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しおりを挟むベットに潜り込んだ。
叫びたい!
もうヤダ。
なんで私、あんな事言ったんだろう。
また、つまんない事で、勇磨にイヤな態度をとった。
かわいくない。かわいくない。
かわいくない。かわいくない。
落ち着いた雰囲気?
平常心?
魔性的な魅力?
そんなの、無理!
大人になれない!
そんなの、できない!
山下先生みたいには、なれない!
「あ、はは」
あーこれか。
自分で腑に落ちて笑えた。
山下先生だ。
ふっ私って小さい。
山下先生は、
秋に教育実習生としてやって来た。
大学生のお姉さんだ。
大人の女性だ。
私達のクラスに入ってくれ、
男子バスケ部も担当してくれていた。
すごく美人で大人っぽくて、
でも清楚なお嬢様って感じで。
落ち着いた雰囲気だ。
それでいて、いい香りがしたり、
長い髪を束ねたりほどいたりする度に
大人の魅力で男子は目が釘付けだった。
指先まできちんとケアが行き届き
触れられた男子は恋に落ちる程だ。
でも、女子にも人気があった。
天然キャラで、失敗もあるけど、
一生懸命で可愛かったし、
ファッションやメイク、恋の相談や、
アドバイスをたくさんしてくれた。
余裕ある立ち居振る舞い。
いつも笑顔で穏やか。
私も好きだった。
ダンスや、勇磨の事を話す時もあった。
親身になって聞いてくれてたし、
大人の意見も聞かせてくれた。
だけど、放課後、
勇磨と2人で話してる姿を見かけて、
何か違和感を覚えた。
「工藤くん」って呼んでたのが、
「勇磨くん」になってた。
他の子と差をつけず大人として、先生として振る舞っているけど、
私には分かる!
肩や腕にやたら触る。
絶対あれ、おかしい。
わざとだよ。
それに、教育実習が終わったのに、冬休みの部活指導に来てる。
「大学も休みだから暇なのよ」
と。
でも絶対に違う!
勇磨目当てだ!
私の勘違いなんかじゃない。
だって!
教育実習が終わってから、
態度が一変した!
私を邪魔者にした。
「彼、今は大会前で大切な時期だから。」
「あんまりわがまま言って、
彼を振り回さないで」
「あなたから距離をおいてあげて」
「自分の気持ちばかり押し付けたらダメよ、大人になって」
「彼の為なんだから」
って。
彼って、何?
彼彼彼彼!うるさい!
私の彼なんだけど!
勇磨の為って、反論できない言葉を使う
嫌、キライ。
なんだよ、それ。
私を遠ざけて自分は何をしてるの?
勇磨に触れないで。
もう、消えてよ、先生!
あーダメ、私、こんな嫉妬。
もっと勇磨にウザがられる。
でも、勇磨にとっては、先生は必要だ。
山下先生はバスケの経験者で、かなり強豪校にいたらしく、今も大学のチームに所属している現役。
そのアドバイスは的確で、勇磨も信頼している。
もちろん勇磨も、先生だからと、他の女子にするような無視やひどい態度はしない。
いちお、黙って、話も聞いてる。
触れられても怒らない。
だってバスケの指導だから。
指導なんだけど、でもおかしいんだよ。
山下先生が特別レッスンを始めた。
勇磨と2人きりで。
朝も放課後も。
知り合いのプロ選手を紹介したいって、2人で出掛けた。
それは、勇磨の為だ。
分かるよ、分かるのに。
嫌だって思う自分が止められない。
勇磨の為なのに、嫌。
でも言わないし、言う資格もない。
だって、
私もトモと2人でダンスの為に出かけた。
2人で過ごした。
だから、言えない。
勇磨だって、今もダンスの為にトモと2人になる事に、目をつぶってくれる時もあるのに。
やりたい事があって、それを上達させたい、上にいきたいって気持ちはよく分かる。
その邪魔はしたくない、絶対に。
「え、山下?すごいよな、バスケ。
ヤバイよ。あの先生。俺、尊敬するわ。
先生のおかげで、田中選手にも練習みてもらえたしな。
先生もさ、すげぇパワーと速さなんだよ。
男以上。憧れる。」
思い切って先生の事を聞いてみたけど、聞かなきゃ良かった。
尊敬、憧れ、かぁ。
勇磨にとって、山下先生は必要だ。
バスケでもっと上を目指せるから。
たかが部活だけど、命かけてるってそう
前に言ってたし、その気持ち分かる。
私にトモが必要だったのと同じ。
私には何もできないから。
だから我慢してる。
してるけど、でも、出ちゃう。
醜い嫉妬がドロドロと出ちゃう。
先生が来てから、もう、ドロドロが溢れ出て、勇磨にあたりっぱなしだ。
勇磨も最近は相手をしてくれない。
ケンカを買ってくれない。
そのまま私が落ち着くのを待つ。
鬱陶しいんだよね、きっと。
そうだ。ケンカにならないんだ。
私の感じてる違和感はそれだ。
そうだ、ケンカにもならない。
話し合い理解してもらうつもりが、ない。
そうだね。
どうせ、
私は派手で露出狂でだらしなくて、かわいくなくて。
女らしくもなく自覚もない、すぐキレる、ガサツで嫌な子だ。
もっとあるか。
勇磨は明日から合宿だ。
田中選手の合宿に参加させてもらうって。
山下先生も一緒だ。
やだよ、行かないで欲しい。
山下先生と話さないで。
触らせないで。
「勇磨くん」って呼ばせないで。
合宿なんて、絶対、危ないよ。
あの女、絶対、仕掛ける!
私にも釘刺した。
呪いをかけた。
「彼の事、好きなんでしょ。
なら、黙って行かせて。
つまんない事で縛らないの。
それとも、自信ない?
彼の心が動いてるの、気がついてるよね?
そういう時はね、黙って間をおくの。
騒がない、もっと嫌われるわよ。」
もっと、嫌われる。
私、嫌われてたのか。
嘘だ、そんなの。
自信ある、だから、合宿だって、好きにすればいい!
「行ってきなよ、チャンスだよ」
って、私から言った。
だけど、本当は行って欲しくない。
あの女をボコボコにしたい!
なんだこれ、このイライラと悪意。
やだよ、勇磨。
明日から山下先生と過ごすの?
何日、会えない?
私なんて今日、やっと会えたのに。
帰ってくる?
だけど会ったらまた悪態つく。
嫌われる。
平常心なんてできない。
大人の女性にはなれない!
でも、私だって意地がある!
勇磨の目標の邪魔にはなりたくない。
自分の気持ちばかり押し付けたくない。
我慢できる。
本当にできる?
はぁ。
できてないから、勇磨に当たってるんだ。
ダメだ、私。
なんで私を好きになってくれたんだろう。
勇磨に興味ない初めての女の子だったから?
それが私じゃなかったとしても。
山下先生が先だったら?
そっちがいいか、いいよね。
うん、私だって、そっちがいいよ。
こんな、暴力女なんて。
会えなくて良かったかもしれない。
しばらく会えなくていい。
勇磨に会って、
山下先生の話を聞くのが怖い。
決定的な事を言われるのが怖い。
次に会うのが怖いよ。
だけど、どうにもできない。
別れたくない。
離れたくない。
勇磨、好き。
どうしよう、苦しい。
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