80 / 310
毎日記念日小説(完)
あの日の麦茶 6月1日は麦茶の日
しおりを挟む
夢を見た。
遠き日の思い出。ひと夏の記憶。
俺が俺になったあの日の夢を。
それは、暑い夏の日だった。
俺は、おじいさんの家に帰省していた。
おじいさんの家は、田舎だった。
そこそこの都会から来ていた俺は、全てが珍しかった。
視界のほとんどを占める自然。
人波や喧噪なんてものはなく、虫の音と風の音だけが響き渡っていた。
緑に覆われた町は、別世界に思えたことを今でも覚えている。
俺はその日、おじいさんの家の縁側に座って外を眺めていた。
何かやりたいことはなかったけれど、俺にとって珍しい眼前の景色を一秒でも眺めていたかった。
だけど俺には外を走り回るだけの体力はなかった。
だから涼しい縁側から景色を目に焼き付けていた。
その姿は、周りの親せきからは変な子と思われていたらしい。
そんな変な子であった私に、唯一話しかけてきたのがあの子だった。
あの子との初対面は、あの子から話しかけてもらった。
あの子は、麦茶を片手に、俺の隣に座った。
それからしばらく俺たちは二人並んで静かに座っていた。
あの子は俺の顔をのぞき込んで、意を決したように言ったのだ。
「麦茶いる?」
その顔を見た瞬間俺は、恋に落ちた。
さっきまで感動していた、景色がかすむほどあの子は可愛かった。
それから俺にはあの子しか見えていなかった。
さっきまで感動していた景気は、あの子の背景へとなり下がっていた。
「あ、うん」
俺は、あまり口が達者な方じゃなかったので、しどろもどろになりながらあの子から麦茶を貰った。
恋に落ちた衝撃と、割と長時間外を眺めていたことで火照った身体を麦茶で冷やした。
体が冷え冷静さを取り戻した。
冷静になって、好きな子が隣にいるという事実に心臓をバクバクさせた。
「ねぇ、君なんて言うの?」
それから、あの子にリードされながら会話を続けた。
あの子は、話し上手というより聞き上手だった。
俺の言葉をちゃんと待ってくれて、相槌もしっかりしてくれて、何より目を見て話せた。
だから会話が苦手な俺でも、あの子の前では饒舌になれた。
いつの間にか、燦燦と照っていた太陽は沈み、あんなに高かった気温は、落ち着いていた。
それから俺は、あの子と別れるまでずっと一緒にいた。
一緒に虫取りに出かけたり、散歩に出かけたりもした。
いっぱいお話をしたし、いろいろなことを聞いた。
俺より二つ年上のあの子の話は、とても面白かった。
大人が話している話よりも近く感じられた。
あの事何かをしたいというより、あの子と一緒に居たくて、その口実で何かしていた。
ただ俺たちにも別れの時が訪れた。
当然だ。俺たちは親せきの集まりでおじいさんの家に来ていただけで、もともと住む場所は、遠い。
俺は、人生で初めて駄々をこねた。
もっとあの子と一緒にいたいと。一緒にいさせてほしいと。
親は困った顔をするだけで、俺の願いはかなえてくれなかった。
離れるのは嫌だったけれど、涙の別れはもっと嫌だった。
だから俺は、あの子が帰ってしまう直前に泣き止んで笑顔で見送った。
その時に何か約束をした気がするけど、もう何年も前の話なので、忘れてしまった。
多分あの子ももう覚えてないだろう。
薄情だと思うかもしれないが、子供のころのひと夏の思い出なんてこんなもんじゃないだろうか?
夢から覚めた時、俺の頬には一筋の涙が伝っていた。
俺は、もう一度会いたいと願いながら瞳を再び閉じた。
遠き日の思い出。ひと夏の記憶。
俺が俺になったあの日の夢を。
それは、暑い夏の日だった。
俺は、おじいさんの家に帰省していた。
おじいさんの家は、田舎だった。
そこそこの都会から来ていた俺は、全てが珍しかった。
視界のほとんどを占める自然。
人波や喧噪なんてものはなく、虫の音と風の音だけが響き渡っていた。
緑に覆われた町は、別世界に思えたことを今でも覚えている。
俺はその日、おじいさんの家の縁側に座って外を眺めていた。
何かやりたいことはなかったけれど、俺にとって珍しい眼前の景色を一秒でも眺めていたかった。
だけど俺には外を走り回るだけの体力はなかった。
だから涼しい縁側から景色を目に焼き付けていた。
その姿は、周りの親せきからは変な子と思われていたらしい。
そんな変な子であった私に、唯一話しかけてきたのがあの子だった。
あの子との初対面は、あの子から話しかけてもらった。
あの子は、麦茶を片手に、俺の隣に座った。
それからしばらく俺たちは二人並んで静かに座っていた。
あの子は俺の顔をのぞき込んで、意を決したように言ったのだ。
「麦茶いる?」
その顔を見た瞬間俺は、恋に落ちた。
さっきまで感動していた、景色がかすむほどあの子は可愛かった。
それから俺にはあの子しか見えていなかった。
さっきまで感動していた景気は、あの子の背景へとなり下がっていた。
「あ、うん」
俺は、あまり口が達者な方じゃなかったので、しどろもどろになりながらあの子から麦茶を貰った。
恋に落ちた衝撃と、割と長時間外を眺めていたことで火照った身体を麦茶で冷やした。
体が冷え冷静さを取り戻した。
冷静になって、好きな子が隣にいるという事実に心臓をバクバクさせた。
「ねぇ、君なんて言うの?」
それから、あの子にリードされながら会話を続けた。
あの子は、話し上手というより聞き上手だった。
俺の言葉をちゃんと待ってくれて、相槌もしっかりしてくれて、何より目を見て話せた。
だから会話が苦手な俺でも、あの子の前では饒舌になれた。
いつの間にか、燦燦と照っていた太陽は沈み、あんなに高かった気温は、落ち着いていた。
それから俺は、あの子と別れるまでずっと一緒にいた。
一緒に虫取りに出かけたり、散歩に出かけたりもした。
いっぱいお話をしたし、いろいろなことを聞いた。
俺より二つ年上のあの子の話は、とても面白かった。
大人が話している話よりも近く感じられた。
あの事何かをしたいというより、あの子と一緒に居たくて、その口実で何かしていた。
ただ俺たちにも別れの時が訪れた。
当然だ。俺たちは親せきの集まりでおじいさんの家に来ていただけで、もともと住む場所は、遠い。
俺は、人生で初めて駄々をこねた。
もっとあの子と一緒にいたいと。一緒にいさせてほしいと。
親は困った顔をするだけで、俺の願いはかなえてくれなかった。
離れるのは嫌だったけれど、涙の別れはもっと嫌だった。
だから俺は、あの子が帰ってしまう直前に泣き止んで笑顔で見送った。
その時に何か約束をした気がするけど、もう何年も前の話なので、忘れてしまった。
多分あの子ももう覚えてないだろう。
薄情だと思うかもしれないが、子供のころのひと夏の思い出なんてこんなもんじゃないだろうか?
夢から覚めた時、俺の頬には一筋の涙が伝っていた。
俺は、もう一度会いたいと願いながら瞳を再び閉じた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる