Night Sky

九十九光

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セカイはまだ始まってすらいないぜー7

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 壁の影から遊大が飛び出し、転落防止のガラスの柵を越えて飛び降りた。その背中には、カラスのような黒い翼が生えていた。

「どうするつもりだ、新入り!」

「皆さんは元凶のユニゾン持ちの拘束を! 僕ならこの状況、負傷者なしで収められます!」

 颯天の言葉に遊大が返す。その間にも砲弾はシャンデリアに着弾し、下層に落下する。遊大はその下に潜り込んで、落下するシャンデリアに両手で触れた。

 するとシャンデリアは、空中で停止したかと思うと、ゆっくりと上昇していった。触れられていない細かな破片も一緒に上昇しながら、破断面にひっつく。やがてシャンデリアは砲撃を食らう前の状態に完全に戻り、元通り天井にぶら下がった。

 《夜空遊大 ユニゾン名:ザ・ワールド・ハズント・イーブン・スターティッド・イェット……背中から黒い翼が生えて空を飛べる。また、触れた物の時間経過を逆行させる。》

 *

「いや~。カッコよかったな~。遊大君。時間に干渉できるユニゾンなんて初めて見たよ~」

 現場からの帰りのバス車内では、小麦が遊大をべた褒めしていた。他の面々も、初仕事で大事をやってのけたという旨の発言をしていた。無言を貫いたのは颯天だけだった。

「僕なんて皆さんと比べたら大したこと……。攻撃力も拘束力もないですし」

 遊大は本音で謙遜していた。実際、活躍できたのは最後の場面だけで、他は先輩に任せっきりだったのも事実だった。

「みんなの言う通りだよ。遊大君」

 自信なさげな遊大に声をかけたのは、引率の仁だった。まだ緊張感の解けない遊大に、仁は続ける。

「君が飛び級できたのは、その類を見ない強力なユニゾンと、いざという時の行動力さ。これからも実地経験は続く。自信はそのうちついてくるさ」

 その言葉に遊大はハッとさせられる。自分がなんのためにこの道を選んだのかを、思い出したからだ。

 西日が眩しかった。
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