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桜のように散った私たち【読み切り版】【僕Ver.】(未完)
未来のエピローグ
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『今年結婚します。ぜひ、結婚式に来てね』
年賀状に大きく印字されたその文字を見て、ため息をつく。
また結婚かよ。
先月も結婚式に行って来たばっかりなのに。
文字に添えられた楽しげなツーショット写真を見る。
今度は誰だよ。写真見てもわかんねえよ。
めでたいその予告の下には、そっと添えられた女性らしい丸文字が見えた。
『また顔を見せてよ。去りし恋のキューピット』
意外なことが書かれていて驚く。
こんな事書いて恥ずかしくないのかな?
パッと表を見ると、久しぶりに見る名前が並んでいた。
東条 薫
癒月
一足早く籍を入れたのか、そこには、見慣れない字面の見慣れた名前が並んでいた。
懐かしさに浸ることもなく、無造作にそれを年賀状の山に投げ入れた。
冷めた頭で、次の年賀状に目を通していく。
『あけましておめでとう』だの『今年もよろしく』だのと、あまり中身のないのに律儀に送ってくれる高校時代の友人の年賀状を頬を緩ませながら流し見る。
年末年始帰省していたから、溜まりに溜まった年賀状の山が、右から左に動ききった。
一息つき、気合を入れて、帰省したときにおやに実家に届いた年賀状とともに渡された結婚式の招待状を手に取る。
センスのいいシルバーの招待状。
ハガキでいいものをわざわざメッセージカードにしているところに癒月のロマンチストさを感じる。
中を開くと、外側からは想像もできないほど簡素で見やすい中身になっていた。
中の簡潔さには、あいつのさっぱりした性格がにじみ出ている。
そこでやっと、ぼやっとしていたあいつらの顔を思い出すことができた。
とうとう、あいつらも結婚するのか。
あいつら中学生から付き合ってたな。まさか、ゴールインするとはなぁ。
ビリッ
俺は、結婚式の招待状を裂いて捨てた。
今年が後一時間で終わるという、新年の幕開けを目前に控えたタイミングで実家に帰省した。
ピーンポーン
ドタドタドタドタ
「早く入って。もう一時間で、年変わっちゃうでしょ」
インターホンを押すなり母親が出てきて、急かされながら家の中に入った。
荷物も下ろさぬまま、立ち食いで年越しそばを食した。
ボーン...ボーン...
除夜の鐘も後半に差し掛かってきた。
親戚に一通り挨拶をして、手持ちの荷物をその場に下ろすと、すぐに年が明けた。
スマホからの通知が鳴り止まなくなった。そこら中から「あけおめ」の声が聞こえてくる。
深夜とは思えないぐらいの賑わいをしている。
今年は年明けから随分と忙しない。
親戚との新年の挨拶も終え、おせちも食べ終えた後、やっと荷物を自室においた。
六年ぶりに入った部屋は、当時から時が止まったかのようであった。
一度深呼吸すると、当時と変わらない匂いとともに様々なことが蘇ってくる。
絶望にあてられ殻に閉じこもった思い出や、ドキドキとワクワクで世界が輝いて見えた思い出が、鮮明に蘇ってきた。
地元に親しい友人がいないため、元旦は親戚とゆっくりと過ごした。
朝に誰かに起こされることもなく、昼ごろまで寝ていた。
あまり昔を思い出したくないから、自室にはあまり行かずリビングで寛いだ。
お年玉を貰う側からあげる側になっていた。
用意がなかったので、慌てて財布に入っていた新札を親が使ったあまりのお年玉袋に入れて親戚の子供に渡した。
「おじさんありがとう」の言葉が胸に刺さった。もう俺もおじさんって言われる年になったのか。
午後も家から出ることをせず、互いの近況について話した。
耳にタコができるほど「結婚しないのか?」「相手はいるのか?」と聞かれてうんざりした。
少しだけ帰省したことを後悔した。
1月2日。もう家に帰らなくてはならなくなり、帰り支度を済ませて玄関を出ると、母親が追いかけてきた。
「はい、これ。こっちに送られてきた、あんた宛の年賀状と、結婚式の招待状。あんたもそろそろ結婚したら?」
年賀状の束を渡しながら、お節介をやいてきた。
「ありがとう。結構こっちに来ているんだね。結婚はまだ考えてないかな」
「おーい、幸太郎。そろそろ出るぞ」
父から呼ばれたので、母との会話を切り上げ父の車に乗る。
父が駅まで送ってくれた。
車窓から見る、六年ぶりの故郷はどこか薄汚れていた。
あの頃の輝かしい記憶とのギャップに時の経過を感じる。
あのときはここが都会だと思っていたのになあ。
あの頃の輝きはどこへやってしまったのだろう。
中学校最後に失ったあの輝きは。
年賀状に大きく印字されたその文字を見て、ため息をつく。
また結婚かよ。
先月も結婚式に行って来たばっかりなのに。
文字に添えられた楽しげなツーショット写真を見る。
今度は誰だよ。写真見てもわかんねえよ。
めでたいその予告の下には、そっと添えられた女性らしい丸文字が見えた。
『また顔を見せてよ。去りし恋のキューピット』
意外なことが書かれていて驚く。
こんな事書いて恥ずかしくないのかな?
