カゴの中のツバサ

九十九光

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#6-7

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しての役目を果たしていた。ともすればツバサが今着ている服より清潔感のある装飾品だったが、ショートケーキの上のイチゴのように悪目立ちすることはしない。今まで誰も気にしない映画のエキストラのようなツバサを、このネックレスは一気に主役に押し上げてくれていた。
 ツバサは迷うことなくこのネックレスを買ってもらうことにした。『\700』と書かれた値札シールをさっさと会計で取ってもらうと、すぐにネックレスかけなおした。
「……。あたしもこれ買おうかな。」
 カナコはそう言って再び店の奥へと引き返し、ツバサに買ってあげたものと同じネックレスを持ってきた。
二人はこの日一日を、そのネックレスかけて過ごし、今流行りのクロワッサンのお店で昼食にした時も、ゲームセンターでスマートフォンに写真を送れるプリクラで映った時も、片時もそれを外さなかった。
 帰りの電車でカナコが気付いた時には、疲れ果てたツバサは眠っていた。静かに両目をつぶり、安心したようにカナコの二の腕に寄りかかり、心地よさそうに寝息を立てている。右手には今日初めてカナコからもらったプレゼントを、大事そうに握りしめている。首にかけているのだからどこかへ行ってしまうということはないのだが、握っているだけでツバサは安心できるようだった。
 この日はツバサにとって、初めての経験であふれかえっていた。
 初めて勉強以外でどこかへ出かけた。母親が公園や水族館などへ連れて行ってくれたことなど、ただの一度もありはしなかった。学校行事でそういった場所へ出かけることがあっても、社会学習といった形で何かを学んで後日発表という、楽しい気分がしらける行事でしかなかった。
 初めて人からプレゼントをもらった。母親が自分の誕生日を祝ってくれた経験など、記憶している限り一度もありはしなかった。学校も、クラスの仲間の誕生日を一緒に祝ってあげようとは考えない、友情は学力を競い合うことで育めばいいという校風をしていた。
 初めて人の肌に触れて眠った。学校は言わずもがな、母親は彼が寝静まったときに帰宅し、彼が寝静まっている間に家を出ていく。布団を干す時間も干す場所もないため、ペタペタにつぶれた寝心地の悪い布団で横になることが、ツバサにとっての睡眠だった。
 午後六時、ツバサは中村公園駅の改札を通り、地上の大鳥居を見上げていた。首には例のネックレスをかけ、この日一日の思い出を頭の中で反芻していた。
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