Night Sky

仇花すっかり舞い散る季節ー３

　それより訓練生たちが気になっていたのは、園内からする物音だった。

　普通の幼稚園よろしく、子供が騒ぐ声や泣く声はする。だがそれに混じり、明らかに何かが壊れる音が複数するのだ。

　いいとこのお坊っちゃんお嬢ちゃんが通う幼稚園じゃないのか。そんな不安を抱きながら、一同は園長の案内のもと、カメラマンがスタンバイしている完全屋内、きれいな木目が特徴の廊下に通された。

「おい、見ろ、あれ！　昨日言ってた兵士じゃね!?」

　教室のひとつから子供の声がする。その時だった。

　高そうな制服を着た園児たちが、乱暴にドアや窓を破壊して一斉に飛び出してきた。

　遊大たちが驚くのもつかの間。他の教室からも一斉に子供が出てきて、生の訓練生に興味津々で飛びかかってきた。保育士たちは制止しようと試みるが、子供たちはまるで言うことを聞かない。気がつけば廊下は、園内中の子供たちでおしくらまんじゅう状態になった。

「おいおい！　いいとこの子供が通ってるんじゃないのかよ！　乱暴さだけならすでに普通の幼稚園児越えてるぞ！」

　足蹴にされる王子が叫ぶ。

「すいません！　すいません！　とりあえず運動場に出られる窓開けますんで、そこに逃げてください！」

　園長の悲痛な叫びがこだまする。だが子供ばかりとはいえ、この群衆の塊から抜け出して外に出るのは至難の技である。そもそも園長も外へと通じる窓から遠く離れているのに、どうやって開けるつもりなのかという疑問が降って出た。

「阿玉先生！　ユニゾン使いますね！」

　遊大はたまらず翼を展開し、子供の手の届かない天井近くまで飛ぶ。これで窓のそばまで向かい、鍵を開けて外に出られるようにしようというわけだ。

　だがその計算も甘かった。

　飛んだ遊大の目の前に、見るからにハトの姿をした園児が飛んでくる。その園児は遊大めがけて体当たりをした。

　ハトの筋力を人間に置き換えると、胸筋だけで３メートルの厚さがある計算になる。そんなものに体当たりされてただで済むわけがなかった。

　遊大は割れた窓からほぼ無人の教室に叩きつけられた。