嫌犬

藤和

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第五章 画板ロボ、大地に立つ

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 ゴタゴタも片付き、悠希と鎌谷が自宅最寄りの駅に着いた時にはもう空は真っ暗だった。今日は実家からちょっと遠出をしてきた匠も一緒で、悠希の部屋に泊まって一緒に作業をする事になっている。人通りの少ない道を歩いていると、進行方向十数メートル先に、柄の悪い少年達が溜まっていた。一瞬悠希の歩みが遅くなるが、視線を道路に落としたまま歩き続ける。
 すると複数の足音が近づいて来た。先程の少年達が悠希達を散り囲む。

「よう兄ちゃん、こんな時間に女連れて何してんの?」
「僕達お金無いからお小遣いくれると嬉しーなぁ」

 震える悠希の腕にしがみつきながら、匠は歯ぎしりをする。

(もっと人が多くて誤魔化せれば変身できるのに……!)

 それを怯えている物と勘違いしたのか、震えながらも悠希が庇い、言い放った。

「匠、大丈夫だよ僕に任せて」

 たどたどしくも鞄の中から悠希は、折り畳み式の画板を取り出す。

「あ? なんだよ兄ちゃん。その画板が何なんだよ」

 少年の内一人が悠希の胸ぐらを掴もうとしたその時、画板があり得ない音を立てて巨大化し、メカになった。これには流石の鎌谷も呆然とする。

「行け! 画板ロボ!0.00000001ミクロンの装甲の厚さを見せてやれ!」

 その声に合わせ、薄ぼんやりと向こう側が透けて見える巨大画板ロボは両腕を上げてその力を誇示する。だが、その時上空にほんのりと風が吹き、画板ロボは風に煽られて倒れた。

「ああっ! 画板ロボが!」
「やっぱおめー、どこまでも頼りにならねーな。
大体0.00000001ミクロンの装甲って全然厚くねーよ。極薄だよ」

 画板ロボに覆い被さられた不良少年達が、薄く平べったくなった画板ロボの下から這い出し怒りを露わにする。

「何だおめー、バカにしてんのか?」
「そんなに痛い目見たいんだったら痛めつけてやるよ」

 指の関節を慣らしながら威嚇してくる不良少年。彼らを一瞥して、鎌谷が二本足で立ち、唇をまくり上げて金歯を見せながら彼等に言った。

「おめーら良い気になってんじゃねーぞ。
此処が誰のナワバリだかわかってんのか? ああん?」

 その言葉に、金歯の輝きと鋭い眼光を目の当たりにした不良少年達の間に恐怖が走る。

「その金歯は……!」
「すっ、すいませんでしたぁっ!」
「勘弁して下さい!行くぞおめーら!」

 一斉に震え上がり、鎌谷に頭を下げその場を去っていく不良少年達。その光景を、悠希と匠は呆然と見届ける。

「鎌谷くん、僕の知らない所で何してるの?」

 すっかり腰を抜かして匠に支えられている悠希が問う。それに、いつもの様に煙草を吹かしながら鎌谷が言う。

「ん~、なんつーか、この辺俺のナワバリだから」

 意味深な鎌谷の言葉に、悠希も匠も言葉を失うのだった。
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