458 / 511
歴史if 古戸部稲造
終わらずの世界大戦 著者:古戸部稲造
しおりを挟む
国際連盟[League of Nations]は、独仏停戦から始まる、世界大戦終結に向けた、国際会議であった。本来であれば、戦後を語るための会議であったが、賠償金から交渉が決裂し、継続された停戦交渉と講和会議の準備を進める組織となった。年に一度開催される総会は、停戦交渉の継続と、講和交渉の模索として始まり、紛争の調停が議題となっていた。
私は、国際連盟[League of Nations]事務局次長として、会議場となったスイスのジュネーブ[Palace of Nations]に勤めることとなった。
当初はパリで、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、日本、ドイツの五ヶ国が、参加して講和条約締結し、締結後の平和維持を国際連盟[League of Nations]担うハズであった。
国際連盟[League of Nations]の目的は、もうひとつあって、世界中に猛威をふるい、パンデミックが発生していたスペイン風邪の流行を防ぐことも目的としていた。世界大戦中ということもあり、感染拡大を止めることができず、パンデミックによって、感染は拡大していく一方であった。戦争中ということもあって、調査団の派遣も難しい状況があって、防疫体制の確立は難航していた。
講和交渉は、決裂したため、停戦の継続と講和に向けた交渉の継続、秩序の構築と防疫対策というのが、世界連盟[League of Nations]の目的となった。
「古戸部、この草案見てくれる?」
「はい、オルガ様」
原稿草案を持ってきたのは、ロシア帝国皇女オルガ殿下、その向こうで頭を下げているのは、撃墜王繁野男爵だ。フランス軍に義勇兵で参加し、シゴーニュ戦闘航空群に参加、撃墜王の一人となって、フランスの英雄と呼ばれていました。
草案は、アメリカの新聞に掲載する、帝室記事だった。フランス軍に参加していた男爵は、フランス語はともかく、英語は苦手だ。草稿を確認している私に、オルガ殿下は、
「日本では、ロシア帝国の復活は、賛成しないのよね」
「樺太の領有権を、主張されると、難しいですね」
日露戦争の結果として、樺太の領有権について、日露双方が領有権を主張しているため、日露戦争後の1905年に締結されたポーツマス講和条約では、樺太の領有権は、継続審議事項となった。革命が起きて、ロシア帝国が斃れ、ボリシェビキ政権が樹立したが、ルーシー帝室が、ロシア帝国
「今、ロシア帝国が、自国領と言えるのは、樺太だけよ」
ボリシェビキ政権とウクライナ白軍の戦争は、フランスやイタリアの支援を受けながら、白軍は敗北していて、キエフも失陥したと言っていた。ボリシェビキ政権は、ウクライナから東欧へ進出し、ルーマニアへ侵攻した。ルーマニアは、ブカレスト条約に基づいて、ドイツの支援を受けて、防衛にあたる結果となった。帝室復活を求める
「世界情勢は、複雑怪奇ですな、殿下」
「そうね、もっと怪奇になるわよ」
「Landless Emperorですか・・・」
「えぇ、帝室を慕って、国を離れた者も、かなりの数と聞きます」
ボリシェビキ政権によって、ロシア国内では、大量の餓死者が出て、大混乱している状況だった。ボリシェビキ政権は、大量の食糧をドイツへ売ることで、大量の外貨を確保して、国内産業の保護育成を始めた結果、食糧を失った国内には餓死者が溢れていたのである。亡命者も増加し、ロシア帝室資産である、諸外国の大使館や領事館は、旅券の発行を求める声があがっていた。
「ルーシー帝室に忠誠を誓う者達ですか」
「ええ、フランスには、シゲノに頼んで、記事を書いて貰った」
「私は、イギリスとアメリカですか」
「ドイツにも頼みたいんだけど、ドイツ語できる人、誰かいないかしら」
「ヴィルヘルム公は、御嫌いですか?」
「え、あの、変態」
オーストリア大公で、ハプスブルグの皇族の名をあげると、嫌な顔をした。
「では、カール一世陛下に、お願いしますか」
