毎日記念日小説

百々 五十六

文字の大きさ
上 下
56 / 134

8月24日 愛酒の日 まだ飲めないけど

しおりを挟む
昨日は、難しかったなぁ。
いやぁ、難しかったなぁ。
良く乗り切ったなぁ。
みんなが乗り切っただけで、俺はダメダメだったなぁ。
あれは無理だろ。
どうやって話に入っていけばいいの?
皆は、興味ないとかより全く分からない系の話題の時にどうやって会話に入っていってるのかな?
分からないという体を明確にして、質問や疑問を投げかける担当って感じなのかな?
まぁ、そこが、これからの課題だなぁ。
よし、一日経っちゃったけど、いつまでも引きずってないで、切り替えていこう。
今日も気合を入れて、俺は、『雑談部屋』に入っていった。


今日もまた、白い空間に放り出された。
そしてどこからともなくアナウンスが鳴った。


”シチュエーションの設定、人物選択、話題選択が終了しました。
これより雑談を始めます。”

やっぱりアナウンスが止んだ。
やはり、雑談部屋で一番無駄な時間なう。
AIはここを修正しないのだろうか?
やっぱ、修正しないかぁ。
修正してくれないかなぁ。
毎回同じこと思ってるなぁ。
ある意味、これがルーティーンみたいなところあるしなぁ。
そう考えると、意味があるのかなぁ?
再びアナウンスが鳴った。


”雑談所要時間は30分、盛り上がり等により自動で延長や短縮を行います。
シチュエーションは、『コンビニの前の駐車場』です。
雑談に参加するメンバーは、『田中様』『篠原様』『村山様』『佐藤様』です。
決まった役職、役割等はございません。ご気軽に参加してください。
それでは雑談を始めさせていただきます。
今回の話題は『酒』です。
それでは楽しい雑談の時間をお過ごしください。”

アナウンスがやんで、光に包まれた。
酒か。
酒かぁ。
どうしよう。
当然飲んだことはないしなぁ。
これは、ちゃんとテーマを持って行った方が良いやつだと、俺の直感が言っている。
うーん…なんだろう?…酒…酒かぁ…
憧れとか、かな?
将来の見たいシチュエーションとかをテーマにすればそこそこ盛り上がるんじゃないかな?
うん、これにしよう。
他は思いつかないし。
他の人たちが話し持ってきてなかったら、この話題を出して時間を稼いで、その間に話題を考えてもらおう。
うん。それぐらいでいい気がしてきた。
よし、なんとかなるだろう。
自分の中で今日の方針が固まってきたところで、光が収まった。


うわぁ、深夜のコンビニだぁ。
結構ちゃんと深夜のコンビニだぁ。
ちゃんと不良がたまってそうな雰囲気があるチョイ田舎のコンビニだぁ。
暗めだけどちゃんと全員の顔がはっきり見えているのは仕様というやつなんだろうな。
これで、ガニ股で座りだしたら、確実に不良だなぁ。不良じゃないとしたら、酔いつぶれた酒癖が終わってるやつぐらいかな?
シチュエーションに感心していると、篠原が話し始めてくれた。
よし、話しが始まっちゃえば、俺が用意したテーマなんて使わなくていいからなぁ。

「今日の話題は『酒』ですね。当然俺は飲んだことないですけど、皆さんも当然飲んでないですね?!」

篠原の強めの問いかけに、反射的に目いっぱい首を縦に振っていた。
他二人も俺と同じように、必死に頭を縦に振り続けている。
実際、酒とか飲んだことないからいいんだけど。
それにしても、すごい剣幕だったなぁ篠原。
もしかして、飲酒した学生とトラブルでもあったのかなぁ?
それぐらいの気迫だった。
篠原に気圧されていたなかで、村山が次の話すことを出してくれた。
ありがとう村山。流れを変えてくれて。

