イレブン

九十九光

文字の大きさ
上 下
100 / 214

♯9ー4

しおりを挟む
協力してくれる気がしない。まだ朝の八時台だというのに、気だるさを全身に感じてしまう。

 私が引き戸の閉めきられた二組の教室の前に行くと、部屋の中から生徒たちのバカ騒ぎの笑い声が聞こえてくる。とっくに『席に着け』と知らせる予鈴は鳴っているのに、相変わらず落ち着きのない集団だ。

「ほら、全員静かに」

 私は引き戸を開けながら事務的な意味全開で注意喚起をしつつ教室内に入った。

 そこで何に驚いたかと言えば、椅子と机に足を乗せて立ち、「クラスのみんなには、内緒だよ!」とふざけている山本ではない。伊藤や諸田などと一緒に、今まで皆勤だった原田がいなかったのだ。当然、驚いたということは彼の家から欠席連絡を受けていないという意味にほかならない。あのクラス一番の優等生が無断欠席をしたのである。

「誰か、原田がどうしたか知らない?」

 教卓についた私はクラス全体を見渡しながら質問する。石井、松田、内田と、ドラマの中心になってくれそうな生徒は全員揃っていた。

「里穂の次はアンパンマンがズル休みか」

「あのアンパンマン、元気百倍じゃねえのかよー!」

 伊達と湯本が理由ではなく、茶化すようなことを口にした。

 面長の顔をした原田のあだ名がアンパンマンなのは置いておくとして、このタイミングでの原田の無断欠席は松田の時以上に深刻な問題だ。松田の場合は家の問題だと予想できたので、こちらは全力で問題解決に臨むだけでよかった。だが原田の場合は、今のところこちらで予想できる理由が、山田先生による内田平治との強引な距離の遠ざけ以外、考えようがなかった。つまり、我々教員のせいで不登校にさせた可能性が浮上したのだ。

 自分のせいではないにせよ、日本伝統の連帯責任という言葉によって、私も一緒に責任を取らされる可能性は充分にあった。何より原田ほどのよくできた生徒が今の三人二組からいなくなると、このクラス全体の雰囲気の悪化が起きるのでは、という懸念が私の中にはあった(もう充分悪くなっているとは思うが)。とにかくこの問題は早急に解決しなければならないと、この時の私は一人心の中で焦っていた。

 ちなみに一時間目開始の五分前に、「頭が痛いそうなので今日は休ませます」という原田母からの電話が職員室からの内線で入ってきた。家のほうで色々バタバタしたらしく、連絡が遅れたとのことだった。

 その後、予想通り文化祭のゲスト講演の内容を生徒たちにバカにされ、原稿用紙五枚に及
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝
キャラ文芸
とある街に住む、小学二年生の女の子たち。 ヤマダミヨとコヒニクミコがおりなす、小粒だけどピリリとスパイシーな日常。 子どもならではの素朴な疑問を、子どもらしからぬ独断と偏見と知識にて、バッサリ切る。 そこには明確な答えも、確かな真実も、ときにはオチさえも存在しない。 だって彼女たちは、まだまだ子ども。 ムズかしいことは、かしこい大人たち(読者)に押しつけちゃえ。 キャラメル色のくせっ毛と、ニパッと笑うとのぞく八重歯が愛らしいミヨちゃん。 一日平均百文字前後で過ごすのに、たまに口を開けばキツめのコメント。 ゆえに、ヒニクちゃんとの愛称が定着しちゃったクミコちゃん。 幼女たちの目から見た世界は、とってもふしぎ。 見たこと、聞いたこと、知ったこと、触れたこと、感じたこと、納得することしないこと。 ありのままに受け入れたり、受け入れなかったり、たまにムクれたり。 ちょっと感心したり、考えさせられたり、小首をかしげたり、クスリと笑えたり、 ……するかもしれない。ひとクセもふたクセもある、女の子たちの物語。 ちょいと覗いて見て下さいな。

僕と死神の癒しご飯と最後の手紙

山いい奈
キャラ文芸
3年前に逝去した、真守の双子の兄拓真が、死神になって帰還した。 拓真は死神の仕事で、時折食に関する未練を残す死者に遭遇する。 普段から自炊をしている真守に協力してもらい、食べたかったものを食べてもらい、その過程で知ることができた、心に残った人に思いを伝えることができた。 ところがある日……

愚者の園【第二部連載開始しました】

木原あざみ
キャラ文芸
「化け物しかいないビルだけどな。管理してくれるなら一室タダで貸してやる」 それは刑事を辞めたばかりの行平には、魅惑的過ぎる申し出だった。 化け物なんて言葉のあやで、変わり者の先住者が居る程度だろう。 楽観視して請け負った行平だったが、そこは文字通りの「化け物」の巣窟だった! おまけに開業した探偵事務所に転がり込んでくるのも、いわくつきの案件ばかり。 人間の手に負えない不可思議なんて大嫌いだったはずなのに。いつしか行平の過去も巻き込んで、「呪殺屋」や「詐欺師」たちと事件を追いかけることになり……。

【完結】えんはいなものあじなもの~後宮天衣恋奇譚~

魯恒凛
キャラ文芸
第7回キャラ文芸大賞奨励賞受賞しました。応援ありがとうございました! 天龍の加護を持つ青龍国。国中が新皇帝の即位による祝賀ムードで賑わう中、人間と九尾狐の好奇心旺盛な娘、雪玲は人間界の見物に訪れる。都で虐められていた娘を助けたまでは良かったけど、雹華たちに天衣を盗まれてしまい天界に帰れない。彼女たちが妃嬪として後宮に入ることを知った雪玲は、ひょんなことから潘家の娘の身代わりとして後宮入りに名乗りを上げ、天衣を取り返すことに。 天真爛漫な雪玲は後宮で事件を起こしたり巻き込まれたり一躍注目の的。挙句の果てには誰の下へもお渡りがないと言われる皇帝にも気に入られる始末。だけど、顔に怪我をし仮面を被る彼にも何か秘密があるようで……。 果たして雪玲は天衣を無事に取り戻し、当初の思惑通り後宮から脱出できるのか!? えんはいなものあじなもの……男女の縁というものはどこでどう結ばれるのか、まことに不思議なものである

君の名はベヒーモス

ユリーカ
キャラ文芸
 神宮環(かみみやたまき)はあるペットショップで運命の出会いをする。それはとても美しい仔猫。しかしその仔猫はとてつもない伝説のあやかしだった。  思い込みが強く能力も目覚めたばかり、しかもとんでもなく魔力が強い環と一緒に暮らす伝説のあやかしペットたちのお話。  完全にペットが苦労してます。そして集うペットが何か染まっていきます。ペットはなるべく愛らしく書こうとしてますが、これは色々想定外でした。  これはもふと違う!というご叱責、甘受します。    ===================== ※ 一つが短めなので一日3回更新(7、13、20時)していきます。→ ストックなくなったので随時更新となります〜 ※ わたくしの主観的?好みの?小ネタ表現があります。直接は言えないので色々言い換えています。でも言っちゃってるのもあります。 ※ ジャンルがキャラ文芸かファンタジーかで悩みましたが、キャラ文芸にしてみました。途中で変わってたらごめんなさい。 ※ 表紙は知り合いのノルヴェージャンフォレストキャット。この子をなでなでしてたらお話が降ってきました。猫神さまのお告げですかね。なぜベヒーモスかは謎です。 (表紙はかんたん表紙メーカーさんで作りました。ありがとうございました。)

〈第一部完・第二部開始〉目覚めたら、源氏物語(の中の人)。

詩海猫
キャラ文芸
ある朝突然目覚めたら源氏物語の登場人物 薫大将の君の正室・女二の宮の体に憑依していた29歳のOL・葉宮織羽は決心する。 この世界に来た理由も、元の体に戻る方法もわからないのなら____この世界の理(ことわり)や思惑など、知ったことか。 この男(薫)がこれ以上女性を不幸にしないよう矯正してやろう、と。 美少女な外見に中身はアラサー現代女性の主人公、誠実じゃない美形の夫貴公子、織羽の正体に勘付く夫の同僚に、彼に付き従う影のある青年、白い頭巾で顔を覆った金の髪に青い瞳の青年__謎だらけの物語の中で、織羽は生き抜き、やがて新たな物語が動き出す。 *16部分「だって私は知っている」一部追加・改稿いたしました。 *本作は源氏物語ではありません。タイトル通りの内容ではありますが古典の源氏物語とはまるで別物です。詳しい時代考証などは行っておりません。 重ねて言いますが、歴史小説でも、時代小説でも、ヒューマンドラマでもありません、何でもありのエンタメ小説です。 *平安時代の美人の定義や生活の不便さ等は忘れてお読みください。 *作者は源氏物語を読破しておりません。 *第一部完結、2023/1/1 第二部開始 !ウイルスにやられてダウンしていた為予定通りのストックが出来ませんでした。できる範囲で更新していきます。

処理中です...