純愛Lovers

らいねこ

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1日目

食堂にて 1

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食堂に到着した。


さすが、ご飯時間なだけあって賑わっていた。


新入生が大声で注文をする。


「おばちゃん、B定食!!」


「馬鹿っ!お前、それ禁句!!」


慌てて新入生に言ったが、遅かった…。


「誰がおばちゃんだって?!もう1回言ってみな!!飯抜きにしてやるからね!!!!」


「そーだよ!!新入生、ここのテリトリーはあたし達の縄張りだからね。ここではあたし達に逆らうんじゃないよ!」


「この際だから、よ~くお聞き!!」


鍋とお玉でガンガンと大きな音を鳴らす。


食堂にいた生徒全員が静かになった。


「今日から新入生が入ってきたから、改めて言うよ!!」


「あたし達の事は『松子さん』、『竹子さん』、『梅子さん』とお言い!!」


食堂でご飯を作ってくれている女性3人の名前は松子、竹子、梅子というらしい。


「間違っても、さっきみたいに言った奴は、飯抜きだからね!!」


怯えた先輩達が言った。


「…本当に飯抜きになるから、絶対言うなよ!!」


「去年の生徒会長のせいで、危うく飯抜き1週間になる所だったんだからな」


「そうだぞ、あいつのせいで全校生徒みんなで謝って、2日で済んだからまだ良かったんだからな」


「去年の生徒会長は、悪評高いな」


ぼそっと天が言う。


皆が怯えていると、食堂の入り口から声が聞こえた。


「松子さん、竹子さん、梅子さん、とても良いお知らせがあります」


心地よい、声色。

振り返ると、愁がいた。


咲は無意識に愁が見える様に、身体が動いていた。


視界に入ると、また胸が温かくなる。


「愁君、何よ良い事って」


怒っている松子が言った。


愁は、にこっと微笑んで言う。


「食堂の経費が見直しをして、前年度よりも多くしてもらいました」


「うそ!」


「やだ、本当に?!」


さっきまでのピリピリとした空気が嘘のようで、一気になくなる。


「去年なんて、削られたのにっ」


「愁君、どうやったのよ」


「いえ、特に何も。ただ皆さんの美味しいご飯を、もっと食べたいと言っただけです」


「愁君!!」


3人は厨房から出て愁を取り囲み、お礼を言っている。


さっきの剣幕はどこにいったのか…周りの生徒は呆然としていた。


「すげーな、今年の生徒会長」


「と、とにかく!!怒らせない様にしようなっ!!」


うんうん、と頷きあう生徒達。


皆がやれやれとしている中で、咲だけ複雑な顔をしていた。


(なんで、生徒会長さんの顔を見たくなっちゃうの?顔を見たら嬉しいの?)


自問自答をしても、今はまだ知らない感情だった。


それが何か知るまでは、もう少し先の話。




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