イレブン

九十九光

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♯9ー5

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ぶ松田の反省文と、原稿用紙半分ほどの石井の反省文を受け取ったあとで、二組の教室で一時間目の社会の授業が始まった。

 この日の内容は、選挙権と被選挙権に関する話。まだ選挙権が二十歳からの時代の話なので、授業の内容もそれに合わせたものになっている。教材の図解を丸暗記すれば問題ない箇所なので、私は「これ、書いて覚えなさいよ」と言って、生徒に背中を向けて問題の図を黒板に簡略化して書いていた。

 この間、後ろからはいつも通りの生徒の私語が聞こえてきていた。井上と品川らしき二人の女子の会話に、石井と湯本らしき二人の男子の会話など、聖徳太子じゃないと聞き分けられそうにない複数の会話が聞こえてきた。このクラスも三か月目になってくると、このやかましい私語も気にならなくなる。どうせ不真面目に授業受けて内申に響いてあとで困るのは彼らだし、言っても聞かないとなると、いちいち授業を中断して注意する気も起きなくなる。怒られているうちが花とはよく言ったものだ(言われるうちが花とか、言ってもらえるうちが花とか、色々な言い回しがあるらしい)。

 このざわつきを一気に沈めたのは私の不注意だった。私は結構最初のほうに書いた、被選挙権の『被』の字を『彼』と書いていたことに気づいたのである。

「あー、ちょっと待って! ストップストップ!」

 私は生徒の方向に向き直り、声を張り上げて全員の書き写しを中断させた。当然、この突然の大声ですべての生徒が話を中断して、一斉に私に向かって顔を上げることになる。

 こうして数秒間だけできた静かな時間に、問題は発生した。

 席替えで窓際後方に移っていた内田が急に席を立ち上がったのだ。それも襟首を誰かに勢いよく引っ張られたように、椅子を後ろへ突き飛ばして立ち上がった。

 教室内の視線が一斉に内田に向かう。私が確認した彼の顔は、明らかに動揺しているものだった。

「……。平治君?」

 内田の後方に座っていた孫入が、驚きと恐怖が入り混じった感じの声を出した。

「……。いえ、なんでもありません。すみません」

「揺れた? 今」

 私は座ろうとした内田に、ストレートな質問をした。

「……。いえ、大丈夫です。すみませんでした」

 内田はそれ以上何も言わなかった。私もしばらく考えてから誤字の訂正をしたが、この初
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