毎日記念日小説

百々 五十六

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7月31日 パラグライダーの日 大久保の誕生日

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今日もまた、白い空間に放り出された。
そしてどこからともなくアナウンスが鳴った。


”シチュエーションの設定、人物選択、話題選択が終了しました。
これより雑談を始めます。”

やっぱりアナウンスが止んだ。
やはり、雑談部屋で一番無駄な時間なう。
AIはここを修正しないのだろうか?
やっぱ、修正しないかぁ。
再びアナウンスが鳴った。


”雑談所要時間は30分、盛り上がり等により自動で延長や短縮を行います。
シチュエーションは、『山頂』です。
雑談に参加するメンバーは、『田中様』『九条様』『関様』『大久保様』です。
決まった役職、役割等はございません。ご気軽に参加してください。
それでは雑談を始めさせていただきます。
今回の話題は『パラグライダー』です。
それでは楽しい雑談の時間をお過ごしください。”

アナウンスがやんで、光に包まれた。
メンバーが昨日と全く同じメンバーだった。
なんだろうバグかな?
それとも奇跡的な確率でたまたま同じ組み合わせなのかな?
そんな奇跡が起こるなら、今じゃない方が良いんだけどなぁ。
なんで今なんだろう。
もっとおみくじとか、一番くじとかそういうので奇跡が起こってほしいけどなぁ。
それにしても、パラグライダーかぁ。
昨日までの30年早そうな話題達よりは分かるけど、また難しそうな話題を。
経験者がいたらいいなぁ。
それなら、ほぼ話聞くだけで終わりそうだし。
話題難しいなぁ。
すごい分かりやすい『犬』『猫』とか話題にならないかなぁ。

話題に対する不満を漏らしていると光が止んだ。
光が止んだ瞬間、九条と関がいつもの九条のテンションよりも高く、ハモって話し出した。
「「大久保さん!!!誕生日おめでとう!!!!!!」」
ふたりのお祝いの言葉に、大久保さんはめちゃくちゃ驚いている。
それと同じように俺も驚いている。
なんで二人、息ぴったり合わせてそんなことができたのだろうか?
こっちに来て、一瞬で言ったから、打ち合わせとかもないだろうに。
事前に連絡してたのかな?
でも、『雑談部屋』に入る前にメンバーを確認することもできないし、どうやってこのことを共有してたのかな?
たまたま?
また、偶々なの?
それとも、一緒になりたい人と一緒になれる隠し機能でもあるのだろうか?
もしくは、クラス全員で、計画して、偶々大久保と同じになったメンバーがお祝いするって段取りだったんだろうか?
それなら、なんで俺の元に話が来てないんだろう?
もしかして話が来てたのかな?
でも、俺はちゃんと通知とかこまめに確認するタイプだから、見落としてるなんてことないはずだけどな。
連絡忘れ?
それともただただ、はぶられてた?
それとも、一部の人だけでやってた企画だったのかな?
まぁ、真実は今は分からないから、考えるのはいったんやめておこう。
それにしても、今日大久保の誕生日だったんだ。
正直忘れてた。
これからは、ちゃんとクラスメイトの誕生日は覚えとこ。反省。反省。
山頂というシチュエーションだから、なんとなく、さっきの二人お祝いの言葉が、うっすらやまびことなって返ってきている気がする。
「おめでとーー」
耳を澄ませればそう聞こえてきた気がする。
まぁ、気のせいだろうけど。
今までさんざん人ごみのシチュエーションで人の声一つ聞こえなかった『雑談部屋』に、やまびこだけ機能として搭載されているなんてことはないはず。
驚いていて、結構な時間固まっていた大久保が、感極まったようにしながら返答した。
「ありがとう。めちゃくちゃ、うれしい。こうやって、祝われると、嬉しいけど、ちょっと、恥ずかしいね」
大久保が一度に話す長さが、いつもより5割増しくらいになっている。
相当嬉しいのであろう。
そして、だいぶ恥ずかしいのであろう。
大久保はいつもより少し早口だった。
俺は、大久保が、ちゃんと二人に感謝を伝えるのを待っていた。
きちんと三人の話しが完結したっぽい。
よし、これで気を使う必要がないな。
蚊帳の外にいた俺が話し始めた。
「なんで、入って早々そんな息の合ったサプライズができたの?気になる!!」
なるべく、困惑ともしも俺の仮説が正しかった時の少しの怒りを隠して、興奮した風に元気よく聞いた。
そしたら、関が困惑しながら教えてくれた。
「昨日の夕方、”誕生日を祝いたい有志のグループ”からDMこなかった?”もし明日の『雑談部屋』で大久保さんと一緒になったら、光が収まったらすぐにお祝いをしてくれない?”って」
どうやら、俺の想像は正しかったらしい。
連絡漏れかな?
さすがに、ここで盛大にハブられているなんてことはないはずだ。
そうであると願うしかないが。
予想していたからある程度、落ち着いているが、それでもある驚きを前面に出しながら、俺話した。
「え?!俺のところにそんあDM来てないぞ。DMは、ちゃんと今朝も確認したから来てないことは確かだ。もしかして連絡漏れかな?」
俺の発言を受けて、また盛大にふたりは驚いた。
ふたりの表情は困惑・驚き100%だった。
どうやら、本当に連絡漏れっぽいな。
「「えっ?!!!!」」
2人が驚きで声が漏れてしまったタイミングでアナウンスが鳴った。
なんで今なんだろう?
まだ30分はたっていないはずなんだけどな?
それにしても、大久保がなんとも居づらそうな表情してたな。


