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番外編(悠side②)
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前より、甘い香りを纏うようになった気がする。ずっと同じ香水を使っていたはずなのに…最近は濃密な花の香りがする。
以前使ってたものも、気に入ってはいるらしく、大事に瓶が飾ってあるが、付ける頻度は減っていた。
そういえば、オーダーしたボトルと言ってなかったけ?もう少し、しっかりと話を聞いてやれば良かった。「ずっと欲しかったのが手に入った!」と喜ぶ絢聖を見て、何だか面白くない気持ちになってしまい、適当に流してしまった。構えないのに、俺以外の事でことで喜んで欲しくないなんて我儘過ぎる。
爽やかかさと、甘さが同居する匂いは俺に合わせてくれていたのかもしれない。最近、纏っている香りは深くしっとりとした物だった。
自分で買ったものなのか、与えられたものなのか…。香水を贈るなんて、いやらし過ぎないか。下心が透けて見えて品がない。
あぁ…でも、あいつ、自分の為に選んでくれるとか、そういうの好きそうだもんな。好きな人の色に染まりたいとか、そういう欲求強いタイプだし。
好きな人…か。そんなの浮気じゃなく、心変わりじゃないか。
「ちょ…具合悪い?」
色々考え過ぎて、椅子に座りながら項垂れていたら心配された。相変わらず、絢聖は優しい。
「いや…大丈夫。悪い…でも、お前臭いかも…」
「えっ?香水強い?ごめん…食事の香りと混ざるとか嫌だよね!お風呂入ってくるから、先ご飯食べてて…」
別に香りが強かったわけじゃない。けれど、絢聖の完璧過ぎる態度も、今までと違うフレグランスも不快で仕方なかった。
「いや…そこまでしなくて大丈夫。食事しながら一緒に話したいこともあるし」
「そう?ならいいんだけど。じゃあ、いただきます」
目の前で手を合わせる絢聖。そんな可愛い、ふわふわの寝間着、前は着てなかっただろ?いや…住み始めた頃は、身に付けてたか?俺…どんな反応してた?
落ち着け…今日は親父がいない。しっかり話し合うチャンスだ。冷静になれ。
「パジャマ可愛いな…似合ってる」
「えっ…悠、好み変わった?前、すっきりしてるデザインの方が良いって言ってたのに…」
そういえばそんな事もあったな。我聖が好きで、絢聖に彼を重ねて…近い服装をさせようとしていた時期もあった。今思うと、最低過ぎる。
「いや…なんだろ、歳重ねて、好み変わったのかも」
「ふぅん…。まぁ…あるよね、そういうの」
そうやって、色々気付かない振りをしてくれる絢聖に大分救われて…我聖より、絢聖の事が好きになった。
優しくて、健気で…。だからこそ脆くて、繊細だと分かっていたのに、受け止めてやる余裕を持てなかった。都合の良いところだけを享受して、与えることをしなかった。
だから、俺も気付かぬ振りをして、今まで満たしてやれなかった分をこれからは与えよう…そう思ってたのに…。口が…勝手に動く。
「お前も、下着とか香水とか…大分好み変わったみたいだしな」
可哀想に…箸を持つ手が震えている。そうだよな…お前の彼氏は、人のクローゼットの中なんて興味持たない男のはずだよな。自分でもそう思ってたよ…。だが今は、絢聖のスマートフォンの中身も、洋服ダンスの内容も全てが気になって仕方がない。
「見たの…?」
「あぁ…悪い」
「あっ…そうなんだ。何か探してた?びっくりしたよね…。悠、あんなやらしいの好みじゃないでしょ?」
大好きだよ、馬鹿。…好きな子には可愛い服も、エッチなランジェリーも身につけてもらいたい。前用意してくれた時、冷めた態度を取ってしまったけれど…当時は若かったし、照れてしまっただけだ。
「好きだよ…前は恥ずかしくなっちゃって、冷たい態度取ってごめん」
「ううん…それは何となくわかってたのに、いつまでも拗ねてて僕もごめん…」
相当傷ついたくせに、謝ってくる絢聖の態度が気に食わない。ずっと、責められている気分になる。だが、それは自分が抱える勝手な負い目だ。
「いや…絢聖が謝ることないだろ」
「うん…ありがとう」
ここで会話を終わらせれば良いのに、つくづく俺は理性が弱い。
「うん…それでさ、その下着誰の前で着けてるの?」
「えっ…?何言って…」
「浮気してるだろ?って聞いてんだよ」
こんな直接的な物言いじゃ、上手く聞き出せるはずがないのに。
「してない!恥ずかしいけど、たまに着て、自分で写真撮ってエッチな気分になってただけ…引いた?」
即答での否定。用意していたような言い訳に、苛立つ反面、浮気を認めなかったことに安緒している。奇跡的にも、絢聖は俺との関係を継続しようとしてくれている。
「ふぅん、別に。性的嗜好なんて人それぞれだろ?」
「そうだよね…よかった、引かれなくて」
何だよ…そのやりきったみたいな顔は…。
「まぁ…でも、どんな写真撮ってるかは気になるかも…」
俺だって、騙された振りぐらいしてやる。だから、ボロを出して、全力で媚びてこい。俺を好きだって…出来心だったって、主張してくれよ。
毎秒、感じることがコロコロ変わって、自分の情緒に付いていけない…。
「万が一、流失すると嫌だから撮ったらすぐ消してる…今度、悠が撮影してよ。ね?」
「あぁ…分かった」
