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毎日記念日小説(完)
ねぇ、君の老後は? 6月5日はろうごの日
しおりを挟む爺さんになった私は、縁側に腰かけていた。
ぼーっとただただ庭を眺めていた。
そこに婆さんが、お茶を持ってきてくれた。爺さんの鈍った感覚に合った、20年前だとのめない熱さのお茶。
婆さんと共に、随分と見た目が変わってきたけれど、外見なんかより中身がずいぶん変わったんだ。
若い頃の私であれば、こんなにのんびりはしていなかったであろう。
若いころは、肉食獣に背中を追い回されていたのか、はたまた実は回遊魚だったのか、とにかく急かされていた。
あの時は、都会の魔法に呑まれていたんだろうなぁ。
まぁ、あの時の性格の影響も強かったんだろうけど。
一分一秒、無駄にせず、きつきつの人生を送りたい。若い時は、そういう性格だったなぁ。
あの頃の生活が悪かったとは言わないが、今の私には今の生活があっているのだと心から思う。今の生活にあるゆとりを味わうと、もう戻れない。そう考えるくらいには時がったのだ。
そして何より、何かを肯定するために何かを否定しなくてよくなった。
牙を抜かれたと小言を言うやつがいるが、それに嚙みつかなくなったのも変化なんだと思う。
昔の私ならここで、変化を成長などと言っていたかもしれない。
それは、過去の自分より今の自分が優れていると、人生を縦に並べていたからだ。昔を下に置き、今をその上に置く。常に自分の正しさを何かの否定にゆだねていたように思う。
今の私は、どんな時であれ横並びで考えるようになった。だから、この変化が、右から左に変わったというぐらいの感覚だから『変化』というのだろう。
どちらがいいというわけではないが、変わったんだとしみじみ思った。
こう、自分を俯瞰で見られるようになったのは、心がもう体から離れ始めている証拠なのかもしれない。
医者曰く、私の寿命はあと5年らしい。
それを聞かされた時に焦らなかった。
そして、時間の経過を真に感じた。
まぁ、全部ひっくるめて、
今日この景色を見られるだけで幸せだなぁ。
「こんな感じの老後でどう?」
「おぉ、だいぶしっかりとしたイメージあるんだね。なんか走馬灯みたいだね」
「話しながら考えてたら、すぐ死にそうな感じになっちゃった」
「まぁ、穏やかになるってのもいいね」
「君は、穏やか系かバリバリ系ならどっちがいいの?」
「私はね、バリバリ系がいいかなぁ。最後までみんなの記憶に強烈に残っていたいかなぁ」
「じゃあ君の今描いてる理想の老後ってどんな感じなの?教えて!」
「私はね、――――――」
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