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毎日記念日小説(完)
料理人 6月13日は鉄人の日
しおりを挟む母が、いつもとは違う真っ白な服を着て厨房に立っていた。
母は、お玉と鍋をもってこちらに向かってポージングしていた。
「ねぇねぇ、たくま。鉄人で言うと誰のポージングがいいと思う」
「お母さん、なんでポージングをしてるの?」
母はポージングをやめ頬を赤らめて恥ずかしそうに言った。
「最近料理に飽きてきちゃって。20年も同じように料理作り続けてるとだんだん飽きてきて、作業みたいな感覚だったから、新しいことを取り入れて楽しく料理を作ろうかなって思って。あの頃憧れた鉄人ごっこをしてから料理を作り出せば、テンションも上がっていいかなって思ったの。ただ、お母さんもう年でね、鉄人がどんな感じだったのか追い出せないのよ」
オタクのように早口で長文を話す母の姿は、大変珍しかった。
早口になってしまうくらい母は鉄人というものが好きだったのだろう。
「お母さん、鉄人ってなーに?」
俺は、知らなかった”鉄人”という言葉について母に尋ねてみた。
すると母は、ジェネレーションギャップに打ちひしがれている人みたいに倒れこんでしまった。
母はまっさらになってしまっていた。燃え尽きてるみたいだ。
俺が鉄人を知らないことがそれほどショックだったのだろうか。
そんな床に倒れこむなんてこれから料理をするのに汚くないのだろうか。
「お母さん、そんな体勢になったら、服汚れ手料理に支障出ない?」
「純粋な目の息子に正論で諭された。ひぃひぃふぅ。落ち着きなさい私。今の子って鉄人を知らないのね。現実を受け入れるのよ」
母は、刺されたかのようにうずくまってしまった。
母の言葉は、最初はかなり演技がかっていたけれど、最後の方はめちゃくちゃガチ感があった。だけど最後はぼそぼそと何かを言っていて聞き取れなかった。残念。
なんで厨房の母がうずくまってるのがリビングにいる私に分かるかというと、倒れこ込むときは、母は顔だけ厨房の横から出していたけれど、うずくまる時に母は、私に見やすいようにわざわざ全身を厨房の横に出した後にうずくまったのだ。
しばらくして、立ち直ったらしい母は、立ち上がった。
そして意を決して話し始めた。
「たくま、鉄人というのはね、昔のテレビ番組であった料理番組で、かっこよく料理をしていた料理人の方々のことなの。みんな、その番組のタイトルから出ていた料理人さんを鉄人って呼んでたの」
「へぇ、そうだったんだ。その真っ白い服も誰かの衣装なの?かっこいいね」
「えぇそうよ」
母親はどうやら持ち直したらしい。
その後何故か上機嫌に料理を作り始めた。
だから、その服汚れてないの?
あ、汚れてないんだ。
ちゃんと床を掃除してるからホコリ一つないんだ。
あ、そうなんだ。
ごめんなさい。
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