彼はこんなに器用だったか?要領がよく、色っぽく、気遣いのできる絢聖…。自分の理想のタイプに彼が近づけば近づくほど、二人の心の距離は遠ざかる一方だった。
以前使ってたものも、気に入ってはいるらしく、大事に瓶が飾ってあるが、付ける頻度は減っていた。
そういえば、オーダーしたボトルと言ってなかったけ?もう少し、しっかりと話を聞いてやれば良かった。「ずっと欲しかったのが手に入った!」と喜ぶ絢聖を見て、何だか面白くない気持ちになってしまい、適当に流してしまった。構えないのに、俺以外の事でことで喜んで欲しくないなんて我儘過ぎる。
爽やかかさと、甘さが同居する匂いは俺に合わせてくれていたのかもしれない。最近、纏っている香りは深くしっとりとした物だった。
自分で買ったものなのか、与えられたものなのか…。香水を贈るなんて、いやらし過ぎないか。下心が透けて見えて品がない。
あぁ…でも、あいつ、自分の為に選んでくれるとか、そういうの好きそうだもんな。好きな人の色に染まりたいとか、そういう欲求強いタイプだし。
好きな人…か。そんなの浮気じゃなく、心変わりじゃないか。
「ちょ…具合悪い?」
色々考え過ぎて、椅子に座りながら項垂れていたら心配された。相変わらず、絢聖は優しい。
「いや…大丈夫。悪い…でも、お前臭いかも…」
「えっ?香水強い?ごめん…食事の香りと混ざるとか嫌だよね!お風呂入ってくるから、先ご飯食べてて…」
別に香りが強かったわけじゃない。けれど、絢聖の完璧過ぎる態度も、今までと違うフレグランスも不快で仕方なかった。
「いや…そこまでしなくて大丈夫。食事しながら一緒に話したいこともあるし」
「そう?ならいいんだけど。じゃあ、いただきます」
目の前で手を合わせる絢聖。そんな可愛い、ふわふわの寝間着、前は着てなかっただろ?いや…住み始めた頃は、身に付けてたか?俺…どんな反応してた?
落ち着け…今日は親父がいない。しっかり話し合うチャンスだ。冷静になれ。
「パジャマ可愛いな…似合ってる」
「えっ…悠、好み変わった?前、すっきりしてるデザインの方が良いって言ってたのに…」
そういえばそんな事もあったな。我聖が好きで、絢聖に彼を重ねて…近い服装をさせようとしていた時期もあった。今思うと、最低過ぎる。
「いや…なんだろ、歳重ねて、好み変わったのかも」
「ふぅん…。まぁ…あるよね、そういうの」
そうやって、色々気付かない振りをしてくれる絢聖に大分救われて…我聖より、絢聖の事が好きになった。
優しくて、健気で…。だからこそ脆くて、繊細だと分かっていたのに、受け止めてやる余裕を持てなかった。都合の良いところだけを享受して、与えることをしなかった。
だから、俺も気付かぬ振りをして、今まで満たしてやれなかった分をこれからは与えよう…そう思ってたのに…。口が…勝手に動く。
「お前も、下着とか香水とか…大分好み変わったみたいだしな」
可哀想に…箸を持つ手が震えている。そうだよな…お前の彼氏は、人のクローゼットの中なんて興味持たない男のはずだよな。自分でもそう思ってたよ…。だが今は、絢聖のスマートフォンの中身も、洋服ダンスの内容も全てが気になって仕方がない。
「見たの…?」
「あぁ…悪い」
「あっ…そうなんだ。何か探してた?びっくりしたよね…。悠、あんなやらしいの好みじゃないでしょ?」
大好きだよ、馬鹿。…好きな子には可愛い服も、エッチなランジェリーも身につけてもらいたい。前用意してくれた時、冷めた態度を取ってしまったけれど…当時は若かったし、照れてしまっただけだ。
「好きだよ…前は恥ずかしくなっちゃって、冷たい態度取ってごめん」
「ううん…それは何となくわかってたのに、いつまでも拗ねてて僕もごめん…」
相当傷ついたくせに、謝ってくる絢聖の態度が気に食わない。ずっと、責められている気分になる。だが、それは自分が抱える勝手な負い目だ。
「いや…絢聖が謝ることないだろ」
「うん…ありがとう」
ここで会話を終わらせれば良いのに、つくづく俺は理性が弱い。
「うん…それでさ、その下着誰の前で着けてるの?」
「えっ…?何言って…」
「浮気してるだろ?って聞いてんだよ」
こんな直接的な物言いじゃ、上手く聞き出せるはずがないのに。
「してない!恥ずかしいけど、たまに着て、自分で写真撮ってエッチな気分になってただけ…引いた?」
即答での否定。用意していたような言い訳に、苛立つ反面、浮気を認めなかったことに安緒している。奇跡的にも、絢聖は俺との関係を継続しようとしてくれている。
「ふぅん、別に。性的嗜好なんて人それぞれだろ?」
「そうだよね…よかった、引かれなくて」
何だよ…そのやりきったみたいな顔は…。
「まぁ…でも、どんな写真撮ってるかは気になるかも…」
俺だって、騙された振りぐらいしてやる。だから、ボロを出して、全力で媚びてこい。俺を好きだって…出来心だったって、主張してくれよ。
毎秒、感じることがコロコロ変わって、自分の情緒に付いていけない…。
「万が一、流失すると嫌だから撮ったらすぐ消してる…今度、悠が撮影してよ。ね?」
「あぁ…分かった」
彼はこんなに器用だったか?要領がよく、色っぽく、気遣いのできる絢聖…。自分の理想のタイプに彼が近づけば近づくほど、二人の心の距離は遠ざかる一方だった。
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