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プロローグー4
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たった一人で未知の映画の上映会を開催した。この時の私は、今から見る映画にそれほどの期待はしていなかっただろう。
しかし私は、いつの間にか液晶画面に釘づけになっていた。ピザのチーズが固まり、コーラの炭酸が抜けるのも気にせず、手と口を動かすことをやめて口を半開きにして、半分放心状態でその映画を見ていた。
この映画は、いわゆるスプラッター映画というものだった。
映画の前半。主人公の両親がフランチャイズ契約していたコンビニが謎の組織によって燃やされ、主人公が警察署の霊安室で両親の焼死体と対峙するシーン。髪も瞳も脂肪も性器も焼けてなくなっている二つの焼死体は、大半の歯が抜け落ちた口をガバッと開け、体の一部分から黒ずんだ骨を露出させて、あおむけに倒れる蝉の死体みたいに手足をあっちこっちへ広げたまま死後硬直していた。その死体を見ている主人公の目線をイメージしたカメラワークが三十秒ほど続き、テレビのスピーカーから悲しみの嗚咽が聞こえてきた。
さらに映画の折り返しあたり。のちに主人公の相棒となる男が、自分の妹の死体を、彼女の自宅で見つけるシーン。死体にはどす黒い血が口と鼻から大量に噴出した跡があり、死ぬ寸前まで苦しかったことを表現するように、目と口は人間ができる表情なのかと思うほど大きく開けられていた。きれいなネイルアートが施された両手の爪で、上着が破けるほどの強さで胸をかきむしったらしく、全身から血管と皮膚を破って噴き出した血は、地面に打ちつけられた水風船の中身のようにフローリング全体に広がっている。男役の俳優がそのフローリングに両手をつけると、まるでその男が殺した時の返り血のようにベットリとつき、彼の両手の平を赤く染め上げた。
そして映画のクライマックスシーン一歩手前。謎の組織が開発した、丸っこいトーチカにキャタピラをくっつけたような外見の、すぐ横の高層ビルと同じ大きさの戦車のような何かが、主人公たちの前座である自衛隊の部隊と戦うシーン。なぜか残業などで出歩いている一般人がいない夜の都心で、戦車は車体部分に空いているいくつかの穴から透明な霧のようなものを、自衛隊の歩兵や戦車、戦闘用のヘリコプターに向かって吹きかける。すると戦車は一斉に動きを止め、ヘリも正面の窓ガラスが血で黒くなって墜落していった。歩兵部隊は泣きじゃくる子供のように喚き散らしながら、口や鼻、全身の皮膚から血を噴き出して倒れていく。その後カメラは、こうして血だまりと炎の中にできあがった死体の山の中を、倒れているエキストラの苦悶のデスマスクを一つ一つ収めていくような速度で動いていく。そんな情景が数十秒続いた次の瞬間、自衛隊を皆殺しにした巨大戦車が前進し、それらをキャタピラで踏みつぶしていったのだ。
これら一連の光景を見せられた私は、不快感のない衝撃を受けた。今まで私が見たり読んだりした創作物には、ここまでこだわった死体なんて出てくることはなかったからだ。
さっきも言った通り、戦争を描いた漫画は死体が一つも出てこない。殺人事件を扱うミステリーでは不自然なほど出血してない死体しか出てこない。私が知っていた創作物の中
しかし私は、いつの間にか液晶画面に釘づけになっていた。ピザのチーズが固まり、コーラの炭酸が抜けるのも気にせず、手と口を動かすことをやめて口を半開きにして、半分放心状態でその映画を見ていた。
この映画は、いわゆるスプラッター映画というものだった。
映画の前半。主人公の両親がフランチャイズ契約していたコンビニが謎の組織によって燃やされ、主人公が警察署の霊安室で両親の焼死体と対峙するシーン。髪も瞳も脂肪も性器も焼けてなくなっている二つの焼死体は、大半の歯が抜け落ちた口をガバッと開け、体の一部分から黒ずんだ骨を露出させて、あおむけに倒れる蝉の死体みたいに手足をあっちこっちへ広げたまま死後硬直していた。その死体を見ている主人公の目線をイメージしたカメラワークが三十秒ほど続き、テレビのスピーカーから悲しみの嗚咽が聞こえてきた。
さらに映画の折り返しあたり。のちに主人公の相棒となる男が、自分の妹の死体を、彼女の自宅で見つけるシーン。死体にはどす黒い血が口と鼻から大量に噴出した跡があり、死ぬ寸前まで苦しかったことを表現するように、目と口は人間ができる表情なのかと思うほど大きく開けられていた。きれいなネイルアートが施された両手の爪で、上着が破けるほどの強さで胸をかきむしったらしく、全身から血管と皮膚を破って噴き出した血は、地面に打ちつけられた水風船の中身のようにフローリング全体に広がっている。男役の俳優がそのフローリングに両手をつけると、まるでその男が殺した時の返り血のようにベットリとつき、彼の両手の平を赤く染め上げた。
そして映画のクライマックスシーン一歩手前。謎の組織が開発した、丸っこいトーチカにキャタピラをくっつけたような外見の、すぐ横の高層ビルと同じ大きさの戦車のような何かが、主人公たちの前座である自衛隊の部隊と戦うシーン。なぜか残業などで出歩いている一般人がいない夜の都心で、戦車は車体部分に空いているいくつかの穴から透明な霧のようなものを、自衛隊の歩兵や戦車、戦闘用のヘリコプターに向かって吹きかける。すると戦車は一斉に動きを止め、ヘリも正面の窓ガラスが血で黒くなって墜落していった。歩兵部隊は泣きじゃくる子供のように喚き散らしながら、口や鼻、全身の皮膚から血を噴き出して倒れていく。その後カメラは、こうして血だまりと炎の中にできあがった死体の山の中を、倒れているエキストラの苦悶のデスマスクを一つ一つ収めていくような速度で動いていく。そんな情景が数十秒続いた次の瞬間、自衛隊を皆殺しにした巨大戦車が前進し、それらをキャタピラで踏みつぶしていったのだ。
これら一連の光景を見せられた私は、不快感のない衝撃を受けた。今まで私が見たり読んだりした創作物には、ここまでこだわった死体なんて出てくることはなかったからだ。
さっきも言った通り、戦争を描いた漫画は死体が一つも出てこない。殺人事件を扱うミステリーでは不自然なほど出血してない死体しか出てこない。私が知っていた創作物の中
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