和製切り裂きジャック

九十九光

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#8-11

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「橋本さん! 今日栄で会ったよ!」
 こっちも相手を無視して怒鳴り散らして、ようやくこっちの言いたいことが伝わった。
 一瞬リビング全体が静まり返ったかと思ったが、すぐにパパが怒鳴り返した。
「はあ⁉ どういうことだ!」
 そこから数秒黙り込んで、今度こそちょっとした間が生まれた。パパが話を聞く気になったということだ。
「栄のBOOK・OFFで、妹さんの買い物につき合ってたよ」
 番組の合間の短いニュースの開始を耳だけで知ったところで、あたしは声をいつもの調子に戻して説明し始めた。それでもさっきパパにつられて怒鳴ったせいか、内心少し苛立っていた。
 パパとは元々、ずっと一緒に暮らしてきた親子とは思えないほど意思疎通に難があった。生まれてすぐのベビー服の色でジェンダー教育を施す、日本のスタンダードな子育ての賜物だろうか。
 パパはしばらくの間、アルコールで真っ赤になった顔を向けながら私の顔を睨みつけていた。そしてすぐに、事情を知らなければ当然な質問をする。
「あいつ、そんな理由で有休取ってたのか」
「その妹さん、生まれつき耳が聞こえないんだよ。それで橋本さん、その妹さんのために休み取って、買い物とかにつき合ってあげてるんだって」
 パパは私の回答を、右手にチューハイの缶を持ち、左手で頬杖をついた状態で聞いていた。無愛想な顔つきをしていて、信じていないようにも見て取れる。
 そこで私は追撃と言わんばかりに橋本さんのいい面を説明することにした。
「一緒にお昼食べて色々話してみたけど、普通にいい人だったよ。とっても妹さん思いで、笑顔も素敵だったし。警察官としての知識以外にも色々勉強してたし、パパが好きそうな努力家な人だよ。それに、今パパたちが追ってる和製切り裂きジャック事件にも、自分なりの考え方を持ってた」
「あいつなりの考え方?」
「うん。犯人はいわゆるインテリじゃなくて、高校も出てないような平凡以下の人でもおかしくないって。要は、あまり難しく考えすぎても真相にたどりつけるとは限らないってことだと思うよ」
 パパはさっき書いた姿勢をまったく変えずに私の話を聞いていた。
 私はそんなパパの反応を待ってしばらく黙っていたが、返ってきたのは、「ああ、そうか。」という気のない返事だけだった。今の話を信じるか否かがわかるような返答が欲しかったのに。
 私たち二人の会話はそこから何も進展することなく途絶え、トヨタ自動車が名古屋市内にある自社関連の工場や事務所の社員を午後六時には強制帰宅させるというテレビニュー
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