和製切り裂きジャック

九十九光

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#8-9

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さな存在になっていくものなんだ。本家の切り裂きジャックも、最終的には当時のイギリス王室の王子がお忍びでスラム街にやってきて犯行に及んでいた、なんて話もあったんだけど、今ではそのスラム街のホームレスの一人がやっていたという線が一番濃厚なんだ」
 私は、橋本さんがすました顔で言うその話を、驚きと興味関心にあふれた心持ちで聞いていた。今までの人生で一番、『開いた口が塞がらない』という言葉がふさわしかった瞬間だった。
 この人はただ単に、興味のないことに対して異常に冷たい人じゃなかった。そこまで関心のないことにもアンテナを張り、自分の考えのための血肉にしている人だった。典型的な、努力して成功している人だった。
 何より、私のこの手の無茶ぶりにここまで真剣に応えてくれたことが一番の感動だった。
 私がシリアルキラーやらサイコホラーやらの話をしても、ちょうどさっきの楓さんみたいに相手が固まってしまって会話が続かないのが普通だった。だからこそ、橋本さんがこの私の質問にちゃんとした答えを返してくれたことはとても嬉しかった。人生で初めて、ネットの世界以外で自分の理解者を見つけた瞬間だと思ったくらいだ(実際の私は、ネットとかだとコメントを残さない、ROM専という人間なのだが)。
「結構詳しいんですね、橋本さん」
 私は嬉々とした表情で橋本さんに向かって身を乗り出した。
「まあ、昔取った杵柄だよ。親父が君みたいな趣味の人で、中学の時に興味本位で親父が集めてた本読んだだけだよ。さすがに君には勝てないよ」
「充分ですよ。そもそも私とこういう話できた人自体、まったくいなかったんですから」
「そうなの? そう言えば、さっき楓に話してた小説に、メルクオールの……」
「『メルキオールの惨劇』ですか?」
「そうそれ。殺された人の遺品を集めてくる仕事をしてる人の話だったっけ? 懐かしいな。あれも親父が持ってた小説の一つだよ」
 この人はどこまで私の趣味を理解しているのだろうか。私と同じ本を読んだことがある人を見つけることができた時点で奇跡なのに、その本のおおまかなあらすじまで覚えているなんて。
 その後の私と橋本さんは、氷が溶けて中身が増したり薄くなったりしたコップを片手に、お互いに読んだことがある猟奇物の小説に関する話で盛り上がった(正確には私が一方的に感想を言って、そこに橋本さんがちょっとした感想をつけ足すだけなのだが)。無我夢中になって話をしていたせいで、正確な会話の内容は覚えていなかったが、とにかく楽しかったことは間違いない。本の話題であそこまで熱くなれたのは、おそらくあれが最初で最後だろう。橋本さんも話をしている間、穏やかというか、なんだか楽しそうにしているように見える顔をしていた。嫌々私に話を合わせているわけじゃない証拠だ。人との会話でこんなにいい表情ができるのなら、逆恨みでもない限り誰かから憎まれるようなことは絶
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