カゴの中のツバサ

九十九光

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#7-3

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るという物語だった。
 美咲の服を大地が脱がす。美咲は拒まなかった。
 その夜、詩織は啓介とともにベッドに潜った。二人は誰にも邪魔されることなくその日の夜を過ごした。
 本の中にはこういった文章もいくつか存在していたが、ツバサにはその意味が理解できなかった。ただ、なぜか恐ろしい気分にはなった。忘れていた下腹部の重量感が再び襲い掛かってきたからだった。
 カナコがゼミナール近辺以外でツバサと鉢合わせる機会が出てきたことも、変化の一つだった。
「ツバサくーん!」
 ある塾のない平日。学校を終えたツバサが昇降口から出ると、校門を出てすぐのところで、制服が夏服に変わっているカナコが手を振っていた。突然の出来事に、恥ずかしそうに周囲を見渡したツバサは、誰かに絡まれる前に彼女の下へ駆け寄っていった。
「どうしたの、カナコお姉ちゃん! こんな時間に来るなんて……!」
「学校早く終わったから来ちゃった。それよりこれから時間ある?」
 そう言うとカナコは、内心恥ずかしがっているツバサの手を引いて、彼を家に帰さずに名古屋市内のどこかへと連れまわしていった。そんな日々が、塾のない平日が来る度に起こるようになったのだ。
ある時は百貨店の一部を使って行われた絵画展へ行き、現代の日本の画家が描いた風景画を見て回った。またある時は栄の噴水広場で行われるアマチュアの歌手による路上ライブを見に行き、各種機材を自前で用意した大学生のメッセージソングに耳を傾けた。
 またある時は暮れかけた日差しが照りつける公園へ足を運び、あいにくの雨天の中で一本の傘を二人で使って歩いた。これらの場所では、ツバサとカナコ以外の男女のペアが、必ずと言っていいほどの割合で見受けられた。そしてカナコは、ツバサが気付いた時には、そのペアたちと同じように二人の指と指を交互に組んで手をつないでいた。
 こうした変化がなぜ起こったのか。一番身近にいて当事者でもあるツバサには、さっぱり理解できなかった。
カナコからもらった本には恋という概念が存在していた。お互いを好きになった男女がこの感情によって結ばれるという事象が発生することは、ツバサも本を読む前から知っていた。そして自分たちの変化が恋によるものじゃないかという推測も、ツバサは一時期考え
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