”皆様方の会話の内容が、話題と一切関係しない内容だったため、雑談を中断させていただきました。
話題を戻すよう警告を入れようかと思いましたが、お話が盛り上がっているようだったため、警告を入れるタイミングがありませんでした。
ですが、話題からそれた状態が10分を超過したため、雑談は強制終了となります。
警告を飛ばしての特例措置となりますが、雑談は終了です。
次のアナウンスが鳴り次第、この雑談は終了となります。
次回からはきちんと話題に沿った内容をお話しください。”

あぁ、『雑談部屋』内で勝手に誕生日を祝っていたから、強制終了なんだ。
雑談の醍醐味って話題がそれていくことでもあるから、10分までは許容してくれるんだ。
今回に関しては、そもそもちゃんと話題に関して話してもいないし、最初から全く関係ないことをしてたんだし、話が違うかもしれないなぁ。
それにしても、強制終了かぁ。
初めて食らったなぁ。
まぁ、ちゃんと話題に沿ってなかったからしょうがないな。
きちんとルールは守らなきゃだしね。
俺が知らないだけで、『雑談部屋』にはいろいろ他にも機能があるのかな?雑談を充実させるためのものが。
それにしても、ちょっとだけアナウンスさんの声色が起こってるっぽかったな。
わざわざ『雑談部屋』側が話題もそれに合ったシチュエーションも用意してるのに、それを全無視して関係ないことしてたら、そりゃ怒るよな。
俺がアナウンスさんの立場だったら確実に起こってるな。それに、わざわざ怒ってることを隠してあげることもしないなぁ・
再びアナウンスが鳴った。
強制終了となって、祝った二人も、祝われた大久保もめちゃくちゃ気まずそうにしている。
良かれと思ってやったのに、強制終了になっちゃったんだし、気まずくなっちゃってもしょうがないかぁ。


”10分19秒45が経過しました。脱線が過ぎたため、教室の方に転送いたします。話し足りないかと思いますが、この話題はこの場限りといたしますようよろしくお願いします。教室で同じ話題をしたとしても特に罰則等はございませんが、ご協力よろしくお願いいたします。それと同じように、教室での話題をこの場に持ち込まないようよろしくお願いいたします。このアナウンスの内容を何度もお聞きになっていると思いますがなにとぞご協力よろしくお願いいたします。


次回は話題に沿った内容をお話しください。
今日の残りの時間も頑張ってください。
それでは教室にお送りいたします。
それでは良い学校生活を”

アナウンスが止んだ。

教室に戻ってきた。
教室に戻ってきた瞬間、大きなクラッカーの音と共に皆の声が幾度にもハモって俺たちの元まできた。
「「「「「「「大久保さん、誕生日おめでとう!!」」」」」」
皆お祝いムードだった。
こんだけ暖かくお祝いされたら、めちゃくちゃいい誕生日になりそうだな。
俺への連絡漏れ、雑談の強制終了を知っている三人は、見るとちょっと気まずそうにしていた。


後日、『雑談部屋』を雑談目的で使用しないよう全校で指導が入った。
そして禁止の例の一つに、”個人的なサプライズに使用する”が含まれていて、だいぶ笑いをこらえるのが大変だった。
その時の仕掛け側二人と、計画したメンバーが、ちょっとだけシュンとしてた。

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