イレブン

九十九光

文字の大きさ
上 下
68 / 214

♯5ー15

しおりを挟む
先生のほうに視線を向けた。「どうすんの、これ」と言いたげな表情をしている彼女の横には、この状況を報告してくれた松田、気になって様子を見に来たらしい三島先生と西川先生が合流していた。三人とも小林先生同様、この状況を心配しているような顔をしている。

 私は小走りで小林先生のもとに引き返すと、彼女に品川たちから聞いた騒動の原因を説明した。

「また内田ですか。樋口先生も大変ですね」

 小林先生が返事をする前に、西川先生が同情のセリフを口にした。あからさまな作り笑いに、授業以外で三年生と接しないという仕事内容、おまけに学校有数の怖い先生の一人という立場のおかげで二組の生徒も美術の授業では問題を起こさないという事実から、他人事だと考えている感じがすさまじい。

 その一方三島先生は、開いている引き戸から不安そうに教室内を見ている松田を引き寄せ、「大丈夫だからね」と声をかけていた。自分が受け持つ生徒でもないのにここまでしてくれるなんて、なんて優しい先生なのだろう。彼女からは西川先生のような素っ気ない感じは微塵もしなかった。

 私がそんな廊下の様子に気を取られていた、次の瞬間だった。

「もういいですよ、先生」

 教室の後ろ側の席から、内田の淡白な声が聞こえてきた。誰かのことを気にするような雰囲気のない無機質な声に、教室と廊下の人間たちが一斉に意識を向けた。

 内田は全員が自分に視線を向けたことを確認すると、席から立ち上がってこんなことを言い出した。

「不純物はクラス全体の輪を乱して、学校全体の雰囲気さえ悪くする。だったらそんな不純物は取り除くべきじゃないですか。たとえそれが、被害者側の人間だったとしても」

 いきなり何を言い出すのか。せっかく新貝先生がかばってくれているのに、それを根本から否定するようなことを言い出した。私より先に小林先生がすりガラスの窓を開け、教室に身を乗り出してそういう旨の発言を内田にした。

「別に頼んでいません。こんな面倒ごとに巻き込まれるくらいなら学校なんか来たくないと考えていましたんで、むしろ迷惑です」

 それに対して内田は、身の毛がよだつような冷酷な言葉で切り返した。そして小林先生がこのセリフにひるんだように、乗り出していた上半身を廊下に引っ込めたのを確認すると、内田は追い打ちと言わんばかりにさらに恐ろしい言葉を口にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

愚者の園【第二部連載開始しました】

木原あざみ
キャラ文芸
「化け物しかいないビルだけどな。管理してくれるなら一室タダで貸してやる」 それは刑事を辞めたばかりの行平には、魅惑的過ぎる申し出だった。 化け物なんて言葉のあやで、変わり者の先住者が居る程度だろう。 楽観視して請け負った行平だったが、そこは文字通りの「化け物」の巣窟だった! おまけに開業した探偵事務所に転がり込んでくるのも、いわくつきの案件ばかり。 人間の手に負えない不可思議なんて大嫌いだったはずなのに。いつしか行平の過去も巻き込んで、「呪殺屋」や「詐欺師」たちと事件を追いかけることになり……。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

幼馴染はとても病院嫌い!

ならくま。くん
キャラ文芸
三人は生まれた時からずっと一緒。 虹葉琉衣(にじは るい)はとても臆病で見た目が女の子っぽい整形外科医。口調も女の子っぽいので2人に女の子扱いされる。病院がマジで嫌い。ただ仕事モードに入るとてきぱき働く。病弱で持病を持っていてでもその薬がすごく苦手 氷川蓮(ひかわ れん)は琉衣の主治医。とてもイケメンで優しい小児科医。けっこうSなので幼馴染の反応を楽しみにしている。ただあまりにも琉衣がごねるととても怒る。 佐久間彩斗(さくま あやと)は小児科の看護師をしている優しい仕事ができるイケメン。琉衣のことを子供扱いする。二人と幼馴染。 病院の院長が蓮でこの病院には整形外科と小児科しかない 家は病院とつながっている。

いま、あなたに逢いたい

星ふくろう
キャラ文芸
 羊の手。  それは十六歳から十八歳の間に発症する奇病の俗称。  左手の甲に羊の頭のような黒い痣が出た者は、痣が黒から赤くなり、また黒くなった日にこの世から消滅する。  西出かな。十六歳。  バーチャルリアリティーゲームの中で出会った青年、きよはるとゲーム内で何気ない会話をして別れる、そんな日常を受験勉強の息抜きにしていた彼女の左手に、ある冬の日の朝。  羊の手が現れる。  他の投稿サイトにも掲載しています。

そして私は惰眠を貪る

猫枕
ファンタジー
 親同士が親友だからと幼い頃に婚約させられたリーヴィアとラルス。  しかし今どき幼少の頃から許嫁がいるなんて人は極めて珍しく、学校でからかわれたラルスはリーヴィアに冷たくするようになる。  加えてこの婚約は親同士が親友なんて大嘘、ラルスの両親がリーヴィアの両親を一方的に奴隷扱いしていたことが分かる。  リーヴィアと結婚してはいけないと思ったラルスは回避行動をとるが、努力の甲斐なく2人は結婚することになる。  ファンタジーっぽくなるのは30話くらいからかな?    

あばらやカフェの魔法使い

紫音
キャラ文芸
ある雨の日、幼馴染とケンカをした女子高生・絵馬(えま)は、ひとり泣いていたところを美しい青年に助けられる。暗い森の奥でボロボロのカフェを営んでいるという彼の正体は、実は魔法使いだった。彼の魔法と優しさに助けられ、少しずつ元気を取り戻していく絵馬。しかし、魔法の力を使うには代償が必要で……?ほんのり切ない現代ファンタジー。

侯爵様と私 ~上司とあやかしとソロキャンプはじめました~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 仕事でミスした萌子は落ち込み、カンテラを手に祖母の家の裏山をうろついていた。  ついてないときには、更についてないことが起こるもので、何故かあった落とし穴に落下。  意外と深かった穴から出られないでいると、突然現れた上司の田中総司にロープを投げられ、助けられる。 「あ、ありがとうございます」 と言い終わる前に無言で総司は立ち去ってしまい、月曜も知らんぷり。  あれは夢……?  それとも、現実?  毎週山に行かねばならない呪いにかかった男、田中総司と萌子のソロキャンプとヒュッゲな生活。

処理中です...