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第三章 占い師
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ある日の事、ツーヨウが泊まっている宿に、城から来たと思われる様な軍装の、数人の兵士達がやってきた。
何事かと思いつつ他人事のつもりで構えていたら、宿の主人がツーヨウを呼びに来た。
なんでも、兵士達はツーヨウとリエレンに用事があると言う事らしい。
「え~……やばい。
もしかしてお守り売ってるのが詐欺商法だから、引っ立てるとかそんな感じかなぁ」
「自覚はしてたんだな」
「詐欺じゃ無いよ。
僕はお客様に安心感を売ってるだけだよ?」
「そうだな。考えようによっては詐欺だな」
何はともあれ、このまま兵士達に強行突破されるのも宿の主人に迷惑がかかると言う事で、ツーヨウ達は大人しく兵士の元へと行ったのだった。
「兎王様が僕に会いたいって?」
兵士達から話を聞いたツーヨウ達は驚きを隠せない。
兎王というのは、今この国を治めている王の名だ。
その王が何故自ら自分に合いたいなどと言うのか。
やっぱり悪質な詐欺師と言って、厳罰が下されるのだろうか等色々な不安が過ぎる中、真面目な顔をする兵士達に連れられて城へと向かったのだった。
城に着くと、そこは鮮やかに彩色された荘厳な建物が建っていた。
兎王がツーヨウとリエレンだけと話をしたいと言って居るらしく、二人は玉座では無く兎王の自室へと招かれた。
陽の光がよく入る様に、廊下の壁には緻密な透かし彫りが施されている。
その廊下を通り過ぎ、ツーヨウ達が案内された広い部屋に入ると、そこには上品で上質であるが、豪奢すぎない服装の、威厳有る若い男がひとり。彼が兎王だ。
流石に緊張を感じているツーヨウ達に、兎王はこう言った。
「お前達の話は噂で聞いている。
ツーヨウ、お前は有能な呪術師らしいな」
それに対して、ツーヨウは緊張を振り払う様におどけてみせる。
「有能なんて噂流れてるんだ、僕ちゃん嬉し~い。
有能かどうかは置いておいても、確かに呪術師ではありますよ。それが何か?」
王の前でも萎縮する様子を見せない様にするツーヨウに、兎王は真剣な面持ちでこう切り出した。
「実は、私が抱えている占い師の事を守って欲しいのだ」
その言葉に、ツーヨウは肩をすくめる
「へぇ、そんな事おっしゃいましても、僕なんかで頼りになりますかね?」
如何にも面倒な事には関わりたくないと言った様子のツーヨウに、兎王は重々しい声で言う。
「頼りにならないとは言わせないぞ。『タオティエ』」
突然出てきたタオティエの名に、ツーヨウはすっと目を細める。
「僕がタオティエであるという証拠は?」
ツーヨウが試す様にそう問うと、兎王はこう答える。
「その喋る狼だ。
タオティエは喋る狼を従えているらしいな。
そしてお前も喋る狼を従えている。
そんな珍しい物を従えている人物が、そんなに沢山居るとでも?」
「言われてみりゃそうなんですけどね?」
思わずツーヨウはしまったと思う。
せめてタオティエで居る時くらいは、リエレンに普通の狼の振りをさせておくべきだったと。
兎王がさらにツーヨウに迫る。
「さて、依頼を受けて下さるかな?」
その問いに、ツーヨウはにやりと笑って答える。
「『僕』に依頼するのなら、お金や玉を積んでくれればいくらでも引き受けますよ。
ただし、『タオティエ』に依頼したいのであれば、受けられません」
「何故だ」
「タオティエは、誰にも縛られない正義の味方なんで。
どんなに偉い人でも下に付く事は出来ないんですよ」
決して引く事の無いツーヨウの言葉に、兎王は溜息をつく。
「わかった。『タオティエ』では無く『お前』に依頼しよう。
そうそう、詳細の説明がまだだったな」