オーストリア=ハンガリー帝国、最期の皇帝、カール一世は、スイスへ亡命していた。アメリカのジェイソン大統領が、莫迦な発言をして、バルカン半島は、民族独立運動が激化し、ボリシェビキ政権の草刈り場と化していた。
「それは、ジュネーブに迎えて欲しいってこと?」
「欧州に繋ぎを求めるならば、蒼き血に頼るも、一つの手段と思います」
「事務局に、予算は、無いわよ」
「はい、メフメト六世も、御一緒ならば・・・と、本国から話をされております」
オスマントルコのスルタン、メフメト六世も、国外へ逃亡せざるを得ない状況となっていた。
「日本が、どうして・・・」
「どうも、エルサレムへの鉄道工事を、打診されたようで・・・」
日本の鉄道工兵隊は、樺太だけでなく、満州の敷設工事も進めていて、国際連盟では満州特区の設立が進められていた。満州はルーシー帝室の権益として国際連盟に奏上されて、国際連盟諸国家の利害調整から、国際連盟の直轄統治が求められる状況となって、鉄道敷設権を日本を確保し、撫山等の炭鉱や鉱山は、フランスが権益を確保していた。ニコラエフスクとハバロフスクの都市とアムール川流域の航行権を、イギリスが取得して、シベリア鉄道の権益をアメリカが取得した。
ルーシー帝室は、満州を中心とした、海外資産を列強諸国家の利権調整を、国際連盟議事に上げることで、帝室の海外資産を確保し、ボリシェビキ政権の孤立化を図っていた。
「エルサレムって、ハイファからよね、どこまで敷設するの?」
「ヨルダンのアンマン、できれば、アカバまで敷設したいと」
「ん・・・つまり、エルサレムを国際連盟の直轄領にしたい・・・か・・・」
<1915年フサイン=マクマホン協定:アラブの独立>
<1916年サイクス・ピコ協定:イギリス・フランス・ロシアによる中東分割>
<1917年バルフォア宣言:パレスチナにユダヤ人居住地確保>
イギリスによる三枚舌外交は、中東情勢を悪化させていて、利害調整が難しくなっていた。
ユダヤ人の移民も滞り、アラブのゲリラ活動も、活発化していた。サイクス=ピコ協定には、ロシア帝国とフランスも加わってたので、ルーシー帝室は無関係ということではなかった。
「方法は、満州方式ね」
満州方式は、日本が、現地の利害調整にあたって用いた方式で、敷設した駅に市民から選出された市長を認めて、統治する方式をとっていた。現実としては、市長には、市民権の発行権があるため、卵と鶏の課題は残るが、複数の勢力抗争が続く満州では、次善の手段として容認されていた。特にアメリカ大統領ジェイソンが、市長選方式を歓迎したことで、満州鉄道都市警備局が、都市整備を進める中で、市長選を実施し、有力者を市長に選出することで、治安維持を確立していった方式である。
イギリス海軍が、拠点として確保した、ハイファからネタニアーテルアビブ-エルサレムーアンマンを繋ぐ鉄道路線の敷設が始まったものの、アラブ勢力の反発から、工事が進まない状況に追い込まれていた。
「駅単位で、市長を決めれば、アラブとユダヤ、列強の住み分けが、なんとかなるのではという提案です」
「地域の権益を分割するってこと、ハイファは、イギリスよね」
「テルアビブは、ユダヤ人の入植がはじまってますから、ユダヤ人になるかと、アンマンはヨルダンとなりますので」
「上手くいくと思う、古戸部?」
「エルサレムを無人とすれば、まだ希望が、あるかと」
エルサレムは、聖地であり、どの国が統治しても、問題を抱える状況となっていた。
「エルサレムの権益が欲しければ、国際連盟で議決せよ・・・ということね」
ルーシー帝室が信奉する、ロシア正教会にとっても、エルサレムは、聖地であり、無視できない土地である。
「はい」
「わかったわ、進めて頂戴、調整してくれれば、ジュネーブで会うわよ」
青き血の流れは、世界大戦の結果として、ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国が崩壊していった。民族自決という考え方は、理念としてはともかく、現実としては、マイノリティとマジョリティの争いとなって、各地の紛争を激化させていく流れとなっていった。
20世紀に生まれた、共産主義は、帝国主義へのアンチテーゼとなり、時代の奔流でとなって、世界を席巻していった。
私は、国際連盟[League of Nations]事務局次長として、会議場となったスイスのジュネーブ[Palace of Nations]に勤めることとなった。
当初はパリで、アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、日本、ドイツの五ヶ国が、参加して講和条約締結し、締結後の平和維持を国際連盟[League of Nations]担うハズであった。
国際連盟[League of Nations]の目的は、もうひとつあって、世界中に猛威をふるい、パンデミックが発生していたスペイン風邪の流行を防ぐことも目的としていた。世界大戦中ということもあり、感染拡大を止めることができず、パンデミックによって、感染は拡大していく一方であった。戦争中ということもあって、調査団の派遣も難しい状況があって、防疫体制の確立は難航していた。
講和交渉は、決裂したため、停戦の継続と講和に向けた交渉の継続、秩序の構築と防疫対策というのが、世界連盟[League of Nations]の目的となった。
「古戸部、この草案見てくれる?」
「はい、オルガ様」
原稿草案を持ってきたのは、ロシア帝国皇女オルガ殿下、その向こうで頭を下げているのは、撃墜王繁野男爵だ。フランス軍に義勇兵で参加し、シゴーニュ戦闘航空群に参加、撃墜王の一人となって、フランスの英雄と呼ばれていました。
草案は、アメリカの新聞に掲載する、帝室記事だった。フランス軍に参加していた男爵は、フランス語はともかく、英語は苦手だ。草稿を確認している私に、オルガ殿下は、
「日本では、ロシア帝国の復活は、賛成しないのよね」
「樺太の領有権を、主張されると、難しいですね」
日露戦争の結果として、樺太の領有権について、日露双方が領有権を主張しているため、日露戦争後の1905年に締結されたポーツマス講和条約では、樺太の領有権は、継続審議事項となった。革命が起きて、ロシア帝国が斃れ、ボリシェビキ政権が樹立したが、ルーシー帝室が、ロシア帝国
「今、ロシア帝国が、自国領と言えるのは、樺太だけよ」
ボリシェビキ政権とウクライナ白軍の戦争は、フランスやイタリアの支援を受けながら、白軍は敗北していて、キエフも失陥したと言っていた。ボリシェビキ政権は、ウクライナから東欧へ進出し、ルーマニアへ侵攻した。ルーマニアは、ブカレスト条約に基づいて、ドイツの支援を受けて、防衛にあたる結果となった。帝室復活を求める
「世界情勢は、複雑怪奇ですな、殿下」
「そうね、もっと怪奇になるわよ」
「Landless Emperorですか・・・」
「えぇ、帝室を慕って、国を離れた者も、かなりの数と聞きます」
ボリシェビキ政権によって、ロシア国内では、大量の餓死者が出て、大混乱している状況だった。ボリシェビキ政権は、大量の食糧をドイツへ売ることで、大量の外貨を確保して、国内産業の保護育成を始めた結果、食糧を失った国内には餓死者が溢れていたのである。亡命者も増加し、ロシア帝室資産である、諸外国の大使館や領事館は、旅券の発行を求める声があがっていた。
「ルーシー帝室に忠誠を誓う者達ですか」
「ええ、フランスには、シゲノに頼んで、記事を書いて貰った」
「私は、イギリスとアメリカですか」
「ドイツにも頼みたいんだけど、ドイツ語できる人、誰かいないかしら」
「ヴィルヘルム公は、御嫌いですか?」
「え、あの、変態」
オーストリア大公で、ハプスブルグの皇族の名をあげると、嫌な顔をした。
「では、カール一世陛下に、お願いしますか」
オーストリア=ハンガリー帝国、最期の皇帝、カール一世は、スイスへ亡命していた。アメリカのジェイソン大統領が、莫迦な発言をして、バルカン半島は、民族独立運動が激化し、ボリシェビキ政権の草刈り場と化していた。
「それは、ジュネーブに迎えて欲しいってこと?」
「欧州に繋ぎを求めるならば、蒼き血に頼るも、一つの手段と思います」
「事務局に、予算は、無いわよ」
「はい、メフメト六世も、御一緒ならば・・・と、本国から話をされております」
オスマントルコのスルタン、メフメト六世も、国外へ逃亡せざるを得ない状況となっていた。
「日本が、どうして・・・」
「どうも、エルサレムへの鉄道工事を、打診されたようで・・・」
日本の鉄道工兵隊は、樺太だけでなく、満州の敷設工事も進めていて、国際連盟では満州特区の設立が進められていた。満州はルーシー帝室の権益として国際連盟に奏上されて、国際連盟諸国家の利害調整から、国際連盟の直轄統治が求められる状況となって、鉄道敷設権を日本を確保し、撫山等の炭鉱や鉱山は、フランスが権益を確保していた。ニコラエフスクとハバロフスクの都市とアムール川流域の航行権を、イギリスが取得して、シベリア鉄道の権益をアメリカが取得した。
ルーシー帝室は、満州を中心とした、海外資産を列強諸国家の利権調整を、国際連盟議事に上げることで、帝室の海外資産を確保し、ボリシェビキ政権の孤立化を図っていた。
「エルサレムって、ハイファからよね、どこまで敷設するの?」
「ヨルダンのアンマン、できれば、アカバまで敷設したいと」
「ん・・・つまり、エルサレムを国際連盟の直轄領にしたい・・・か・・・」
<1915年フサイン=マクマホン協定:アラブの独立>
<1916年サイクス・ピコ協定:イギリス・フランス・ロシアによる中東分割>
<1917年バルフォア宣言:パレスチナにユダヤ人居住地確保>
イギリスによる三枚舌外交は、中東情勢を悪化させていて、利害調整が難しくなっていた。
ユダヤ人の移民も滞り、アラブのゲリラ活動も、活発化していた。サイクス=ピコ協定には、ロシア帝国とフランスも加わってたので、ルーシー帝室は無関係ということではなかった。
「方法は、満州方式ね」
満州方式は、日本が、現地の利害調整にあたって用いた方式で、敷設した駅に市民から選出された市長を認めて、統治する方式をとっていた。現実としては、市長には、市民権の発行権があるため、卵と鶏の課題は残るが、複数の勢力抗争が続く満州では、次善の手段として容認されていた。特にアメリカ大統領ジェイソンが、市長選方式を歓迎したことで、満州鉄道都市警備局が、都市整備を進める中で、市長選を実施し、有力者を市長に選出することで、治安維持を確立していった方式である。
イギリス海軍が、拠点として確保した、ハイファからネタニアーテルアビブ-エルサレムーアンマンを繋ぐ鉄道路線の敷設が始まったものの、アラブ勢力の反発から、工事が進まない状況に追い込まれていた。
「駅単位で、市長を決めれば、アラブとユダヤ、列強の住み分けが、なんとかなるのではという提案です」
「地域の権益を分割するってこと、ハイファは、イギリスよね」
「テルアビブは、ユダヤ人の入植がはじまってますから、ユダヤ人になるかと、アンマンはヨルダンとなりますので」
「上手くいくと思う、古戸部?」
「エルサレムを無人とすれば、まだ希望が、あるかと」
エルサレムは、聖地であり、どの国が統治しても、問題を抱える状況となっていた。
「エルサレムの権益が欲しければ、国際連盟で議決せよ・・・ということね」
ルーシー帝室が信奉する、ロシア正教会にとっても、エルサレムは、聖地であり、無視できない土地である。
「はい」
「わかったわ、進めて頂戴、調整してくれれば、ジュネーブで会うわよ」
青き血の流れは、世界大戦の結果として、ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国が崩壊していった。民族自決という考え方は、理念としてはともかく、現実としては、マイノリティとマジョリティの争いとなって、各地の紛争を激化させていく流れとなっていった。
20世紀に生まれた、共産主義は、帝国主義へのアンチテーゼとなり、時代の奔流でとなって、世界を席巻していった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる