Night Sky

九十九光

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「全肯定」に酔ってる勇者に反吐が出たー5

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 相手は旧世界で自分たちを含めた30人以上のユニゾン持ちを捌いて目標を達成した強敵の一人。それ相手にこの限られた空間で単身戦うのは不可能。

 小麦は手を叩き、小麦粉を撒き散らして目眩ましをする。その間にビル内に逃げ込み、スマホを取り出す。

『いまみんなどこにる』

 小麦はLINEのメッセージを素早く打ち込み、全員の位置を確認しようとする。

 それを真っ先に見たのは、大通りでローランと空中戦をする糸美だった。

(いまみんなどこにる……? 煮る? 似る? 秋晴さん一体何が言いたいの?)

 片手でクモの糸を出して立体起動し、もう一方の手でスマホを手にする糸美は、小麦の意思を読み取ることができなかった。言いたいことを再確認したいが、この世界で初めてスマホを手に入れた彼女に、片手で操作することはできなかった。

 そこに翼で空を飛ぶローランの蹴りが背中に入る。糸美はスマホを落としてしまった。

 しかしこれで動揺するわけにはいかない。糸美は空いた手から糸を出し、ローランを拘束する。

 粘着性の糸に空中で縛られるローラン。通常の相手ならここまで持ち込めば行動不能に陥れることができた。

 しかしローランは動じない。

「旧世界の汚れを知っているうえで、その世界に戻そうとか、どうかしてるぜ、お前ら」

 そう言うとローランに結ばれた糸がほどけていく。糸は糸美の指に収納され、彼女も背中を向け、落としたはずのスマホも無傷で手元に戻ってくる。そしてローランと糸美の距離は縮み、ローランの足は再び糸美の背中に触れる。

 そこで再び糸美は背中を蹴られた。

 時間の高速進行がこの人のユニゾンだったはず。それがなぜか別のユニゾンを身につけている。

 糸美はそこで一つの可能性を導き出した。

 使徒はユニゾンを2つ持っている。

《ぺテロのローラン 本名:黄金絶 ユニゾン名:ディストピア・ジパング……背中から白い翼が生えて空を飛べる。また、触れた物体の時間経過を高速で進行させる。 第二のユニゾン名:カゲロウデイズ……自身とそれに関する時間による変化、行動を逆行させる。》

『にるってなんだ? なにを煮込むんだ?』

 大通りの歩道でオリヴィエと対峙している雨がLINEに打ち込む。オリヴィエは体を液体にしてはいるが、雨の行動を待っていた。
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