パッと表を見ると、久しぶりに見る名前が並んでいた。
東条 薫
癒月
一足早く籍を入れたのか、そこには、見慣れない字面の見慣れた名前が並んでいた。
懐かしさに浸ることもなく、無造作にそれを年賀状の山に投げ入れた。
冷めた頭で、次の年賀状に目を通していく。
『あけましておめでとう』だの『今年もよろしく』だのと、あまり中身のないのに律儀に送ってくれる高校時代の友人の年賀状を頬を緩ませながら流し見る。
年末年始帰省していたから、溜まりに溜まった年賀状の山が、右から左に動ききった。
一息つき、気合を入れて、帰省したときにおやに実家に届いた年賀状とともに渡された結婚式の招待状を手に取る。
センスのいいシルバーの招待状。
ハガキでいいものをわざわざメッセージカードにしているところに癒月のロマンチストさを感じる。
中を開くと、外側からは想像もできないほど簡素で見やすい中身になっていた。
中の簡潔さには、あいつのさっぱりした性格がにじみ出ている。
そこでやっと、ぼやっとしていたあいつらの顔を思い出すことができた。
とうとう、あいつらも結婚するのか。
あいつら中学生から付き合ってたな。まさか、ゴールインするとはなぁ。
ビリッ
俺は、結婚式の招待状を裂いて捨てた。
今年が後一時間で終わるという、新年の幕開けを目前に控えたタイミングで実家に帰省した。
ピーンポーン
ドタドタドタドタ
「早く入って。もう一時間で、年変わっちゃうでしょ」
インターホンを押すなり母親が出てきて、急かされながら家の中に入った。
荷物も下ろさぬまま、立ち食いで年越しそばを食した。
ボーン...ボーン...
除夜の鐘も後半に差し掛かってきた。
親戚に一通り挨拶をして、手持ちの荷物をその場に下ろすと、すぐに年が明けた。
スマホからの通知が鳴り止まなくなった。そこら中から「あけおめ」の声が聞こえてくる。
深夜とは思えないぐらいの賑わいをしている。
今年は年明けから随分と忙しない。
親戚との新年の挨拶も終え、おせちも食べ終えた後、やっと荷物を自室においた。
六年ぶりに入った部屋は、当時から時が止まったかのようであった。
一度深呼吸すると、当時と変わらない匂いとともに様々なことが蘇ってくる。
絶望にあてられ殻に閉じこもった思い出や、ドキドキとワクワクで世界が輝いて見えた思い出が、鮮明に蘇ってきた。
地元に親しい友人がいないため、元旦は親戚とゆっくりと過ごした。
朝に誰かに起こされることもなく、昼ごろまで寝ていた。
あまり昔を思い出したくないから、自室にはあまり行かずリビングで寛いだ。
お年玉を貰う側からあげる側になっていた。
用意がなかったので、慌てて財布に入っていた新札を親が使ったあまりのお年玉袋に入れて親戚の子供に渡した。
「おじさんありがとう」の言葉が胸に刺さった。もう俺もおじさんって言われる年になったのか。
午後も家から出ることをせず、互いの近況について話した。
耳にタコができるほど「結婚しないのか?」「相手はいるのか?」と聞かれてうんざりした。
少しだけ帰省したことを後悔した。
1月2日。もう家に帰らなくてはならなくなり、帰り支度を済ませて玄関を出ると、母親が追いかけてきた。
「はい、これ。こっちに送られてきた、あんた宛の年賀状と、結婚式の招待状。あんたもそろそろ結婚したら?」
年賀状の束を渡しながら、お節介をやいてきた。
「ありがとう。結構こっちに来ているんだね。結婚はまだ考えてないかな」
「おーい、幸太郎。そろそろ出るぞ」
父から呼ばれたので、母との会話を切り上げ父の車に乗る。
父が駅まで送ってくれた。
車窓から見る、六年ぶりの故郷はどこか薄汚れていた。
あの頃の輝かしい記憶とのギャップに時の経過を感じる。
あのときはここが都会だと思っていたのになあ。
あの頃の輝きはどこへやってしまったのだろう。
中学校最後に失ったあの輝きは。
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