毎日記念日小説

百々 五十六

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7月23日 カシスの日

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今日もまた、白い空間に放り出された。
そしてどこからともなくアナウンスが鳴った。
”シチュエーションの設定、人物選択、話題選択が終了しました。
これより雑談を始めます。”
やっぱりアナウンスが止んだ。
やはり、雑談部屋で一番無駄な時間なう。
再びアナウンスが鳴った。
”雑談所要時間は30分、盛り上がり等により自動で延長や短縮を行います。
シチュエーションは、『大規模農園』
雑談に参加するメンバーは、『田中様』『佐々木様』『小坂様』『松本様』です。
決まった役職、役割等はございません。ご気軽に参加してください。
それでは雑談を始めさせていただきます。
今回の話題は『カシス』です。
それでは楽しい雑談の時間をお過ごしください。”

アナウンスが止み、光が包む。
最近、男子多めの回が多いんじゃない?
まぁ、別にいいけど。
光が止んだ。
日本から出たような雰囲気の大規模な農園の小屋みたいなところに出た。
窓からのぞくのは、ちょっと背が高いくらいの緑。
あれは、何を作っているのだろうか?
野菜か何かかな?大豆とか?
俺が窓の外をよく見るため身を乗り出そうとしたタイミングで、佐々木が話し出してしまった。なんとも間の悪い。
「カシスってなんだ?あの外に植わってるやつのことか?皆の中にカシスについて知ってる奴いるか?」
「分かんない。カシスってカシスオレンジですか聞いたことない単語」
いの一番に反応したのは小坂だった。
小坂はカシスを知らないらしい。
俺も知らないが。
確かにカシスってカシスオレンジで聞いたことがある気がする。
「カシスオレンジってなんだ?」
佐々木が、小坂に聞き返した。
確かにカシスオレンジって何なんだろう?
よく分からないけど、ここで入らなかった会話の流れにうまく乗れなさそうだから、頑張ってはいるしかないかぁ。
小坂が佐々木の問いに返すのがいいんだけれど、申し訳ないけど割り込ませてもらう。こういうときって普通、知ってる、知識のある人が割り込むんだけどなぁ。イメージだけで話して流れを粉砕しないか心配だなぁ。
「お洒落な人が飲んでる飲み物なんじゃない?よく知らないけど、そんなイメージがある」
「カシスオレンジっていうのはね、カクテルの名前なんだよ。カシスリキュールってやつをオレンジジュースで割って作られているらしいよ。カクテルのことはあんまり詳しくないからカシスリキュールが何なのかは分からないけど」
松本が、良い感じにまとめてくれた。
よかったぁ。
俺が流れを壊しちゃって、これから話がなんとなくの雰囲気あるある大会みたいになっていったら、申し訳ないからなぁ。
松本ってなんでそういう教科書に載ってなさそうな雑学的なことに詳しいんだろう?
テレビをいっぱい見てるのかなぁ?テレビっ子ってことなのかなぁ?
もしくは、ネットっ子?
まぁ、別にそんなことは今はどうでもいいか。

俺が適当なことを考えている間に、小坂が何かをスマホで調べていた。
『雑談部屋』内だとスマホは原則検索でしか使用できない。だから、隠れてゲームをしているわけではないだろう。
検索が終わったのか、小坂がスマホを眺めながら話し始めた。
「カシスって言うのはカシスって名前の果実のことらしい。見た目的に多分外に植わっている奴で間違いないと思うよ。そのカシスで作ったお酒がカシスリキュールらしいよ。カシスはベリー類の一つなんだって。味は甘酸っぱくてえぐみがあるみたい。ほらこれなんだけど」
小坂がスマホをこちらに向けてきた。
俺たち三人は小坂の普通よりちょっとだけ大きめのスマホを三人で覗き込んだ。
ちょっと顔が近いなぁ。
まぁ、スマホを三人で覗き込んでるから仕方ないんだけど。
気を取り直して小坂の画面に移された画像を見た。
カシスの見た目は色が濃い目のブルーベリーみたいだった。
でかめの黒コショウみたいだった。
こんな感じの実の食べちゃいけないような植物が子供のころ遊んでいた公園に生えていた気がする。
小坂のスマホの画像を見て皆感想を言い出した。
小坂が最初に言った。
「なんとなくブルーベリーっぽいね」
佐々木が続いた。
「俺は、ベジタリアンの食事のサラダにいそうな感じがした。お洒落感が強い」
俺も絞り出すようにして続いた。
「俺は良い期目の胡椒の実に見えたな」
最後に松本が言った。
「意識高い系インフルエンサーが摂取してた気がする。そんなもん食べて健康になってほんとに幸せなの?って感じの生活してる意識高い系の人が」
なんとなくイメージ大会のネタが尽きてきたところで、アナウンスが鳴ってくれた。

”25分12秒24が経過しました。お話の途中かと思いますが、教室の方に転送いたします。話し足りないかと思いますが、この話題はこの場限りといたしますようよろしくお願いします。教室で同じ話題をしたとしても特に罰則等はございませんが、ご協力よろしくお願いいたします。それと同じように、教室での話題をこの場に持ち込まないようよろしくお願いいたします。このアナウンスの内容を何度もお聞きになっていると思いますがなにとぞご協力よろしくお願いいたします。



知らないことを知ることは面白いことです。物事は繋がっています。仮に今まで知らなかった知識でも既存の物事に結びついて、最初からなんとなくのイメージが持てるものが存在します。そんな自分の感覚に素直に生活してみてください。今日も素直に、残りの時間も頑張ってください。
それでは教室にお送りいたします。
それでは良い学校生活を”
アナウンスが止み教室に戻ってきた。
なんとなく気持ち涼しくなった気がした。
カシス、ちょっとだけ食べてみたくなった。

今日の雑談はどうすればよかったのだろうか?
どんなメンバーだったらちゃんと盛り上がったのだろうか?
やっぱ雑談で知らないこと話すのって難しい。
けど、いつもとは違った体験でちょっと楽しい。
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