Night Sky

九十九光

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おっきいね おっきいね 夢 おっきいね おっきいねー1

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「ボーイ・オブ・ディフィート。何を思ってそんな名前を誇ってるんだか」

 オジェが設備内の壁にもたれかかる。

「最初の奇襲は少しビックリしたけど、お陰でそっちの戦法は把握した。地面に潜り、壁や天井に回り込んで強襲する。おおむねそんなところだろ」

 面倒くさがりな性格のくせに頭は回るのな。

 そう思いながら雨は地面に潜り、オジェがもたれる壁へと回り込む。オジェは雨が地面に潜ったのを見て、壁から離れ、パイプの上に立った。

「創造主様から聞いてるよ、君の移動速度。魚くらいの速度なんでしょ? サメで考えても時速35キロ前後。自転車より少し速いくらいだ。おまけに潜ってる間、そっちは僕の位置が分からない。警戒さえ怠らなければ避けられない速度じゃ」

 次の瞬間だった。オジェの正面の壁から雨が飛び出し、オジェの額に包丁で切り込みを入れた。目測で見ても明らかに35キロよりはるかに速い。

「……! この……!」

 オジェは雨に抱きつき、身動きを封じる。このままユニゾンをコピーしようとも考えたが、地面に潜るデメリットを鑑みると、一朝一夕でものにできるユニゾンではないことは明白だった。

 そのままコンクリートの床で揉み合いになる2人。雨は隙を見て再び床の中に消える。

 声や物音で位置を特定しているのか。だとしてもあの速度は一体。

 オジェが思考を張り巡らせていると、今度は崩れていない天井から斜め方向に雨が飛んでくる。オジェにはこれもかわせない。

 その後も圧倒的な速度であちこちの壁や天井、床からヒットアンドアウェイを繰り返す雨。急所に必中で当てられないのがもどかしいが、オジェを翻弄するには充分だった。

「どうなってんだ、お前は! 魚雷みたいな速度しやがって!」

 雨が息継ぎのために一旦ユニゾンを解除して床に立つ。

「ボーイ・オブ・ディフィート。地を這う狩人(グラウンド・オルカ)。俺の今の最高時速は80キロだ」



 雨は再び地面に潜り、ヒットアンドアウェイを繰り返す。立ち止まって物音を立てないようにしようが、逆にひっきりなしに動いていようが、雨の攻撃の精密性は変わらなかった。体の各部を撫でるように斬りつけ、広く浅い傷をつけていく。まるで獲物をなぶって遊ぶシャチのように。
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