兎王が言う事には、近頃お抱えの占い師に呪いを掛けている者が居るという。
王宮から滅多に外に出ないが故に、外部に知り合いそのものが殆ど居ないであろうその占い師に、直接呪いを掛けられると言う事は、城に仕えている高官が犯人だとは思うのだが犯人がわからない。
占い師に呪いの元を占わせようにも、その占いそのものが妨害されてしまって当てにならないのだと言う。
説明を聞いたツーヨウは納得した様子。
「なるほど、それならタオティエだと逆に動きづらいなぁ。なんだかんだで目立つんで。
僕が地道に諜報活動をした方が良さそうですね」
「受けてくれるか?」
ツーヨウの言葉に安心した様子の兎王に、ツーヨウは満面の笑顔でこう答える。
「受けますよ。
ただし、とんでもない報酬を要求されても構わないならね」
「わかった。
出来るだけ期待に添える様にする」
こうして、ツーヨウと兎王の間に契約が結ばれたのだった。
早速ツーヨウとリエレンは兎王お抱えの占い師の部屋へと連れて行かれた。
「……うわ……」
部屋の扉を開けると、広くは無いが繊細な装飾が施された部屋の中には、とてつもない邪気が満ちているのがわかる。
この中に始終居るとなると相当な悪影響を受けているだろうと思ったツーヨウだが、部屋の中でほのかに光っている人影が居るのが見えた。
兎王の紹介によると、その人が占い師だという。
「初めまして。ユエと申します」
ツーヨウとそんなに変わらない歳であろう、王から大切にされていると言うのがわかる服装の、ユエという儚げな少女。
彼女をほのかに包む光が、周りの邪気を遮断していた。
それを見てツーヨウはなる程と思う。
ユエはおそらく、美しくも強い、破邪の気を持った魂の持ち主だ。
だから、ここまで強烈な邪気を送られても、占いに支障が出る程度でユエに実害が無いのだろう。
面白い物を見つけたと言う様な表情をしたまま、ツーヨウとリエレンもユエに挨拶をする。
そしてすぐに、兎王にこの部屋を出る様に言った。
何にも護られていない兎王がこの部屋に満ちた邪気に曝されると悪影響が出ると判断したのだ。
勿論、ツーヨウとリエレンも長時間この部屋に居る事は難しい。
ではどうやってユエを守るつもりなのか、そう問う兎王にツーヨウはこう返す。
「そうですねぇ。
まずは高官達の調査をします。
それで大体の動向を把握した後に、ユエさんに占いをして貰います。
その時に出た占いの歪みで犯人を割り出して、呪いを返す。
こんな感じですかね」
その説明に、兎王は納得した様だ。
こうして、ツーヨウとリエレンによる高官達の調査が始まった。
調査を始めて暫く、何人か怪しい人物に目星を付けはしたが、決定的な証拠を掴めないで居た。
最終的にはユエの占いから割り出すとは言っても、今だにそこまで絞り切れていない。
そんなある日、城の中で見覚えの有る顔を見付けた。
山と盛られた玉の入った籠を抱えている少女。
「あっれ~? マオちゃん久しぶりじゃない。
こんな所で何してるの?」
ツーヨウが、前に会った時よりも少し良い身なりをしたマオに声を掛けると、笑顔で返事が返ってきた。
「お久しぶりです、ツーヨウさんにリエレンさん。
実は最近、このお城の方から玉の鑑定をやって欲しいって言う依頼が多くて、それで来てるんです」
「玉の鑑定?」
何故鑑定など必要とするのかと、不思議そうな顔をするツーヨウにマオはこう説明する。
「はい、なるべく高価な玉が欲しいと言う事で、それでお兄ちゃん達が採ってきた玉を持って来て、その中から良いやつをお売りしているんです」
それを聞いて、なるほど、金持ちともなれば高価な物も欲しくなるのも無理も無いかと思ったツーヨウ。
ふと、思いついた様にマオに訊ねた。
「ねぇ、その中で良い奴では無いんだけど霊気の籠もった奴って有る?」
「霊気ですか?
