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2006年
29:弟がお手伝い
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爽やかな風が吹き、明るい日差しが降り注ぐようになった頃の事。普段静かなとわ骨董店とシムヌテイ骨董店の前に、一台のワンボックスカーが停まった。エンジンの音が止み、中から出て来たのは林檎と、その弟の蜜柑だった。
普段電車でここまで通勤している林檎が、何故車できたのかというと、すこし前に仕入れた重めの商品、それは壷であったり、仏像であったり、硯であったり。一つ一つはなんとか運べる重さでも、まとめて運ぶとなると林檎の体力では難しい物を、店に持ってくるためだった。
「じゃあ、姉さんお店開けて」
「はいはいただいま」
林檎が持っていたハンドバッグから店の鍵を出し、扉を開ける。それを確認して、蜜柑が車の中からクッション材で梱包された一抱えほどある仏像を抱え、店の中へと運び込む。林檎も、クッション材で包まれた硯を手に持って運び込んでいた。
そうしていると、隣のシムヌテイ骨董店の扉が開き、中から真利が顔を出してふたりに声を掛けた。
「おや、品物の搬入ですか。
まだ沢山運ぶ物があるようでしたら手伝いましょうか?」
それを聞いて、林檎は嬉しそうな顔をして真利にこうお願いした。
「ありがとう、お願いできる?
私は店の中で梱包なんとかしていくから、真利さんは蜜柑と一緒に車の中の物を運び出してくれないかしら」
「はい、わかりました」
男性ふたりが品物を運び込んでくれることになったので、林檎は店の中の灯りを点けて、品物の梱包を解き始めた。
仏像を包んだ梱包材を剥がし、そこそこ大きいその仏像を、棚の横の空いているスペースに置く。割れないよう厳重に包まれた硯の緩衝材を剥がし、先日ひとつ売れてスペースが出来ていた、硯の横の空間に並べる。
蜜柑と真利の手によって大体の物が運び込まれ、一度全部梱包を剥がした後に、一部の焼き物の壷や皿を棚に並べ、それ以外の物はまた梱包材で包み、レジカウンターの引き出しから出したペンでなにが入っているのかを明記し、バックヤードへと運び込んだ。
一通りバックヤードに運び込んだあと、そのままスツールをふたつ出してきて、林檎はそれを真利と蜜柑に勧める。
「ふたりとも疲れたでしょ。お茶でもいかが?」
林檎がレジカウンターの奥に有る棚から茶器を出していると、蜜柑が思い出したようにこう言って、店の入り口を開ける。
「こうなると思って、芋ようかん買ってきておいたんだ。
車の中から持ってくるからちょっと待ってて」
店の扉が閉まるのを見守り、真利がくすくすと笑って林檎見る。
「僕までご馳走になっちゃっていいんですか?」
「蜜柑がいいって言うならいいんじゃない?」
「蜜柑君が買って来たと言うことは、柴又のお店のですよね?」
「そうだと思う。あの子、あの芋ようかんが昔から好きだから」
真利と林檎でそんな話をしていると、扉を開けて蜜柑が元気良く入って来た。
「姉さん、芋ようかん分けてくれる?」
「はいはい。お皿に分けてくるわね」
芋ようかんの入った紙袋を受け取り、林檎は棚から出した九谷焼のお皿を三枚持ってバックヤードに入る。
バックヤードに有る台所で、お皿を軽くすすいで拭いてから、トングでひとつずつ、一枚ずつに乗せていく。それをと銀色のフォークお盆を使って天寧に持っていった。
「はい、それじゃあ先に芋ようかん渡して置くわね」
わくわくした表情の蜜柑と、こちらも期待した様子の真利に、それぞれお皿を手渡す。それから、レジカウンター奥に有る棚から硝子のティーポットと、白と黒が印象的な唐津焼のカップをひとつ、赤地に白いまだらがる美濃焼きのカップをひとつ、縁が白っぽい萩焼のカップをひとつ出して、お茶の準備を始めた。
今日のお茶はどれにしよう。そう思ってなんとなく手に取ったのは、先日差し入れでいただいた、三種類のベリーがブレンドされた紅茶だ。
「蜜柑君の事だから、この芋ようかんを買ってきたんじゃないかって、林檎さんと話してたんですよ」
「あ、やっぱり真利さんもわかりました?」
ふたりの会話を聞きながら、林檎は茶葉をティーポットの中に入れてお湯を注ぐ、湯気と共に甘酸っぱい香りが立った。
お茶を蒸らしている間に、林檎が口を開く。
「それにしても、今日は真利さんにも手伝って貰えて助かったわ」
「そうですか? こういう時はお互い様でしょう」
ふたりのやりとりを聞いて、蜜柑がこう訊ねた。
「真利さんは、仕入れた物って全部自力で持ってきてるんですか?」
蜜柑の疑問に、真利はにこりと笑って返す。
「幸い、キャリーを使えば運べる物が多いので。
キャリーで運べないような大きい物もたまにはありますけれど、そう言うのは車を使って持ってきますね」
そう言って、いたずらっぽく笑って言葉を続ける。
「もし、どうしようもなく重い物を買うことがあったら、蜜柑君の力を借りることもあるかも知れませんね」
きっとこれは冗談なのだろうというのが林檎にはわかったけれども、真に受けた様子の蜜柑は、任せて下さい。と自信満々だ。
そうしているうちにお茶もいい具合になったので、カップの中に甘い香りの紅茶を注いでいく。
力仕事の後なのだから、甘い物を食べてひと休みするのも、悪くないだろう。
普段電車でここまで通勤している林檎が、何故車できたのかというと、すこし前に仕入れた重めの商品、それは壷であったり、仏像であったり、硯であったり。一つ一つはなんとか運べる重さでも、まとめて運ぶとなると林檎の体力では難しい物を、店に持ってくるためだった。
「じゃあ、姉さんお店開けて」
「はいはいただいま」
林檎が持っていたハンドバッグから店の鍵を出し、扉を開ける。それを確認して、蜜柑が車の中からクッション材で梱包された一抱えほどある仏像を抱え、店の中へと運び込む。林檎も、クッション材で包まれた硯を手に持って運び込んでいた。
そうしていると、隣のシムヌテイ骨董店の扉が開き、中から真利が顔を出してふたりに声を掛けた。
「おや、品物の搬入ですか。
まだ沢山運ぶ物があるようでしたら手伝いましょうか?」
それを聞いて、林檎は嬉しそうな顔をして真利にこうお願いした。
「ありがとう、お願いできる?
私は店の中で梱包なんとかしていくから、真利さんは蜜柑と一緒に車の中の物を運び出してくれないかしら」
「はい、わかりました」
男性ふたりが品物を運び込んでくれることになったので、林檎は店の中の灯りを点けて、品物の梱包を解き始めた。
仏像を包んだ梱包材を剥がし、そこそこ大きいその仏像を、棚の横の空いているスペースに置く。割れないよう厳重に包まれた硯の緩衝材を剥がし、先日ひとつ売れてスペースが出来ていた、硯の横の空間に並べる。
蜜柑と真利の手によって大体の物が運び込まれ、一度全部梱包を剥がした後に、一部の焼き物の壷や皿を棚に並べ、それ以外の物はまた梱包材で包み、レジカウンターの引き出しから出したペンでなにが入っているのかを明記し、バックヤードへと運び込んだ。
一通りバックヤードに運び込んだあと、そのままスツールをふたつ出してきて、林檎はそれを真利と蜜柑に勧める。
「ふたりとも疲れたでしょ。お茶でもいかが?」
林檎がレジカウンターの奥に有る棚から茶器を出していると、蜜柑が思い出したようにこう言って、店の入り口を開ける。
「こうなると思って、芋ようかん買ってきておいたんだ。
車の中から持ってくるからちょっと待ってて」
店の扉が閉まるのを見守り、真利がくすくすと笑って林檎見る。
「僕までご馳走になっちゃっていいんですか?」
「蜜柑がいいって言うならいいんじゃない?」
「蜜柑君が買って来たと言うことは、柴又のお店のですよね?」
「そうだと思う。あの子、あの芋ようかんが昔から好きだから」
真利と林檎でそんな話をしていると、扉を開けて蜜柑が元気良く入って来た。
「姉さん、芋ようかん分けてくれる?」
「はいはい。お皿に分けてくるわね」
芋ようかんの入った紙袋を受け取り、林檎は棚から出した九谷焼のお皿を三枚持ってバックヤードに入る。
バックヤードに有る台所で、お皿を軽くすすいで拭いてから、トングでひとつずつ、一枚ずつに乗せていく。それをと銀色のフォークお盆を使って天寧に持っていった。
「はい、それじゃあ先に芋ようかん渡して置くわね」
わくわくした表情の蜜柑と、こちらも期待した様子の真利に、それぞれお皿を手渡す。それから、レジカウンター奥に有る棚から硝子のティーポットと、白と黒が印象的な唐津焼のカップをひとつ、赤地に白いまだらがる美濃焼きのカップをひとつ、縁が白っぽい萩焼のカップをひとつ出して、お茶の準備を始めた。
今日のお茶はどれにしよう。そう思ってなんとなく手に取ったのは、先日差し入れでいただいた、三種類のベリーがブレンドされた紅茶だ。
「蜜柑君の事だから、この芋ようかんを買ってきたんじゃないかって、林檎さんと話してたんですよ」
「あ、やっぱり真利さんもわかりました?」
ふたりの会話を聞きながら、林檎は茶葉をティーポットの中に入れてお湯を注ぐ、湯気と共に甘酸っぱい香りが立った。
お茶を蒸らしている間に、林檎が口を開く。
「それにしても、今日は真利さんにも手伝って貰えて助かったわ」
「そうですか? こういう時はお互い様でしょう」
ふたりのやりとりを聞いて、蜜柑がこう訊ねた。
「真利さんは、仕入れた物って全部自力で持ってきてるんですか?」
蜜柑の疑問に、真利はにこりと笑って返す。
「幸い、キャリーを使えば運べる物が多いので。
キャリーで運べないような大きい物もたまにはありますけれど、そう言うのは車を使って持ってきますね」
そう言って、いたずらっぽく笑って言葉を続ける。
「もし、どうしようもなく重い物を買うことがあったら、蜜柑君の力を借りることもあるかも知れませんね」
きっとこれは冗談なのだろうというのが林檎にはわかったけれども、真に受けた様子の蜜柑は、任せて下さい。と自信満々だ。
そうしているうちにお茶もいい具合になったので、カップの中に甘い香りの紅茶を注いでいく。
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