には美味しさを求めて自ら買い付けへ
時には住人同士のメニュー論争まで
国有数の料理人として名を馳せても過言では
ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が
織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。
その先にある安らぎと癒やしのひとときを
ご提供致します。
今日も今日とて
食堂と厨房の間にあるカウンターで
肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める
ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。
**********************************************
【一日5秒を私にください】
からの、ガダンのご飯物語です。
単独で読めますが原作を読んでいただけると、
登場キャラの人となりもわかって
味に深みが出るかもしれません(宣伝)
外部サイトにも投稿しています。
《完》ようこそ、願い叶える『あやかし書堂』へ
桐生桜月姫
キャラ文芸
ここは隔離世に存在するとても不思議な本屋さん。
名を「あやかし書堂」といふ。
この本屋さんが不思議と言われる理由は大きく2つある。
1つは、“選ばれた”お客様しか辿り着けない事。
そして、もう1つは、…… “必ず”お客様の願いを叶えること……。
願いあるのもよ、あやかし書堂を目指し、隔離世を彷徨うが良い。
もし、たどり着けたのならば、店主である妖狐が願いを聞き入れ、叶える手助けをしてくれるだろう。
だが、願いを叶えて幸せになれるか、なれないかは本人次第だ。
あくまで「あやかし書堂」は願いを叶えるだけである……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる