魔法少女の裏表

藤和

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第一章 魔法少女マジカルロータス

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 森下蓮は何の変哲も無い、普通の女子中学生だった。
そんな彼女がある日、森に囲まれた神社にお参りに行き、そのついでに併設されている庭園を歩いていた時のこと。 
 風景写真を取るのが好きな蓮は、使い捨てカメラ片手に庭園の奥へ奥へと進んでいく。
 ふと気がついた。自分が庭園の道から外れ、ざわつく木々に囲まれていることに。
来た道を戻ろうにも、道が無い。
 立ち入り禁止区域に入った記憶は無いのに。そう思いながら血の気が引いていくのを感じていると、ちらちらと光が目に入った。
 何かと思い光の方を向くと、その先にはまるで鏡の様に光を照り返している葉を付けた大木が立っている。
そしてその大木の前には、優美なドレスを着た女性が一人。
 彼女は言う。
「突然お招きしてしまって、ごめんなさいね。
あなたにお願いがあってここまで来て貰ったの」
 その言葉に、蓮は身を硬めながら訊ねる。
「お願いって、何ですか?
あなたは何者なんですか?」
「私は『鏡の樹の魔女』と呼ばれているわ」
「魔女……?」
 鏡の樹の魔女曰く、蓮にはこの世に蔓延る悪を少しでも退治して貰う為に、魔法少女になって欲しいと言う。
勿論、そんな話をいきなりされた蓮は戸惑うしか無い。
 魔法少女などと言う物は実在しない。と言いたい所だが、実際今までニュースを見ていて何度か魔法少女が悪者を捕らえたという話は聞いている。
 なので、魔法少女という物が実在するのは知っては居たが、まさか自分がそれになるとはつゆにも思っていなかったのだ。
「なんで、私が魔法少女に?」
 蓮の問いに、鏡の樹の魔女は優しく答える。
「今、他の地域には魔法少女が居るのだけれど、この地域には暫く居なかったの。
このままではこの地域が手薄になると思って適正のある子を探したら、あなただったのよ」
 適正と言われても、蓮には自分の何処に適正があるのかがわからない。
なので、一体何を持ってして適正というのかを鏡の樹の魔女に訊ねたが、それは秘密だと言うことで教えて貰えなかった。
 胡散臭いと思いながらも暫く鏡の樹の魔女の話を聞いていた蓮。
結局鏡の樹の魔女の言う魔法少女の仕事を受け持つことになってしまった。
「わかりました。魔法少女になります。
それで、やっぱり変身とかするんですか?」
 不安そうにそう訊ねる蓮に、鏡の樹の魔女は一本のネックレスを取り出して渡す。
「このネックレスをいつも着けていてね。
このネックレスに付いているモチーフに念を送ると変身出来るから」
 そう言って、蓮がネックレスを付けるのを確認した鏡の樹の魔女は続けてこう言う。
「それじゃあ、変身した時のコスチュームを考えましょうか」

 まさかコスチュームの案まで聞かれるとは思わなかったなぁ。と、鏡の樹の魔女から解放された蓮は、何とか戻ってこられた庭園の道を歩きながら先程のことを反芻していた。
 暖かな春の日とは言え、まだ日はそんなに長くない。
少しずつ傾いていく太陽と庭園の木々を写真に撮り、蓮は庭園を後にした。

 家の近所の写真屋さんに使い捨てカメラを現像に出し、部屋の中で改めてネックレスを眺める。
何という金属なのかはわからないが、少し赤みがかった金色の、蓮の花を模ったチャーム。
『折角あなたはお花の名前なのだから、名前と同じお花のモチーフにしてみたのよね』と鏡の樹の魔女は言っていたが、あらかじめ名前を把握していたと言う事は、自分に狙いを絞って離さないつもりだったのだろうなと改めて思う蓮。
 ふと、蓮が周囲を見渡し始める。
「……本当に変身出来るのかな……」
 恐る恐る蓮の花のチャームを握り、ぽつりと変身する為の言葉を口にする。
「へ、変身、マジカルロータス……」
 すると途端に蓮の体は光に包まれ、ほんの数秒で姿が変わった。
足下にはトゥシューズ。体には純白のチュチュ。柔らかなボブカットの頭には蓮の花があしらわれ、顔にはマスケラが装着されている。
「どうしよう、本当に変身しちゃった」
 部屋に置かれた姿見の前でオロオロしていると、誰かが部屋のドアを叩く。
「お姉ちゃん、晩ご飯出来たって」
「わかった、ちょっと待っててね」
 妹の睡が部屋に入ってこない様にドアを押さえつけながら答え、蓮はそっと変身を解いたのだった。

 それ以来、蓮は慣れないながらも魔法少女として少しずつ活動をする様になった。
鏡の樹の魔女曰く、学業優先と言う事で、基本的に魔法少女の活動は学校が終わった後、若しくは始まる前の早朝だ。
今日も早朝の牛丼屋で強盗犯を締め上げている所だ。
店員が警察に通報し、警察が来るまでの間、蓮が武器として使っている新体操用のリボンで犯人を縛り付けておいている。
そして警察がやってきて。
「ご協力有り難うございます。
所で、あなたは……」
「新任の魔法少女、マジカルロータスです」
「魔法少女ですか!
これはこれは助かりました。
これからもお世話になる事が有るかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
 犯人が引っ立てられている間に警察官と挨拶を交わし、蓮はそそくさと牛丼屋から出ていった。

 牛丼屋で犯人を縛り上げたのが朝食前だったので、蓮は一旦家へと戻り、朝食を食べる。
 今日の朝食はすいとん。
どんぶりに入った小麦粉の団子と、ささがきにしたゴボウ、柔らかな人参に出汁取りも兼ねていられているウィンナーを噛みしめる。
春とは言えまだ朝は冷えるので、この暖かい朝食は蓮にとっては有りがたかった。
 しかし、いつまでものんびりしている訳には行かない。学校に行かなくては。
蓮はどんぶりに入った汁を飲み干し、制服に着替える準備をしに部屋へと向かった。

 そしてやってきた中学校。
皆まだ入学したてにも拘わらず、早速それぞれに友人を見付けている様だ。
勿論、蓮にも友人は居る。
「蓮、今朝のニュース見た?」
「今日のニュースって言っても私と琉菜じゃ朝見てる番組違うから、どのニュースかわからないよ?」
 蓮の友人、桑原琉菜曰く、今朝のニュースで魔法少女が強盗犯を捕まえたと言う物が有ったとのこと。
とても身に覚えはあるが、自分が締め上げてきたとは一言も言えずに琉菜の話を聞く。
「魔法少女って、小さい頃憧れたな~」
「琉菜は魔法少女になりたいの?」
「なりたいって思ったこともあるけど、あたしじゃ皆を守る様な魔法少女になんてなれないなって」
「そうなの?」
 それを言ったら蓮も、『皆を守る魔法少女』として上手くやっていける自信がまだ無いのだが、それは言わない。
 ふと、蓮は思った。
自分よりも琉菜の方が魔法少女に向いているのでは無いかと。
中学に入ってから体育でやっている武術の授業でも、琉菜は筋が良いと先生に褒められているし、体力もある。それに何より、曲がったことが大嫌いで正義感が強いのだ。
特に志も無くふんわりと魔法少女をやっている自分よりも、琉菜の方が……そう思い、蓮は制服のブラウスの下に付けているネックレスに手を当てた。

 その日の放課後、蓮と琉菜はどの部活に入るかを決めることになった。
それは今年入学した全校生徒がそうなのだが、蓮はどの部活に入るか悩む。
この学校は、基本的に帰宅部という物は認められていないのだ。
だから、魔法少女としての活動と両立させる為には、時間が短いか、融通することの出来る部活に入らなくてはならない。
運動部は練習時間が長いから入るのは無理だし、そもそも運動部に興味が無い。
結局、蓮は文化部を幾つか巡った後、美術部に入ることに決めた。
 琉菜はテニス部に入ることにした様で、美術部に入る蓮にこう声を掛ける。
「部活が別々で帰る時間が合わないのは残念だけど、部活も楽しもうね」
「う、うん」
 無邪気にそう言う琉菜に、蓮は魔法少女である事の窮屈さを少し感じた。
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