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第十章 綻んだ蕾
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専門学校を卒業して、カメラマンのアシスタントとして働く様になった円。
アシスタントとは言え写真業界で働いていると言う事で、このところは色々なコスプレイヤーからイベントの誘いが来る様になった。
昔、コンデジで撮影して冷たくされた時の事をふと思い出しては、皆げんきんな物だなと思ったのだが、自分の技術を認めて貰えるのは素直に嬉しい。
円の腕が評価される様になったのを、いまだに交流の有るゆきやなぎと冬桜は喜んでくれている。
仕事が終わった後、スマートフォンを確認してみると、ゆきやなぎからメールが来ていた。
今度の日曜に有るイベントに行くのだが、一緒にどうかと言う内容だ。
ゆきやなぎと冬桜のイベント参加率は段々下がってきているのだが、偶に参加する時などはこうしてメールで一報入れてくれる。
勿論、仕事や他の人との予定の都合で同行できない事は有るのだが、なるべくゆきやなぎと冬桜の写真は撮りに行きたい。
中学生の頃、一眼レフを持っていなくて落ち込んでいた円を励ましてくれた、あの二人の恩に報いたいからだ。
ゆきやなぎから来たメールには、今度のイベントではマジカルロータスのコスプレをすると書いてある。
それを見て、まだマジカルロータスの事を覚えていてくれる人が居るのだと、円は嬉しくなるのだった。
そんなある日の事、円の元にユカリから飲み会の誘いが来た。
会社で仲良くなった同僚とお互いの友人を紹介し合おうと言う話になったらしい。
改めて思いだしてみると、学生時代、ユカリには円以外の友人という友人は居なかった。
そんなユカリと仲が良い同僚なら、ユカリが世話になっているという挨拶も兼ねて会っても良いかなと言う気になった。
そして飲み会当日。待ち合わせ場所に行くとユカリと一緒に待っていたのは予想外にも小柄な女性。
いや、本来なら予想できる事だったのかもしれない。中学の頃から、ユカリは女の子の注目を集めていたから。
「よう、柏原。会うのは久しぶりだな」
「おう、篠崎。こないだはありがとな。
んで、この人が同僚の森下さん」
「あ、初めまして」
森下と呼ばれた女性が頭を下げると、円も名乗って頭を下げる。
そうしている内にももう一人女性がやってきて、森下に声を掛ける。
「あ~、あたしが一番遅かった?
蓮、久しぶりだね。
同僚ってこの人達?」
「こっちが同僚の柏原さんで、そっちが柏原さんのお友達の篠崎さん? ですよね?」
「そうです。俺が森下さんの同僚の柏原で、こいつが友人」
「あ、はい。柏原の友人の篠崎です」
「初めまして、桑原琉菜です」
四人それぞれ自己紹介した所で、早速予約していた飲み屋へと向かう。
コンセプトバーとでも言うのだろうか、森下が予約したというその飲み屋は、まるで不思議の国に居る様な内装だった。
その一角に有るテーブル席で、四人は話に花を咲かせる。
それぞれ友人とは中学の頃からの付き合いだとか、学生時代の部活の話だとか。
そんな中で、円が写真部だったという話に森下が興味を示す。
なんでも、森下も使い捨てカメラで風景写真を撮るのが趣味なのだそう。
森下が円に問いかける。
「篠崎さんが今まで撮った中で、一番お気に入りの写真ってどんなのですか?」
「お気に入りの写真ですか?」
ここまでの話の流れで既に円は森下と桑原の二人にもオタクバレしているので、何も躊躇う事は無く、手帳に挟んでいる写真をテーブルの上に置いた。
「これって……」
驚いた様な顔をする森下に、円ははにかみながら説明する。
「俺、一度だけマジカルロータスさんに会った事が有って、その時に撮らせて貰ったんです」
「マジカルロータスさんの、ファンだったんですか?」
円の事をじっと見つめながら森下が訊ねてくる。
それに対して、円は堂々と答えた。
「ファン『だった』んじゃなくて、今でもファンなんです。
高校卒業したら魔法少女を引退するって言ってたから、もう魔法少女を辞めちゃってると思うんですけど、まだマジカルロータスさんは何処かで誰かの事を支えてるんだって、そう信じてます」
「そうなんですか」
それからまた暫く四人で談笑して、メールアドレスの交換もして、楽しい夜を過ごしたのだった。
四人が初めて会った飲み会から数年。
紆余曲折有って円と森下こと蓮が付き合う様になり、結婚の話も出てきた。
ユカリは、やっぱりお前に先を越されたか等と言っているが、素直に円達の事を祝福してくれている。
「蓮、結婚式場、何処が良い?」
「実は私、結婚式は神前式が良くて……
いいかな?」
「神前式か。
てっきりウェディングドレスを着たい物だとばっかり思ってたわ」
「結婚式を挙げるなら、この神社でって決めてる所が有るんだ」
「そっか。それならその方が良いな」
結婚式のプランを立てながら、それに必要なお金はどの程度か。
既に結婚に向けて共同で貯金は始めているが、備えは多めの方が良い。
二人は二人の未来に向けて、体を寄り添わせたのだった。
そして二人は結婚式を挙げ、新婚旅行へと出かけた。
海外に行くかという案も出たのだが、二人とも外国語が殆どわからなくてこわい。と言う理由で新婚旅行は沖縄だった。
日差しに照らされる青い海を、テラスから二人で眺める。
「あ、そうだ」
「どうしたの?」
突然隣を離れて旅行鞄の元へ行った円に、蓮が不思議そうな顔をする。
すると、円がカメラを持って来てこう言った。
「折角だから、このテラスからも写真撮ろう。
記念撮影」
「んふふ。円さんって本当に写真が好きね」
そうして円がシャッターを切ってる事暫く。
ふと、蓮がこう言った。
「ねぇ、初めて会った時に、マジカルロータスさんの写真を見せてくれたけど、あの写真を撮った時の事、覚えてる?」
「勿論さ。凄い緊張したんだから。
あれ? もしかしてヤキモチ焼いてる?」
「ううん、ヤキモチじゃ無いの。
そうだな、もう言っちゃっても良いかな?」
何を言うというのだろう。
円が不思議に思ってると、今度は蓮が旅行鞄から何かを取り出して自分の顔の前に持ってきた。
「マジカルロータスって、実は私だったの」
そう言って鞄から出したマスケラを顔に当てている蓮は、まさにマジカルロータスそのもので。
驚きと懐かしさで思わず円が涙目になる。
「そうなん……
もっと早く言ってくれても良かったのに……」
鼻を啜りながらそう言う円に、蓮はマスケラの下から微笑む。
「だって、マジカルロータスじゃない私を見て欲しかったんだもの。
この事を言うのは結婚してからって、ずっと思ってたんだ」
円は、思わず蓮を抱きしめる。
今まで憧れていた人が、これからはずっと一緒なのだと。その事に喜びが溢れてやまない。
蓮に抱きついたまま、こんな事を言う。
「蓮。知り合いに頼んでマジカルロータスの衣装作って貰うからコスプレして」
「えっ? 私コスプレなんてした事無いし……」
「大丈夫だよ!
ごく普通のマジカルロータスの衣装だから何の問題も無いよ!」
「もう、しょうが無いなぁ。
でも、本当に作って貰えるの?」
「交渉頑張る」
こうして、魔法少女と、魔法少女に憧れる少年は結ばれたのだった。
アシスタントとは言え写真業界で働いていると言う事で、このところは色々なコスプレイヤーからイベントの誘いが来る様になった。
昔、コンデジで撮影して冷たくされた時の事をふと思い出しては、皆げんきんな物だなと思ったのだが、自分の技術を認めて貰えるのは素直に嬉しい。
円の腕が評価される様になったのを、いまだに交流の有るゆきやなぎと冬桜は喜んでくれている。
仕事が終わった後、スマートフォンを確認してみると、ゆきやなぎからメールが来ていた。
今度の日曜に有るイベントに行くのだが、一緒にどうかと言う内容だ。
ゆきやなぎと冬桜のイベント参加率は段々下がってきているのだが、偶に参加する時などはこうしてメールで一報入れてくれる。
勿論、仕事や他の人との予定の都合で同行できない事は有るのだが、なるべくゆきやなぎと冬桜の写真は撮りに行きたい。
中学生の頃、一眼レフを持っていなくて落ち込んでいた円を励ましてくれた、あの二人の恩に報いたいからだ。
ゆきやなぎから来たメールには、今度のイベントではマジカルロータスのコスプレをすると書いてある。
それを見て、まだマジカルロータスの事を覚えていてくれる人が居るのだと、円は嬉しくなるのだった。
そんなある日の事、円の元にユカリから飲み会の誘いが来た。
会社で仲良くなった同僚とお互いの友人を紹介し合おうと言う話になったらしい。
改めて思いだしてみると、学生時代、ユカリには円以外の友人という友人は居なかった。
そんなユカリと仲が良い同僚なら、ユカリが世話になっているという挨拶も兼ねて会っても良いかなと言う気になった。
そして飲み会当日。待ち合わせ場所に行くとユカリと一緒に待っていたのは予想外にも小柄な女性。
いや、本来なら予想できる事だったのかもしれない。中学の頃から、ユカリは女の子の注目を集めていたから。
「よう、柏原。会うのは久しぶりだな」
「おう、篠崎。こないだはありがとな。
んで、この人が同僚の森下さん」
「あ、初めまして」
森下と呼ばれた女性が頭を下げると、円も名乗って頭を下げる。
そうしている内にももう一人女性がやってきて、森下に声を掛ける。
「あ~、あたしが一番遅かった?
蓮、久しぶりだね。
同僚ってこの人達?」
「こっちが同僚の柏原さんで、そっちが柏原さんのお友達の篠崎さん? ですよね?」
「そうです。俺が森下さんの同僚の柏原で、こいつが友人」
「あ、はい。柏原の友人の篠崎です」
「初めまして、桑原琉菜です」
四人それぞれ自己紹介した所で、早速予約していた飲み屋へと向かう。
コンセプトバーとでも言うのだろうか、森下が予約したというその飲み屋は、まるで不思議の国に居る様な内装だった。
その一角に有るテーブル席で、四人は話に花を咲かせる。
それぞれ友人とは中学の頃からの付き合いだとか、学生時代の部活の話だとか。
そんな中で、円が写真部だったという話に森下が興味を示す。
なんでも、森下も使い捨てカメラで風景写真を撮るのが趣味なのだそう。
森下が円に問いかける。
「篠崎さんが今まで撮った中で、一番お気に入りの写真ってどんなのですか?」
「お気に入りの写真ですか?」
ここまでの話の流れで既に円は森下と桑原の二人にもオタクバレしているので、何も躊躇う事は無く、手帳に挟んでいる写真をテーブルの上に置いた。
「これって……」
驚いた様な顔をする森下に、円ははにかみながら説明する。
「俺、一度だけマジカルロータスさんに会った事が有って、その時に撮らせて貰ったんです」
「マジカルロータスさんの、ファンだったんですか?」
円の事をじっと見つめながら森下が訊ねてくる。
それに対して、円は堂々と答えた。
「ファン『だった』んじゃなくて、今でもファンなんです。
高校卒業したら魔法少女を引退するって言ってたから、もう魔法少女を辞めちゃってると思うんですけど、まだマジカルロータスさんは何処かで誰かの事を支えてるんだって、そう信じてます」
「そうなんですか」
それからまた暫く四人で談笑して、メールアドレスの交換もして、楽しい夜を過ごしたのだった。
四人が初めて会った飲み会から数年。
紆余曲折有って円と森下こと蓮が付き合う様になり、結婚の話も出てきた。
ユカリは、やっぱりお前に先を越されたか等と言っているが、素直に円達の事を祝福してくれている。
「蓮、結婚式場、何処が良い?」
「実は私、結婚式は神前式が良くて……
いいかな?」
「神前式か。
てっきりウェディングドレスを着たい物だとばっかり思ってたわ」
「結婚式を挙げるなら、この神社でって決めてる所が有るんだ」
「そっか。それならその方が良いな」
結婚式のプランを立てながら、それに必要なお金はどの程度か。
既に結婚に向けて共同で貯金は始めているが、備えは多めの方が良い。
二人は二人の未来に向けて、体を寄り添わせたのだった。
そして二人は結婚式を挙げ、新婚旅行へと出かけた。
海外に行くかという案も出たのだが、二人とも外国語が殆どわからなくてこわい。と言う理由で新婚旅行は沖縄だった。
日差しに照らされる青い海を、テラスから二人で眺める。
「あ、そうだ」
「どうしたの?」
突然隣を離れて旅行鞄の元へ行った円に、蓮が不思議そうな顔をする。
すると、円がカメラを持って来てこう言った。
「折角だから、このテラスからも写真撮ろう。
記念撮影」
「んふふ。円さんって本当に写真が好きね」
そうして円がシャッターを切ってる事暫く。
ふと、蓮がこう言った。
「ねぇ、初めて会った時に、マジカルロータスさんの写真を見せてくれたけど、あの写真を撮った時の事、覚えてる?」
「勿論さ。凄い緊張したんだから。
あれ? もしかしてヤキモチ焼いてる?」
「ううん、ヤキモチじゃ無いの。
そうだな、もう言っちゃっても良いかな?」
何を言うというのだろう。
円が不思議に思ってると、今度は蓮が旅行鞄から何かを取り出して自分の顔の前に持ってきた。
「マジカルロータスって、実は私だったの」
そう言って鞄から出したマスケラを顔に当てている蓮は、まさにマジカルロータスそのもので。
驚きと懐かしさで思わず円が涙目になる。
「そうなん……
もっと早く言ってくれても良かったのに……」
鼻を啜りながらそう言う円に、蓮はマスケラの下から微笑む。
「だって、マジカルロータスじゃない私を見て欲しかったんだもの。
この事を言うのは結婚してからって、ずっと思ってたんだ」
円は、思わず蓮を抱きしめる。
今まで憧れていた人が、これからはずっと一緒なのだと。その事に喜びが溢れてやまない。
蓮に抱きついたまま、こんな事を言う。
「蓮。知り合いに頼んでマジカルロータスの衣装作って貰うからコスプレして」
「えっ? 私コスプレなんてした事無いし……」
「大丈夫だよ!
ごく普通のマジカルロータスの衣装だから何の問題も無いよ!」
「もう、しょうが無いなぁ。
でも、本当に作って貰えるの?」
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こうして、魔法少女と、魔法少女に憧れる少年は結ばれたのだった。
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