イレブン

九十九光

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♯10ー3

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 そして教室内の変化はすぐに感じられた。

 授業開始五分もしないうちに、教室内が複数人による私語でざわつき始めたのである。聖徳太子ではない私には、それら一つ一つがどんな内容かはまったく分からないが、これがおかしなことだということくらいはすぐに分かった。四組の授業中、ここの生徒がこれほど露骨に声を上げることは一度だってなかったからだ。

「おーい、どうしたー? 少し騒がしいぞー」

 私は二組でもやった選挙権に関する図解の板書をストップして、生徒たちの方向に顔を向ける。表情がはっきりと分かる前側の席に座る生徒は、疲れているのか不満なことがあるのか、なんだかはっきりとしない表情をしていた。

 その体勢のまま私は、室内がざわついた理由を少し考えた。ついさっき彼、彼女らが授業中に見た光景を考えればすぐに想像がついた。

「まあ、さっきの授業であんなもの見ちゃったら、気になって仕方ないか。溺れた内田なら、そんなに大事にはならなかったし、さっき自分で歩いて保護者の車に乗ってったよ。たぶん明日も普通に学校来れるから、気にしないで授業に集中して」

 私は三十人あまりいる四組の生徒たちにそう説明すると、改めて背中を向けて板書を再開した。

 その後、生徒が声を上げることはなくなった。だがあのプラスのイメージのしない表情は変わることがなく、いやに緊張させられる授業だった。まあ、二組と違ってゲーム機や漫画が出てこなかったのはよかったが。この時の私の心情を端的に表せば、この変化を一過性のものと考え、そこまで深刻に考えていなかった、ということである。

 そんな私の考えとは裏腹に、生徒の中で起きていた変化は想像以上に深刻だったことを、私はこのあとすぐに思い知らされることになる。

 内田の容態を報告した二組での帰りのホームルームのあと、私はパソコン部の顧問のために四階のパソコン室へ向かった。伊藤の欠席につき、部日誌を二年生の副部長に任せると、いつものように部活となんの関係もない事務作業に没頭する。その最中の出来事である。

「樋口先生! 二組の吹奏楽部の生徒知りませんか!」

 血相を変えて出入り口を開け放ったのは、隣の音楽室で吹奏楽部の顧問をしているはずの天草先生だった。

 パソコン部の生徒と一緒になって彼の顔に視線を向ける私には、このセリフの意味がすぐに理解できなかった。井上とか、特定の生徒の名前を挙げるのであれば理解できるのだが、
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