上 下
84 / 310
毎日記念日小説(完)

ねぇ、君の老後は? 6月5日はろうごの日

しおりを挟む


爺さんになった私は、縁側に腰かけていた。
ぼーっとただただ庭を眺めていた。
そこに婆さんが、お茶を持ってきてくれた。爺さんの鈍った感覚に合った、20年前だとのめない熱さのお茶。
婆さんと共に、随分と見た目が変わってきたけれど、外見なんかより中身がずいぶん変わったんだ。
若い頃の私であれば、こんなにのんびりはしていなかったであろう。
若いころは、肉食獣に背中を追い回されていたのか、はたまた実は回遊魚だったのか、とにかく急かされていた。
あの時は、都会の魔法に呑まれていたんだろうなぁ。
まぁ、あの時の性格の影響も強かったんだろうけど。
一分一秒、無駄にせず、きつきつの人生を送りたい。若い時は、そういう性格だったなぁ。
あの頃の生活が悪かったとは言わないが、今の私には今の生活があっているのだと心から思う。今の生活にあるゆとりを味わうと、もう戻れない。そう考えるくらいには時がったのだ。
そして何より、何かを肯定するために何かを否定しなくてよくなった。
牙を抜かれたと小言を言うやつがいるが、それに嚙みつかなくなったのも変化なんだと思う。
昔の私ならここで、変化を成長などと言っていたかもしれない。
それは、過去の自分より今の自分が優れていると、人生を縦に並べていたからだ。昔を下に置き、今をその上に置く。常に自分の正しさを何かの否定にゆだねていたように思う。
今の私は、どんな時であれ横並びで考えるようになった。だから、この変化が、右から左に変わったというぐらいの感覚だから『変化』というのだろう。
どちらがいいというわけではないが、変わったんだとしみじみ思った。
こう、自分を俯瞰で見られるようになったのは、心がもう体から離れ始めている証拠なのかもしれない。
医者曰く、私の寿命はあと5年らしい。
それを聞かされた時に焦らなかった。
そして、時間の経過を真に感じた。

まぁ、全部ひっくるめて、
今日この景色を見られるだけで幸せだなぁ。



「こんな感じの老後でどう?」
「おぉ、だいぶしっかりとしたイメージあるんだね。なんか走馬灯みたいだね」
「話しながら考えてたら、すぐ死にそうな感じになっちゃった」
「まぁ、穏やかになるってのもいいね」
「君は、穏やか系かバリバリ系ならどっちがいいの?」
「私はね、バリバリ系がいいかなぁ。最後までみんなの記憶に強烈に残っていたいかなぁ」
「じゃあ君の今描いてる理想の老後ってどんな感じなの?教えて!」
「私はね、――――――」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

処理中です...