うう~……ん、ちょっとそう言うのは私にはわからないんです。
何だったら見てみますか?」
「ん? いいの?」
質の良いのはお譲り出来ないですけどね。と笑って言うマオに、ツーヨウは早速玉を見せて貰う。
沢山有る玉の中から、質は良く無い物の力の籠もった物を幾つか選び出し、お代を払ってマオから受け取った。
何事かと思いつつ他人事のつもりで構えていたら、宿の主人がツーヨウを呼びに来た。
なんでも、兵士達はツーヨウとリエレンに用事があると言う事らしい。
「え~……やばい。
もしかしてお守り売ってるのが詐欺商法だから、引っ立てるとかそんな感じかなぁ」
「自覚はしてたんだな」
「詐欺じゃ無いよ。
僕はお客様に安心感を売ってるだけだよ?」
「そうだな。考えようによっては詐欺だな」
何はともあれ、このまま兵士達に強行突破されるのも宿の主人に迷惑がかかると言う事で、ツーヨウ達は大人しく兵士の元へと行ったのだった。
「兎王様が僕に会いたいって?」
兵士達から話を聞いたツーヨウ達は驚きを隠せない。
兎王というのは、今この国を治めている王の名だ。
その王が何故自ら自分に合いたいなどと言うのか。
やっぱり悪質な詐欺師と言って、厳罰が下されるのだろうか等色々な不安が過ぎる中、真面目な顔をする兵士達に連れられて城へと向かったのだった。
城に着くと、そこは鮮やかに彩色された荘厳な建物が建っていた。
兎王がツーヨウとリエレンだけと話をしたいと言って居るらしく、二人は玉座では無く兎王の自室へと招かれた。
陽の光がよく入る様に、廊下の壁には緻密な透かし彫りが施されている。
その廊下を通り過ぎ、ツーヨウ達が案内された広い部屋に入ると、そこには上品で上質であるが、豪奢すぎない服装の、威厳有る若い男がひとり。彼が兎王だ。
流石に緊張を感じているツーヨウ達に、兎王はこう言った。
「お前達の話は噂で聞いている。
ツーヨウ、お前は有能な呪術師らしいな」
それに対して、ツーヨウは緊張を振り払う様におどけてみせる。
「有能なんて噂流れてるんだ、僕ちゃん嬉し~い。
有能かどうかは置いておいても、確かに呪術師ではありますよ。それが何か?」
王の前でも萎縮する様子を見せない様にするツーヨウに、兎王は真剣な面持ちでこう切り出した。
「実は、私が抱えている占い師の事を守って欲しいのだ」
その言葉に、ツーヨウは肩をすくめる
「へぇ、そんな事おっしゃいましても、僕なんかで頼りになりますかね?」
如何にも面倒な事には関わりたくないと言った様子のツーヨウに、兎王は重々しい声で言う。
「頼りにならないとは言わせないぞ。『タオティエ』」
突然出てきたタオティエの名に、ツーヨウはすっと目を細める。
「僕がタオティエであるという証拠は?」
ツーヨウが試す様にそう問うと、兎王はこう答える。
「その喋る狼だ。
タオティエは喋る狼を従えているらしいな。
そしてお前も喋る狼を従えている。
そんな珍しい物を従えている人物が、そんなに沢山居るとでも?」
「言われてみりゃそうなんですけどね?」
思わずツーヨウはしまったと思う。
せめてタオティエで居る時くらいは、リエレンに普通の狼の振りをさせておくべきだったと。
兎王がさらにツーヨウに迫る。
「さて、依頼を受けて下さるかな?」
その問いに、ツーヨウはにやりと笑って答える。
「『僕』に依頼するのなら、お金や玉を積んでくれればいくらでも引き受けますよ。
ただし、『タオティエ』に依頼したいのであれば、受けられません」
「何故だ」
「タオティエは、誰にも縛られない正義の味方なんで。
どんなに偉い人でも下に付く事は出来ないんですよ」
決して引く事の無いツーヨウの言葉に、兎王は溜息をつく。
「わかった。『タオティエ』では無く『お前』に依頼しよう。
そうそう、詳細の説明がまだだったな」
兎王が言う事には、近頃お抱えの占い師に呪いを掛けている者が居るという。
王宮から滅多に外に出ないが故に、外部に知り合いそのものが殆ど居ないであろうその占い師に、直接呪いを掛けられると言う事は、城に仕えている高官が犯人だとは思うのだが犯人がわからない。
