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「……。和製切り裂きジャックについて、どう考えていますか?」
自分の感覚だと、かなりつっかえながらの質問だった。
それに対して橋本さんは箸を置き、隣で自分のことを見ている楓さんに一度視線を向ける。二、三秒ほどそんな状態が続いた後で、橋本さんは私のほうに向き直って答えを口にした。
「恐ろしい話だとは思ってるけど、怖いとは感じてないかな」
私には言葉の意味がわからなかった。何か突拍子もないことを言ってくることは予想できたが、いざその口から出ると本当についていけない。
「自分がこういう事件に関わるとは予想してなかった。その点では確かに恐ろしい。ただ怖くはないかな。単純に、過去四件の事件がいずれも女性や子供、お年寄りみたいな力の弱い人ばかりがターゲットになってて、それを考えれば自分は安全圏にいるって過信してるから、ってのもある。でもそれ以上に、警察はそこまで無力じゃないって信じているから、ってのもあるな」
「は、はあ……」
私は相槌を打ちながら橋本さんの話を聞いていた。
怖くないという理由のうち、前半はいかにもパパの言う橋本さんらしい答えだと感じた。ただ後半。警察を信じているという答えは、私はパパの言う橋本さんのイメージからは程遠いと感じていた。
そこから橋本さんはしばらく黙り込む時間に入った。どういう話をしようか考えているみたいだった。もしかしたらパパから私が事件の追っかけをしているという話を聞いていて、それを踏まえた話の組み立てをしているのかもしれない。
そして結構長い沈黙の後で、橋本さんはもう一度口を開いた。
「俺が警察に入った理由なんだが、楓に不自由させないだけの金が稼げる仕事と、楓が俺のことで不安にならないような仕事がしたかったからなんだ。給料も普通の会社員よりいいし、この仕事なら楓も変な心配しなくていい。だから警察組織は俺もそれなりに信じてるんだ。犯罪者を絶対に許さないっていう、情熱にあふれた人たちの集まりだって。そもそも今回の犯人の名前の由来になった切り裂きジャックの時代は、指紋による捜査技術が確立していなかったんだ。それもあって切り裂きジャックは正体不明の殺人鬼になっている。でも二十一世紀の今なら、指紋どころか皮膚片や髪の毛からだって犯人を割り出せる。これだけ発達した技術を使って、狭い範囲で犯行を重ねる犯人を捕まえることができないなんてことはないと思うよ」
本当に意外な話をする人だ。うちのパパみたいに暑苦しい人は嫌いだと思っていたら、その情熱を信じているだなんて。漫画ならツンデレ属性をより強くさせられる人だろう。
「ところで君はどう思ってるんだい? 個人的に追いかけてるんだろ?」
あ、やっぱり聞かされていたみたいだった。
自分の感覚だと、かなりつっかえながらの質問だった。
それに対して橋本さんは箸を置き、隣で自分のことを見ている楓さんに一度視線を向ける。二、三秒ほどそんな状態が続いた後で、橋本さんは私のほうに向き直って答えを口にした。
「恐ろしい話だとは思ってるけど、怖いとは感じてないかな」
私には言葉の意味がわからなかった。何か突拍子もないことを言ってくることは予想できたが、いざその口から出ると本当についていけない。
「自分がこういう事件に関わるとは予想してなかった。その点では確かに恐ろしい。ただ怖くはないかな。単純に、過去四件の事件がいずれも女性や子供、お年寄りみたいな力の弱い人ばかりがターゲットになってて、それを考えれば自分は安全圏にいるって過信してるから、ってのもある。でもそれ以上に、警察はそこまで無力じゃないって信じているから、ってのもあるな」
「は、はあ……」
私は相槌を打ちながら橋本さんの話を聞いていた。
怖くないという理由のうち、前半はいかにもパパの言う橋本さんらしい答えだと感じた。ただ後半。警察を信じているという答えは、私はパパの言う橋本さんのイメージからは程遠いと感じていた。
そこから橋本さんはしばらく黙り込む時間に入った。どういう話をしようか考えているみたいだった。もしかしたらパパから私が事件の追っかけをしているという話を聞いていて、それを踏まえた話の組み立てをしているのかもしれない。
そして結構長い沈黙の後で、橋本さんはもう一度口を開いた。
「俺が警察に入った理由なんだが、楓に不自由させないだけの金が稼げる仕事と、楓が俺のことで不安にならないような仕事がしたかったからなんだ。給料も普通の会社員よりいいし、この仕事なら楓も変な心配しなくていい。だから警察組織は俺もそれなりに信じてるんだ。犯罪者を絶対に許さないっていう、情熱にあふれた人たちの集まりだって。そもそも今回の犯人の名前の由来になった切り裂きジャックの時代は、指紋による捜査技術が確立していなかったんだ。それもあって切り裂きジャックは正体不明の殺人鬼になっている。でも二十一世紀の今なら、指紋どころか皮膚片や髪の毛からだって犯人を割り出せる。これだけ発達した技術を使って、狭い範囲で犯行を重ねる犯人を捕まえることができないなんてことはないと思うよ」
本当に意外な話をする人だ。うちのパパみたいに暑苦しい人は嫌いだと思っていたら、その情熱を信じているだなんて。漫画ならツンデレ属性をより強くさせられる人だろう。
「ところで君はどう思ってるんだい? 個人的に追いかけてるんだろ?」
あ、やっぱり聞かされていたみたいだった。
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