「お酒は今は飲めないけど、皆は、将来的に飲みたいと思う?」
「俺は、酒は全く飲みたいとは思わないですね。親の絡み酒が嫌すぎて、俺が酒を飲んだらこういう絡み酒を人にしてしまうのかもしれないと思うと、飲もうとは思えないですね」

村山の質問に篠原が食い気味に答えた。
あぁ、”飲酒学生とのトラブル”じゃなくて、”親の絡み酒”が原因で酒が嫌いなんだぁ。
へぇー、篠原の親って絡み酒をするタイプの人なんだぁ。
俺の中で、どんな親かも知らない篠原の親の最初の情報は、絡み酒をする人になった。
篠原の親の情報を頭の中でファイリングしていると、佐藤に先を越されてしまった。
最近、最後多くない?
もうちょっと早めに会話に入るように心がけようかな?

「俺は、飲んでみたいかなぁ…でも、保険の授業でやった、どれくらいアルコールに強いかのテストみたいな授業で、アルコール逃げ気弱だってことが分かったから、あまり量は飲めなさそうだけど、飲んでみたいかな…」

最後になってしまったけれど、俺が会話に加わっていった。
最近、最後だということに緊張しなくなった。
クラス30何人の最後なら緊張するかもしれないけど、たかだか4人の雑談の会話に加わる順番が最後だからってあまり緊張しなくなった。

「俺も20歳になったら飲んでみたい。バーとかかっこよくて憧れるけど、なんとなく敷居が高そう。通です見たいな感じを出さなきゃいけない感じがして大変そう」

俺が言い終わった後、まとめるように村山が言った。

「あ、さっき僕のことは言ってなかったけど、僕は飲んでみたい派だよ。篠原は、飲みたくない派だけど、佐藤も田中も飲みたい派なんだねぇ。やっぱお酒ってかっこいいよねぇ」




ふぅ、なんとかなった。
あれから、俺の持ち込みテーマの飲むとしたらの憧れのシチュエーションの話で盛り上がれた。
こっちには篠原もちゃんとのってくれて、楽しかったなぁ。
篠原は、自分は飲まないと決めてるけど、飲むシチュエーションでかっこいいと思うやつはちゃんと持ってたから、楽しく話すことができた。
最後の方、即興劇みたいになってたけど、楽しかったぁ。
昨日みたいに詰め詰めみたいな感じはしなかったから、適度に余裕をもって雑談ができた。
昨日のはきっと偶々詰め詰めだったんだ。
俺が、衰えているわけではないんだ。
自分を守るように自分に言い聞かせているとアナウンスが鳴った。


”28分21秒25が経過しました。お話の途中かと思いますが、教室の方に転送いたします。話し足りないかと思いますが、この話題はこの場限りといたしますようよろしくお願いします。教室で同じ話題をしたとしても特に罰則等はございませんが、ご協力よろしくお願いいたします。それと同じように、教室での話題をこの場に持ち込まないようよろしくお願いいたします。このアナウンスの内容を何度もお聞きになっていると思いますがなにとぞご協力よろしくお願いいたします。




年齢によって制限を受けることはたくさんあります。
お酒に、たばこに、ギャンブルに。
だけれど、今の年齢だからできることもたくさんあります。
何かの趣味に全力になったり、学業に専念したり、いろいろな友達を作るなんかも。
学校に通うことは今しかできないことの最たるものです。
今しかできないということを噛み締めながら、今日の残りの時間も頑張ってください。
それでは教室にお送りいたします。
それでは良い学校生活を”

アナウンスが止んだ。

教室に戻ってきた。
戻ってきたぁ。
楽しかったぁ。
即興劇なんて、雑談の中でやるなんて初めてだったけど楽しかったぁ。
即興劇に入る前の妄想大会も楽しかった。
みんなの趣味嗜好が分かって面白かったなぁ。
『雑談部屋』だと、いつもみんなの知らないところを知れるけど、今日はいつもよりも直球に知れた気がした。
明日も、今日みたいに楽しい雑談でありますように。
祈りながら、意識を切り替え、学校スイッチを入れなおした。
明日の『雑談部屋』の為に今日の学校生活も頑張るかぁ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