占い師に呪いの元を占わせようにも、その占いそのものが妨害されてしまって当てにならないのだと言う。
説明を聞いたツーヨウは納得した様子。
「なるほど、それならタオティエだと逆に動きづらいなぁ。なんだかんだで目立つんで。
僕が地道に諜報活動をした方が良さそうですね」
「受けてくれるか?」
ツーヨウの言葉に安心した様子の兎王に、ツーヨウは満面の笑顔でこう答える。
「受けますよ。
ただし、とんでもない報酬を要求されても構わないならね」
「わかった。
出来るだけ期待に添える様にする」
こうして、ツーヨウと兎王の間に契約が結ばれたのだった。
早速ツーヨウとリエレンは兎王お抱えの占い師の部屋へと連れて行かれた。
「……うわ……」
部屋の扉を開けると、広くは無いが繊細な装飾が施された部屋の中には、とてつもない邪気が満ちているのがわかる。
この中に始終居るとなると相当な悪影響を受けているだろうと思ったツーヨウだが、部屋の中でほのかに光っている人影が居るのが見えた。
兎王の紹介によると、その人が占い師だという。
「初めまして。ユエと申します」
ツーヨウとそんなに変わらない歳であろう、王から大切にされていると言うのがわかる服装の、ユエという儚げな少女。
彼女をほのかに包む光が、周りの邪気を遮断していた。
それを見てツーヨウはなる程と思う。
ユエはおそらく、美しくも強い、破邪の気を持った魂の持ち主だ。
だから、ここまで強烈な邪気を送られても、占いに支障が出る程度でユエに実害が無いのだろう。
面白い物を見つけたと言う様な表情をしたまま、ツーヨウとリエレンもユエに挨拶をする。
そしてすぐに、兎王にこの部屋を出る様に言った。
何にも護られていない兎王がこの部屋に満ちた邪気に曝されると悪影響が出ると判断したのだ。
勿論、ツーヨウとリエレンも長時間この部屋に居る事は難しい。
ではどうやってユエを守るつもりなのか、そう問う兎王にツーヨウはこう返す。
「そうですねぇ。
まずは高官達の調査をします。
それで大体の動向を把握した後に、ユエさんに占いをして貰います。
その時に出た占いの歪みで犯人を割り出して、呪いを返す。
こんな感じですかね」
その説明に、兎王は納得した様だ。
こうして、ツーヨウとリエレンによる高官達の調査が始まった。
調査を始めて暫く、何人か怪しい人物に目星を付けはしたが、決定的な証拠を掴めないで居た。
最終的にはユエの占いから割り出すとは言っても、今だにそこまで絞り切れていない。
そんなある日、城の中で見覚えの有る顔を見付けた。
山と盛られた玉の入った籠を抱えている少女。
「あっれ~? マオちゃん久しぶりじゃない。
こんな所で何してるの?」
ツーヨウが、前に会った時よりも少し良い身なりをしたマオに声を掛けると、笑顔で返事が返ってきた。
「お久しぶりです、ツーヨウさんにリエレンさん。
実は最近、このお城の方から玉の鑑定をやって欲しいって言う依頼が多くて、それで来てるんです」
「玉の鑑定?」
何故鑑定など必要とするのかと、不思議そうな顔をするツーヨウにマオはこう説明する。
「はい、なるべく高価な玉が欲しいと言う事で、それでお兄ちゃん達が採ってきた玉を持って来て、その中から良いやつをお売りしているんです」
それを聞いて、なるほど、金持ちともなれば高価な物も欲しくなるのも無理も無いかと思ったツーヨウ。
ふと、思いついた様にマオに訊ねた。
「ねぇ、その中で良い奴では無いんだけど霊気の籠もった奴って有る?」
「霊気ですか?
うう~……ん、ちょっとそう言うのは私にはわからないんです。
何だったら見てみますか?」
「ん? いいの?」
質の良いのはお譲り出来ないですけどね。と笑って言うマオに、ツーヨウは早速玉を見せて貰う。
沢山有る玉の中から、質は良く無い物の力の籠もった物を幾つか選び出し、お代を払ってマオから受け取った。
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