Tajlorinoj seĝo de radoj

藤和

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第一章 仕立て屋仲間

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 ほんの数ヶ月前まで、この店は貴族も愛用する仕立て屋だった。
しかし、どうした訳だか、どういう訳だか。この店で唯一の職人で長男のカミーユが、ある急ぎの仕事を終えてから、彼の脚は動かなくなってしまった。
 脚が動かなくては、仕立ては出来ない。
仕立ての仕事を誇りにしていたカミーユのことを弟二人は甚(いた)く心配したけれども、カミーユは落ち込む様子も無く、こう言った。
「これからは、刺繍を仕事にしようかな」
 それは強がりだったのかも知れない。けれども、カミーユは自分の言葉通り、弟の力を借りながら、刺繍の仕事を始めたのだった。

 カミーユが歩けなくなり、刺繍で生計を立てるようになったある日の事、カミーユの元にある仕立て屋仲間がやってきたと、弟の ギュスターヴが呼びに来た。
不思議に思い、一旦刺繍の手を止めて玄関まで車椅子を漕(こ)いでいくと、確かにそこには仕立て屋仲間が一人立っていた。
彼を見てカミーユは笑顔でこう言う。
「何の用?」
 すると彼は縋るような声でカミーユにこう言った。
「俺の店、ずっと仕事が来なくて、このままじゃ俺やってけないんだよ……
もうお金も無いし、今月生活するだけの金を借りたいと思って来たんだけど」
 どうやら、仕立て屋時代からしっかり貯金をしていたおかげで、貯蓄がたっぷり有るカミーユに助けを乞おうとやってきたようだが、 カミーユは少しだけ困ったような顔をしてこう返す。
「う~ん、そうだな。
今更どの面下げて僕にそんな事言いに来られたの?」
 その様子を見てギュスターヴは、カミーユが些かながらも怒っているなと思ったが、仕立て屋仲間はそんな事にも気がつかずにカミーユの膝に縋って泣き言を連ねる。
 カミーユは暫く困ったような笑顔のままで居たが、突然彼の頭に思いっきり肘を落とした。
「何すんだよ!」
「自業自得って言葉知ってる? 大人しく帰れ」
「明日食べる物も無いんだよ、お前仲間を見捨てるのか?」
「都合の良い時だけ仲間にされても困るんだけどねぇ。
まぁいいや。ギュス、アルに言ってバゲット二本とブレット三斤くらい持って来て」
「お、おう」
 無心されたくらいでこんなにカミーユが怒る筈は無いと思ったギュスターヴだが、自分までカミーユの怒りをかうのは嫌なので、素直に一番下の弟でこの家の台所を預かっているアルフォンスの元に行き、パン類を籠に入れて持って来る。
それをカミーユに渡すと、カミーユはその籠を仕立て屋仲間の顔に押しつけながらこう言う。
「お金は貸さないけど、食べる物が無いならパンくらいはあげる。
このパンを食べ尽くす前に何とかする事だね」
「なんだよ、この守銭奴!」
「守銭奴ねぇ、無心しに来たくせにそんな事言える立場なんだ。凄いね」
 にこにことしたままカミーユがそう言うと、仕立て屋仲間はパンの入った籠を持って、捨て台詞を吐いて帰って行った。

 その後、何故カミーユがあの仕立て屋仲間にあんな対応をしたのかをギュスターヴが訊ねると、こう返ってきた。
「え? ああ、あいつの事助走付けて殴った事有るんだよね」
「兄貴がそんな事するなんてほんとあいつ何やったの?」
 普段温厚で、弟のギュスターヴですら殆ど怒った所を見た事が無いカミーユの事を、 そこまで怒らせた理由とは何なのか。
 それを訊ねたら、どうやらあの仕立て屋は、店を継いで以来一度も納期を守った事が無いのだそう。
 あの仕立て屋は、仕上がりだけを見ればカミーユの物よりも出来が良いし、仕事も丁寧だ。
 しかし、だからといってそれが納期を破って良い理由にはならないとカミーユは言う。
「お、おう」
「作業が遅いなら遅いなりに、ちゃんと納期を長めに見れば良いのに、何度そう言っても出来るからって言って聞かなかったんだよね。
で、実際やらせると一度も出来た事がなくて、納期を破ったって言う報告を二十回くらい聞いた辺りで殴った」
「そ、それ、兄貴が殴る理由になるのかなぁ」
「なるよ。あんまり納期破ってばっかりなのが居ると、仕立て屋全体の信用が落ちちゃうし。
それに、信用が落ちて困るのはあいつなんだから、ちゃんと納期守らせたかったんだよね」
 その説明にギュスターヴはなるほどと思うが、疑問が一つ。
「兄貴、それ、ちゃんと本人に言ったか?」
「う~ん。そう言えば全部まとめて『納期守れ』の一言で済ませちゃった気がする」
「あ、それ絶対伝わってないわ」
 そんな話をした後、カミーユはすぐに仕事に戻ると言って作業場へ行き刺繍枠を手に取る。
 カミーユが仕事場に入ったのを確認したギュスターヴは、アルフォンスと一緒にパン屋へパンを買いに行ったのだった。
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