カフェバー「ムーンサイド」~祓い屋アシスタント奮闘記~

みつなつ
キャラ文芸
大学生の俺は、まかない飯が絶品のカフェバー「ムーンサイド」でバイトをしている。 ある日特別客としてやってきたダンディ紳士……彼は店長の副業『祓い屋』の依頼人だった! お祓いに悪戦苦闘する店長を見かねた俺は、思わず『お手伝い』してしまう。 全く霊感のない俺は霊からの攻撃を感じることなく、あっさり悪霊を封印してしまった。 「霊感がないって一種の才能なのかも知れないね」と店長に誘われ、祓い屋のアシスタントになった俺は、店長と共に様々な怪奇現象に立ち向かうことになる。 呪われようと祟られようと全くノーダメージという特異体質を活かして余裕の『お仕事』……かと思いきや、何故か毎回メンタルも体力もぎりぎりで苦労の連続! これは、霊力も霊感もないただのアシスタントの俺が、日々祓い屋に寄せられる依頼と格闘する汗と涙の物語である。 ★表紙イラスト・挿絵はイラストレーターの夜市様にお願いしています。 ★この物語はフィクションです。実際の事件や団体、場所、個人などとはいっさい関係ありません。宗教やそれにともなう術式、伝承、神話などについては、一部独自の解釈が含まれます。 ★この作品は「小説家になろう」と「ノベルアップ+」にも掲載しています。 ★R-15は保険です。

見え透いた現実~Barter.6~

志賀雅基
キャラ文芸
◆吐き通せなかった嘘を後悔しない/死者にもifはない/でも他に理由はない◆ キャリア機捜隊長×年下刑事のバディシリーズPart6[全72話] 県警SAT唯一の狙撃手だった刑事・京哉に仲間が増えた。キャリアでもあるその男は機動捜査隊副隊長に就任し、スナイパー仲間の京哉に誘いをかけては機捜隊長で京哉のパートナーの霧島を苛立たせる。それだけでなく麻薬に関わる疑惑があり、京哉は内偵を依頼されるが、それが何故か暴力団への潜入捜査になってしまい……。 ▼▼▼ 【シリーズ中、何処からでもどうぞ】 【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】 【Nolaノベル・小説家になろう・ノベルアップ+・ステキブンゲイにR無指定版/エブリスタにR15版を掲載】

ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十
キャラ文芸
蒼井ミハエルは、外見は十一歳くらいの人間にも見えるものの、その正体は、<吸血鬼>である。人間の<ラノベ作家>である蒼井霧雨(あおいきりさめ)との間に子供を成し、幸せな家庭生活を送っていた。 なお、長男と長女はミハエルの形質を受け継いで<ダンピール>として生まれ、次女は蒼井霧雨の形質を受け継いで普通の人間として生まれた。 これは、そういう特殊な家族構成でありつつ、人間と折り合いながら穏当に生きている家族の物語である。     筆者より  ショタパパ ミハエルくん(マイルドバージョン)として連載していたこちらを本編とし、タイトルも変更しました。

課金ヒーロー! リッチマン!!

mk-2
キャラ文芸
 ヒーローよ、その正義の心のままに『課金』をせよ――――!!

新お妃様は男の子

pope
キャラ文芸
ある日、母から買い物を頼まれた少年 白然は突如として宮廷の武官達によって抑えられて後宮に連れ去られた。そのまま無理やり宦官にされてしまうのかと思われたが、目の前に現れたのは後宮の最高監督者である鱗丹だった。そして次に言われた言葉で白然は頭が真っ白になった。 「貴方は今日より、後宮の最高位妃嬪〈四華妃〉として生きてください。」

処理中です...