79 / 81
#15ー2
しおりを挟む
に囲まれており、コンクリートで固められた敷地の面積は、すぐそばのアパートの面積より一回り広かった。自動車教習所の車から角を削ったような、滑らかな形状の車が二台止められており、四角形の屋根をした白い三階建ての住宅。駅からのアクセスの悪さを、広い土地で相殺している物件だった。
周辺の景色とは少しミスマッチなほどお金のかかった空間に、ツバサは少し委縮して背中を丸くしてしまう。カナコはそんなツバサの手を左手で握ったまま、慣れた手つきで家のカギを開けた。
「さ、入って。」
ツバサはカナコに促されるまま、スニーカーを玄関で脱ぎ、奥のリビングへと進んでいく。玄関に入ってすぐのところに、宅配便で届けられた小さな段ボール箱があかれていた。ツバサの実家なら、こんなものがあった時点で玄関は足の踏み場のない空間になってしまうだろう。しかしカナコの家では、その段ボールが邪魔にならずに、二人同時に靴を脱いで家に上がることができた。明らかに自分の家とは比べ物にならないくらいお金がかかっていることが、ツバサには想像できた。二階と三階が吹き抜けになっているリビングも、カナコの父親の富の象徴になっていた。他人の家に入った経験自体がないツバサは、ここまで広い空間に案内されただけで緊張してしまう。
「晩ご飯作るから少し待ってて。そこのソファに座って、テレビでも見ててよ。」
そんなツバサを見かねてか、ダイニングにたたまれていたエプロンを手に取りながら、カナコが気さくに声をかける。他人に預けられた飼い猫の気持ちになっているツバサは、その指示に従って黒いソファに腰を下ろした。
ソファの前には、一つのガラステーブルが置かれていた。黒いプラスチック製のテレビのリモコン、使った形跡のないガラスの灰皿、女子高生向けのファッション雑誌など、ほんの一部だが、カナコの一人暮らしの様子がうかがえるようなものが、その上には置かれていた。
ツバサはリモコンを手に取り、赤いボタンを押して電源を入れると、10番のチャンネルが付いた。どこかで見たことのあるタレントが、水が抜かれた池から大量の亀を無造作にカゴに放り込んでいく映像が映し出された。
「はい、どうぞ。」
カナコがツバサの後ろから現れ、ガラスのコップに入ったカルピスを差し出した。
「あ……。ありがと……。」
「ツバサ君、元気ないねえ……。もうちょっと笑いなよ。せっかく初めて二人きりで一晩過
周辺の景色とは少しミスマッチなほどお金のかかった空間に、ツバサは少し委縮して背中を丸くしてしまう。カナコはそんなツバサの手を左手で握ったまま、慣れた手つきで家のカギを開けた。
「さ、入って。」
ツバサはカナコに促されるまま、スニーカーを玄関で脱ぎ、奥のリビングへと進んでいく。玄関に入ってすぐのところに、宅配便で届けられた小さな段ボール箱があかれていた。ツバサの実家なら、こんなものがあった時点で玄関は足の踏み場のない空間になってしまうだろう。しかしカナコの家では、その段ボールが邪魔にならずに、二人同時に靴を脱いで家に上がることができた。明らかに自分の家とは比べ物にならないくらいお金がかかっていることが、ツバサには想像できた。二階と三階が吹き抜けになっているリビングも、カナコの父親の富の象徴になっていた。他人の家に入った経験自体がないツバサは、ここまで広い空間に案内されただけで緊張してしまう。
「晩ご飯作るから少し待ってて。そこのソファに座って、テレビでも見ててよ。」
そんなツバサを見かねてか、ダイニングにたたまれていたエプロンを手に取りながら、カナコが気さくに声をかける。他人に預けられた飼い猫の気持ちになっているツバサは、その指示に従って黒いソファに腰を下ろした。
ソファの前には、一つのガラステーブルが置かれていた。黒いプラスチック製のテレビのリモコン、使った形跡のないガラスの灰皿、女子高生向けのファッション雑誌など、ほんの一部だが、カナコの一人暮らしの様子がうかがえるようなものが、その上には置かれていた。
ツバサはリモコンを手に取り、赤いボタンを押して電源を入れると、10番のチャンネルが付いた。どこかで見たことのあるタレントが、水が抜かれた池から大量の亀を無造作にカゴに放り込んでいく映像が映し出された。
「はい、どうぞ。」
カナコがツバサの後ろから現れ、ガラスのコップに入ったカルピスを差し出した。
「あ……。ありがと……。」
「ツバサ君、元気ないねえ……。もうちょっと笑いなよ。せっかく初めて二人きりで一晩過
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【R18】スパダリ幼馴染みは溺愛ストーカー
湊未来
恋愛
大学生の安城美咲には忘れたい人がいる………
年の離れた幼馴染みと三年ぶりに再会して回り出す恋心。
果たして美咲は過保護なスパダリ幼馴染みの魔の手から逃げる事が出来るのか?
それとも囚われてしまうのか?
二人の切なくて甘いジレジレの恋…始まり始まり………
R18の話にはタグを付けます。
2020.7.9
話の内容から読者様の受け取り方によりハッピーエンドにならない可能性が出て参りましたのでタグを変更致します。
私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。
しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。
それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…
【 ⚠ 】
・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。
・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
狗神巡礼ものがたり
唄うたい
ライト文芸
「早苗さん、これだけは信じていて。
俺達は“何があっても貴女を護る”。」
ーーー
「犬居家」は先祖代々続く風習として
守り神である「狗神様」に
十年に一度、生贄を献げてきました。
犬居家の血を引きながら
女中として冷遇されていた娘・早苗は、
本家の娘の身代わりとして
狗神様への生贄に選ばれます。
早苗の前に現れた山犬の神使・仁雷と義嵐は、
生贄の試練として、
三つの聖地を巡礼するよう命じます。
早苗は神使達に導かれるまま、
狗神様の守る広い山々を巡る
旅に出ることとなりました。
●他サイトでも公開しています。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
あるバイク乗りの話~実体験かフィクションかは、ご自由に~
百門一新
ホラー
「私」は仕事が休みの日になると、一人でバイクに乗って沖縄をドライブするのが日課だった。これは「私」という主人公の、とあるホラーなお話。
/1万字ほどの短編です。さくっと読めるホラー小説となっております。お楽しみいただけましたら幸いです! ※他のサイト様にも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる