毎日記念日小説

百々 五十六

文字の大きさ
上 下
56 / 147

8月24日 愛酒の日 まだ飲めないけど

しおりを挟む
昨日は、難しかったなぁ。
いやぁ、難しかったなぁ。
良く乗り切ったなぁ。
みんなが乗り切っただけで、俺はダメダメだったなぁ。
あれは無理だろ。
どうやって話に入っていけばいいの?
皆は、興味ないとかより全く分からない系の話題の時にどうやって会話に入っていってるのかな?
分からないという体を明確にして、質問や疑問を投げかける担当って感じなのかな?
まぁ、そこが、これからの課題だなぁ。
よし、一日経っちゃったけど、いつまでも引きずってないで、切り替えていこう。
今日も気合を入れて、俺は、『雑談部屋』に入っていった。


今日もまた、白い空間に放り出された。
そしてどこからともなくアナウンスが鳴った。


”シチュエーションの設定、人物選択、話題選択が終了しました。
これより雑談を始めます。”

やっぱりアナウンスが止んだ。
やはり、雑談部屋で一番無駄な時間なう。
AIはここを修正しないのだろうか?
やっぱ、修正しないかぁ。
修正してくれないかなぁ。
毎回同じこと思ってるなぁ。
ある意味、これがルーティーンみたいなところあるしなぁ。
そう考えると、意味があるのかなぁ?
再びアナウンスが鳴った。


”雑談所要時間は30分、盛り上がり等により自動で延長や短縮を行います。
シチュエーションは、『コンビニの前の駐車場』です。
雑談に参加するメンバーは、『田中様』『篠原様』『村山様』『佐藤様』です。
決まった役職、役割等はございません。ご気軽に参加してください。
それでは雑談を始めさせていただきます。
今回の話題は『酒』です。
それでは楽しい雑談の時間をお過ごしください。”

アナウンスがやんで、光に包まれた。
酒か。
酒かぁ。
どうしよう。
当然飲んだことはないしなぁ。
これは、ちゃんとテーマを持って行った方が良いやつだと、俺の直感が言っている。
うーん…なんだろう?…酒…酒かぁ…
憧れとか、かな?
将来の見たいシチュエーションとかをテーマにすればそこそこ盛り上がるんじゃないかな?
うん、これにしよう。
他は思いつかないし。
他の人たちが話し持ってきてなかったら、この話題を出して時間を稼いで、その間に話題を考えてもらおう。
うん。それぐらいでいい気がしてきた。
よし、なんとかなるだろう。
自分の中で今日の方針が固まってきたところで、光が収まった。


うわぁ、深夜のコンビニだぁ。
結構ちゃんと深夜のコンビニだぁ。
ちゃんと不良がたまってそうな雰囲気があるチョイ田舎のコンビニだぁ。
暗めだけどちゃんと全員の顔がはっきり見えているのは仕様というやつなんだろうな。
これで、ガニ股で座りだしたら、確実に不良だなぁ。不良じゃないとしたら、酔いつぶれた酒癖が終わってるやつぐらいかな?
シチュエーションに感心していると、篠原が話し始めてくれた。
よし、話しが始まっちゃえば、俺が用意したテーマなんて使わなくていいからなぁ。

「今日の話題は『酒』ですね。当然俺は飲んだことないですけど、皆さんも当然飲んでないですね?!」

篠原の強めの問いかけに、反射的に目いっぱい首を縦に振っていた。
他二人も俺と同じように、必死に頭を縦に振り続けている。
実際、酒とか飲んだことないからいいんだけど。
それにしても、すごい剣幕だったなぁ篠原。
もしかして、飲酒した学生とトラブルでもあったのかなぁ?
それぐらいの気迫だった。
篠原に気圧されていたなかで、村山が次の話すことを出してくれた。
ありがとう村山。流れを変えてくれて。

「お酒は今は飲めないけど、皆は、将来的に飲みたいと思う?」
「俺は、酒は全く飲みたいとは思わないですね。親の絡み酒が嫌すぎて、俺が酒を飲んだらこういう絡み酒を人にしてしまうのかもしれないと思うと、飲もうとは思えないですね」

村山の質問に篠原が食い気味に答えた。
あぁ、”飲酒学生とのトラブル”じゃなくて、”親の絡み酒”が原因で酒が嫌いなんだぁ。
へぇー、篠原の親って絡み酒をするタイプの人なんだぁ。
俺の中で、どんな親かも知らない篠原の親の最初の情報は、絡み酒をする人になった。
篠原の親の情報を頭の中でファイリングしていると、佐藤に先を越されてしまった。
最近、最後多くない?
もうちょっと早めに会話に入るように心がけようかな?

「俺は、飲んでみたいかなぁ…でも、保険の授業でやった、どれくらいアルコールに強いかのテストみたいな授業で、アルコール逃げ気弱だってことが分かったから、あまり量は飲めなさそうだけど、飲んでみたいかな…」

最後になってしまったけれど、俺が会話に加わっていった。
最近、最後だということに緊張しなくなった。
クラス30何人の最後なら緊張するかもしれないけど、たかだか4人の雑談の会話に加わる順番が最後だからってあまり緊張しなくなった。

「俺も20歳になったら飲んでみたい。バーとかかっこよくて憧れるけど、なんとなく敷居が高そう。通です見たいな感じを出さなきゃいけない感じがして大変そう」

俺が言い終わった後、まとめるように村山が言った。

「あ、さっき僕のことは言ってなかったけど、僕は飲んでみたい派だよ。篠原は、飲みたくない派だけど、佐藤も田中も飲みたい派なんだねぇ。やっぱお酒ってかっこいいよねぇ」




ふぅ、なんとかなった。
あれから、俺の持ち込みテーマの飲むとしたらの憧れのシチュエーションの話で盛り上がれた。
こっちには篠原もちゃんとのってくれて、楽しかったなぁ。
篠原は、自分は飲まないと決めてるけど、飲むシチュエーションでかっこいいと思うやつはちゃんと持ってたから、楽しく話すことができた。
最後の方、即興劇みたいになってたけど、楽しかったぁ。
昨日みたいに詰め詰めみたいな感じはしなかったから、適度に余裕をもって雑談ができた。
昨日のはきっと偶々詰め詰めだったんだ。
俺が、衰えているわけではないんだ。
自分を守るように自分に言い聞かせているとアナウンスが鳴った。


”28分21秒25が経過しました。お話の途中かと思いますが、教室の方に転送いたします。話し足りないかと思いますが、この話題はこの場限りといたしますようよろしくお願いします。教室で同じ話題をしたとしても特に罰則等はございませんが、ご協力よろしくお願いいたします。それと同じように、教室での話題をこの場に持ち込まないようよろしくお願いいたします。このアナウンスの内容を何度もお聞きになっていると思いますがなにとぞご協力よろしくお願いいたします。




年齢によって制限を受けることはたくさんあります。
お酒に、たばこに、ギャンブルに。
だけれど、今の年齢だからできることもたくさんあります。
何かの趣味に全力になったり、学業に専念したり、いろいろな友達を作るなんかも。
学校に通うことは今しかできないことの最たるものです。
今しかできないということを噛み締めながら、今日の残りの時間も頑張ってください。
それでは教室にお送りいたします。
それでは良い学校生活を”

アナウンスが止んだ。

教室に戻ってきた。
戻ってきたぁ。
楽しかったぁ。
即興劇なんて、雑談の中でやるなんて初めてだったけど楽しかったぁ。
即興劇に入る前の妄想大会も楽しかった。
みんなの趣味嗜好が分かって面白かったなぁ。
『雑談部屋』だと、いつもみんなの知らないところを知れるけど、今日はいつもよりも直球に知れた気がした。
明日も、今日みたいに楽しい雑談でありますように。
祈りながら、意識を切り替え、学校スイッチを入れなおした。
明日の『雑談部屋』の為に今日の学校生活も頑張るかぁ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

兄の悪戯

廣瀬純一
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

片翅の火蝶 ▽半端者と蔑まれていた蝶が、蝋燭頭の旦那様に溺愛されるようです▽

偽月
キャラ文芸
  「――きっと、姉様の代わりにお役目を果たします」  大火々本帝国《だいかがほんていこく》。通称、火ノ本。  八千年の歴史を誇る、この国では火山を神として崇め、火を祀っている。国に伝わる火の神の伝承では、神の怒り……噴火を鎮めるため一人の女が火口に身を投じたと言う。  人々は蝶の痣を背負った一族の女を【火蝶《かちょう》】と呼び、火の神の巫女になった女の功績を讃え、祀る事にした。再び火山が噴火する日に備えて。  火縄八重《ひなわ やえ》は片翅分の痣しか持たない半端者。日々、お蚕様の世話に心血を注ぎ、絹糸を紡いできた十八歳の生娘。全ては自身に向けられる差別的な視線に耐える為に。  八重は火蝶の本家である火焚家の長男・火焚太蝋《ほたき たろう》に嫁ぐ日を迎えた。  火蝶の巫女となった姉・千重の代わりに。  蝶の翅の痣を背負う女と蝋燭頭の軍人が織りなす大正ロマンスファンタジー。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...