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#25-4
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分する時間を稼ぐため。鈴木が橋本楓の犯行後に鍵をかけなかったのは、当日現場に留まる時間を短くするためだ。あんたは鈴木と違って誰かに見られてもある程度言い訳が立つから、当日数分間の余裕より犯行後数日間の余裕を取ったんだ」
「それがなんだって言うんだよ……! 俺がやった理由にはならないだろ!」
「もう一つ。橋本隆の部屋の隣六部屋、真下の部屋、その隣二部屋が空き部屋だった。これならアパートの住人が現場の部屋の騒ぎに振動で気づくなんてこともない。しかもあのアパートは住人の大半が耳に障害を持ち、音で気づかれる可能性も非常に低い。行きずりの犯人が、この都合のいい状況を犯行前に時間をかけて確認したと思うか?」
氷川の表情が引きつっていく。
これも感情的になった湯浅が見落としたポイントだった。通り魔のような犯人がまず狙わない部屋の位置ではあるが、周辺の居住状況は人殺しをするのに最適。橋本隆の部屋は、事前にこの情報を知っている人間なら迷うことなく狙いに行ける場所だったのだ。湯浅はこれを見落として、この事件を通り魔の犯行だと早合点したのだ。
山下はさらに、氷川に犯行に関する詳細な部分の仮説を提示した。
「不自然な椅子と延長コードから考えると、あんたの行動はこうだ。橋本隆が部屋に戻ってくるずっと前に、リュックに替えの服とノートパソコンを入れて410号室に向かい、マスターキーで鍵を開けて入り、無施錠で怪しまれないように内側から鍵をかけた。その後、午後六時頃からノートパソコンでオンラインゲームをし、帰ってきた橋本隆を首つり自殺する前に金属バットで撲殺。その後、部屋の風呂で返り血を流し、血のついた服から着替えてリビングを荒らした。リビング荒らしを後にしたのは、部屋に入ってすぐの橋本隆が、それを不審に思って警戒しないようにするためだ。そしてバットと前の服とノートパソコンをリュックに入れ、内部犯だとばれないために橋本隆が持っていた鍵を持ち出し、玄関の鍵をかけて自宅へ帰り、適当な理由づけで中断していたゲームを翌日一時までやってアリバイを作った。そして後日、犯行に使った物品を持ち出した鍵と一緒に処分した。違うか? あんたと似た特徴を持つ人間が、その時間に階段を下りてきたという目撃証言もあったし、410号室の浴室から血液反応も出たぞ」
「待ってくれ! バットはどうすんだよ! 手に持ってたら目撃証言に出るだろうし、グリップまで全部リュックに入れられるような長さのバットなんて……!」
「バットは事前に部屋の中に隠してたんだろ。あの部屋はあんたが橋本隆のために中の家具まで用意したんだから、ついでにそれくらいできるはず。帰りの時には、何度も人間の頭を殴打したことで曲がったバットをリュックに入れたんだ。頭蓋骨は人体で最も固い部分の一つ。そこを原型がなくなるまで殴れば、軽いアルミ合金製のバットなら確実に曲がる。さらにそこをてこの原理で曲げてやれば、リュックに隠せるだけの長さにできるだろ」
「……。パソコンが血で壊れるぞ。アリバイのために連続でログインしなきゃなんないのに」
「それがなんだって言うんだよ……! 俺がやった理由にはならないだろ!」
「もう一つ。橋本隆の部屋の隣六部屋、真下の部屋、その隣二部屋が空き部屋だった。これならアパートの住人が現場の部屋の騒ぎに振動で気づくなんてこともない。しかもあのアパートは住人の大半が耳に障害を持ち、音で気づかれる可能性も非常に低い。行きずりの犯人が、この都合のいい状況を犯行前に時間をかけて確認したと思うか?」
氷川の表情が引きつっていく。
これも感情的になった湯浅が見落としたポイントだった。通り魔のような犯人がまず狙わない部屋の位置ではあるが、周辺の居住状況は人殺しをするのに最適。橋本隆の部屋は、事前にこの情報を知っている人間なら迷うことなく狙いに行ける場所だったのだ。湯浅はこれを見落として、この事件を通り魔の犯行だと早合点したのだ。
山下はさらに、氷川に犯行に関する詳細な部分の仮説を提示した。
「不自然な椅子と延長コードから考えると、あんたの行動はこうだ。橋本隆が部屋に戻ってくるずっと前に、リュックに替えの服とノートパソコンを入れて410号室に向かい、マスターキーで鍵を開けて入り、無施錠で怪しまれないように内側から鍵をかけた。その後、午後六時頃からノートパソコンでオンラインゲームをし、帰ってきた橋本隆を首つり自殺する前に金属バットで撲殺。その後、部屋の風呂で返り血を流し、血のついた服から着替えてリビングを荒らした。リビング荒らしを後にしたのは、部屋に入ってすぐの橋本隆が、それを不審に思って警戒しないようにするためだ。そしてバットと前の服とノートパソコンをリュックに入れ、内部犯だとばれないために橋本隆が持っていた鍵を持ち出し、玄関の鍵をかけて自宅へ帰り、適当な理由づけで中断していたゲームを翌日一時までやってアリバイを作った。そして後日、犯行に使った物品を持ち出した鍵と一緒に処分した。違うか? あんたと似た特徴を持つ人間が、その時間に階段を下りてきたという目撃証言もあったし、410号室の浴室から血液反応も出たぞ」
「待ってくれ! バットはどうすんだよ! 手に持ってたら目撃証言に出るだろうし、グリップまで全部リュックに入れられるような長さのバットなんて……!」
「バットは事前に部屋の中に隠してたんだろ。あの部屋はあんたが橋本隆のために中の家具まで用意したんだから、ついでにそれくらいできるはず。帰りの時には、何度も人間の頭を殴打したことで曲がったバットをリュックに入れたんだ。頭蓋骨は人体で最も固い部分の一つ。そこを原型がなくなるまで殴れば、軽いアルミ合金製のバットなら確実に曲がる。さらにそこをてこの原理で曲げてやれば、リュックに隠せるだけの長さにできるだろ」
「……。パソコンが血で壊れるぞ。アリバイのために連続でログインしなきゃなんないのに」
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