35 / 81
#6-7
しおりを挟む
しての役目を果たしていた。ともすればツバサが今着ている服より清潔感のある装飾品だったが、ショートケーキの上のイチゴのように悪目立ちすることはしない。今まで誰も気にしない映画のエキストラのようなツバサを、このネックレスは一気に主役に押し上げてくれていた。
ツバサは迷うことなくこのネックレスを買ってもらうことにした。『\700』と書かれた値札シールをさっさと会計で取ってもらうと、すぐにネックレスかけなおした。
「……。あたしもこれ買おうかな。」
カナコはそう言って再び店の奥へと引き返し、ツバサに買ってあげたものと同じネックレスを持ってきた。
二人はこの日一日を、そのネックレスかけて過ごし、今流行りのクロワッサンのお店で昼食にした時も、ゲームセンターでスマートフォンに写真を送れるプリクラで映った時も、片時もそれを外さなかった。
帰りの電車でカナコが気付いた時には、疲れ果てたツバサは眠っていた。静かに両目をつぶり、安心したようにカナコの二の腕に寄りかかり、心地よさそうに寝息を立てている。右手には今日初めてカナコからもらったプレゼントを、大事そうに握りしめている。首にかけているのだからどこかへ行ってしまうということはないのだが、握っているだけでツバサは安心できるようだった。
この日はツバサにとって、初めての経験であふれかえっていた。
初めて勉強以外でどこかへ出かけた。母親が公園や水族館などへ連れて行ってくれたことなど、ただの一度もありはしなかった。学校行事でそういった場所へ出かけることがあっても、社会学習といった形で何かを学んで後日発表という、楽しい気分がしらける行事でしかなかった。
初めて人からプレゼントをもらった。母親が自分の誕生日を祝ってくれた経験など、記憶している限り一度もありはしなかった。学校も、クラスの仲間の誕生日を一緒に祝ってあげようとは考えない、友情は学力を競い合うことで育めばいいという校風をしていた。
初めて人の肌に触れて眠った。学校は言わずもがな、母親は彼が寝静まったときに帰宅し、彼が寝静まっている間に家を出ていく。布団を干す時間も干す場所もないため、ペタペタにつぶれた寝心地の悪い布団で横になることが、ツバサにとっての睡眠だった。
午後六時、ツバサは中村公園駅の改札を通り、地上の大鳥居を見上げていた。首には例のネックレスをかけ、この日一日の思い出を頭の中で反芻していた。
ツバサは迷うことなくこのネックレスを買ってもらうことにした。『\700』と書かれた値札シールをさっさと会計で取ってもらうと、すぐにネックレスかけなおした。
「……。あたしもこれ買おうかな。」
カナコはそう言って再び店の奥へと引き返し、ツバサに買ってあげたものと同じネックレスを持ってきた。
二人はこの日一日を、そのネックレスかけて過ごし、今流行りのクロワッサンのお店で昼食にした時も、ゲームセンターでスマートフォンに写真を送れるプリクラで映った時も、片時もそれを外さなかった。
帰りの電車でカナコが気付いた時には、疲れ果てたツバサは眠っていた。静かに両目をつぶり、安心したようにカナコの二の腕に寄りかかり、心地よさそうに寝息を立てている。右手には今日初めてカナコからもらったプレゼントを、大事そうに握りしめている。首にかけているのだからどこかへ行ってしまうということはないのだが、握っているだけでツバサは安心できるようだった。
この日はツバサにとって、初めての経験であふれかえっていた。
初めて勉強以外でどこかへ出かけた。母親が公園や水族館などへ連れて行ってくれたことなど、ただの一度もありはしなかった。学校行事でそういった場所へ出かけることがあっても、社会学習といった形で何かを学んで後日発表という、楽しい気分がしらける行事でしかなかった。
初めて人からプレゼントをもらった。母親が自分の誕生日を祝ってくれた経験など、記憶している限り一度もありはしなかった。学校も、クラスの仲間の誕生日を一緒に祝ってあげようとは考えない、友情は学力を競い合うことで育めばいいという校風をしていた。
初めて人の肌に触れて眠った。学校は言わずもがな、母親は彼が寝静まったときに帰宅し、彼が寝静まっている間に家を出ていく。布団を干す時間も干す場所もないため、ペタペタにつぶれた寝心地の悪い布団で横になることが、ツバサにとっての睡眠だった。
午後六時、ツバサは中村公園駅の改札を通り、地上の大鳥居を見上げていた。首には例のネックレスをかけ、この日一日の思い出を頭の中で反芻していた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・
【短編】怖い話のけいじばん【体験談】
松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。
スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。
【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢
美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」
かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。
誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。
そこで彼女はある1人の人物と出会う。
彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。
ーー蜂蜜みたい。
これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。
妹の方がいいと婚約破棄を受けた私は、辺境伯と婚約しました
天宮有
恋愛
婚約者レヴォク様に「お前の妹の方がいい」と言われ、伯爵令嬢の私シーラは婚約破棄を受けてしまう。
事態に備えて様々な魔法を覚えていただけなのに、妹ソフィーは私が危険だとレヴォク様に伝えた。
それを理由に婚約破棄したレヴォク様は、ソフィーを新しい婚約者にする。
そして私は、辺境伯のゼロア様と婚約することになっていた。
私は危険で有名な辺境に行くことで――ゼロア様の力になることができていた。
契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
さようなら、元旦那様。早く家から出ていってくださいな?
水垣するめ
恋愛
ある日、突然夫のカイル・グラントが離婚状を叩きつけてきた。
理由は「君への愛が尽きたから」だそうだ。
しかし、私は知っていた。
カイルが離婚する本当の理由は、「夫婦の財産は全て共有」という法を悪用して、私のモーガン家のお金を使い尽くしたので、逃げようとしているためだ。
当然逃がすつもりもない。
なので私はカイルの弱点を掴むことにして……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる