琉球お爺いの綺談

歴史ｉｆ 古戸部稲造

200年後の世界から

　世界大戦の始まりは、“一発の銃声サラエボの銃声”と呼ばれて、判りやすい日付となっているが、世界大戦の終わりは、学者によって数十年くらいの開きがある、か・・・
　小学校の社会科に書かれている、歴史の事実である。

　転生すると、同じような時代でも、歴史は変る。

　そして私は、滅びる地球という、異なる世界に、転生してしまったようだった。

　“黒い雨”を貴方は、知っているだろうか、核爆発が生じた結果、巻き上げられた泥濘や埃、すすや放射性物質を含んだ、重油のように粘り気のある大粒の雨・・・前世では、実際に投下された都市、ムルロア環礁やセミパラチンスク周辺といった地域で、原子爆弾投下後の降雨の記録が残っていたハズ・・・

  アフリカ内戦での戦術核の使用や、中東紛争で使用された戦術核の射ち合い、多くの地域で使用された核兵器は、地球環境を大きく破壊していた。粉塵が成層圏に舞い上がり、世界各地に冷夏を招き、食糧事情の悪化は、さらなる内戦の激化を招いていた。

　国際連盟の決議で、核兵器の使用禁止が決定されても、核兵器の製造や保有には、製造・禁止することには、反対が多く議決できなかった。結果として、核兵器を製造可能な大国では使用されず、輸出先の新興国が、ＥＭＰ兵器といった新兵器の実験場となって、戦術核の射ち合いが継続されてしまっていた。

　天から降る雨が、いつから透明ではなく、記録に残る雨が降り続いていたのかは、よくは判らない。そして、かつての世界でも、“酸性雨”という形で、1970年代くらいから、自動車の増加や工場等による環境破壊の影響として、話題にはなっていた。

　日本でも、四日市ぜんそくや光化学スモッグといった、公害問題が悪化していた。国際連盟では、ガソリンに含まれる鉛が引き起こす、鉛中毒が世界的に問題になり、有鉛ガソリンの禁止と無鉛ガソリンの普及を推奨していた。しかしながら、罰則規定がなく、努力義務という状況から、なかなか進まない状況で、患者は増加していくという悪循環に陥っていた。
　「万民輔弼勅旨」が発令され、広く国民の健康を損なうことは、国家の権益を損なうこととされ、公害等への対策を進めるために、環境省が設置され、後手後手ではあったが、公害対策事業が推進されていった。

　今降っている雨だと、ｐｈ４程度か・・・マシだな。1996年に環境破壊の影響が低い、南鳥島で、ｐｈ5.6程度だったけど、2020年にはｐｈ5.2に下がっていた。この世界の雨は、透明ではなく、煤や汚れが混ざり、白いタオルで拭くと、黒く汚れが着く雨が降り注いでいる。タオルやハンカチで、黒さを確認することで、ｐｈを推定できるくらいに、2090年代の雨は酷くなっていた。

　終わることの無い世界大戦は、結果として１００年後の世界に、平和ではなく環境破壊の激化と、1920年から国際連盟の事務局次長古戸部麦造の手記から、環境破壊への警告が、記述されていた。1914年に始まる世界大戦は、世界各地に飛び火するように、継続されて戦場は拡散していって、ルーシー連邦というボリシェビキ政権が倒れた、1990年代以降も国際的な対応は、遅れに遅れて、樹々は枯れて、２２世紀にはいった頃には、日常的に黒い雨の降る世界へと変化していた。大都市圏では、地下街の開発が促進され、食糧生産が工場内の閉鎖環境下で、水耕栽培が進められるようになっていた。　都市のアーコロジー化は、満州で満州鉄道都市整備を中心に拡大し、地下街が

　西暦2101年、大気は穢れに満ち、水は汚濁に溢れ、大地は滅びに瀕し、絶望と呼ばれる生気が始まった。