カゴの中のツバサ

九十九光

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#14ー1

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 七月二十五日。午後七時半。
 名古屋市守山区のとある一軒家。カゴカナコは大学から一人でこの自宅に帰ってきた。そして彼女はすぐに自宅に起きている異変に気づき、動揺した。白い断熱性の外壁をしている二階建ての自宅前に、黒字で『愛知県警』と書かれた三台のパトカーが、赤いランプを光らせたまま停車していたのだ。その近くには、紺色の制服を着た警察官が数名立ち、興味本位で見に来たらしい近隣住民に家の近くに来ないように注意を促している。どう見てもただ事ではないのは、こういった光景をテレビの作り物でしか見たことのない彼女にも理解できた。
「あの……。すいません。」
 規制をかけている警察官の一人に、カナコは恐々と声をかけた。
「はい。何でしょうか。」
「この家の者なんですけど……。」
 返事をしたその警察官にさらに言葉を続ける。
 警察官は少しの間彼女の顔を見つめてきた。警察官からここまで非日常的な観察眼を向けられれば、別に心当たりがなくても怖いと思うのは、たぶん日本人なら誰でも持っている感情だろう。
そんな観察行為を数十秒続けたその警察官は、視線はそのままに彼女に向かってこう言った。
「駕籠加奈子さんですね。」
「あ、はい……。」
「ちょっと家の中まで来てもらえますか。」
「は、はあ……。」
 カナコはわけが分からないままその警察官の指示に従い、規制線の黄色いテープ下をくぐって住み慣れた自宅の玄関で靴を脱いだ。
 こうして今までの人生の大半を過ごした自宅のリビングに上がると、カナコは心臓の鼓動が強くなるのを感じ取った。
 そこではワイシャツ姿の四十代くらいの大柄な男に、ソファに座って畏縮した様子で話をしている両親がいた。家のあちこちから、何かを動かす物音やカメラのシャッター音が聞こえてくる。濃い青色の服を着た鑑識たちがせわしなく作業をしていて、カメラとマイクがあればドラマの撮影現場にしか見えない光景が広がっていた。
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