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琉球お爺ぃ小話
戦国椿説景03 人頭戸籍は、名主台帳
しおりを挟む渡辺荘「なにわ」の税制は、難しいモノではなく、人頭税を基本とした。北に淀川、東に平野川、南に大和川、西が瀬戸内乃海に囲まれた、渡辺荘に入るには、6文銭の支払いが必要となる。中に住んでいるモノが、「なにわ」から出るのは無料だが、入るには6文かかる。これは、人もあやかしも同じであり、6文払えば「なにわ」に入ることができる。
渡辺の名主台帳は、母方の家を基本として、母から子への記録を基本としている。これは、延喜格式で決められた、母が人であれば人、母があやかしであればあやかしという考え方に基づいている。また、平安期は、夫が妻の許へ通う形が基本で、婚姻が成立する形であった。
渡辺党家祖である渡辺綱も同じであり、人だけでなくあやかしを含めて妻の数が多く、それぞれに子を為しているが、名主台帳は母方を基準に作成されている。しかしながら、名主台帳には、生まれた子供が数え七つになった時に、台帳に名前が記載され、父名が記録される。
このため、渡辺荘の名主台帳では、母の夫が記載されている。夫の数は、ほとんどが一人であるが、複数であることも多く、子供は母方で育てられることが基本となっている。子供が数えで七つになった時に、台帳に名前が記載される場合、子供の父名を添えて記載されるが、父名についても原則1名だけだが、母があやかしの場合は、複数名記録されることも多い。子の母は、原則として一人であるが、養母や猶母に名付け母を含めて、複数の名前が記載されることも多かった。
渡辺荘の名主台帳には、生まれた時に台帳に記録されるが、元服すると戸籍が個別に作成される。元服記録には、一般には父親と母親が記録され、武家や商家の場合は、男であれば加冠役、女であれば裳着役、名付け親や媒酌人といった、様々な後見人役が記される。後見人の数は、そのまま家格付であり、人とあやかしに関係なく、家にとっての一代イベントであった。
渡辺党三代弼は、元服と同時に主上の嫡女を難波斎宮院として迎え、弼自身が難波斎宮院司家筆頭となったため、後見人に詠み人知らずが就き、加冠役には斎宮院の母宮が就き、古今東西に無いイベントとなった。参列者には、諸国から渡辺一門だけでなく、各地のあやかしが訪れたため、本来三日間の婚儀が十八日かかったと記されている。
斎宮院司家とは、あやかしと同じく、「ひとならざるもの」であり、司家は家の名前で在り、個人として存在していない。つまり、斎宮院が任期を終えると、斎宮院家預かりとなり、すべての司家が仕えるモノとなる。斎宮院が身籠り、子が生まれると、男であれば司家に、女であれば斎宮院補として育てられる。七つになると、子の父にはすべての司家が記載され、男はすべて斎宮院の司となる。伊勢斎宮、賀茂斎院、難波斎宮院、三家の斎宮院家は、基本的にどこも同じ形である。
通い婚を基本とした平安期の場合、子供の血筋を辿る場合、母方は辿りやすいが、父方は確認できないことが多い。このため、平安期の男子は、母方の家で育てられ、長じて妻の家に入る形となる。男が独立して屋敷を建てて、妻を屋敷に迎えると、新たな一家が形成されることになる。
つまり、日ノ本では婚儀の形からすれば、独立して一家を立ち上げることで、男は自分の家を立てることができたのである。「なにわ」渡辺津を拝領した渡辺惣官家は、様々な渡辺の本家本流であるが、日本全国に家として渡辺を拡げていったのは、それぞれの場所で血族の男が、一家を立てて独立していったことにある。
「なにわ」の中で、名主という言葉は、人とあやかしの双方が使う言葉であり、名前によって、本人が特定できたためである。名前の主を特定することで、租税対象を固定することができ、住民の把握が可能となったからである。
戦国期に入ると、集団戦闘と乱捕りの増加から、捕縛と凌辱が増加し、子の父が特定し難くなっていった。乱捕りは、男女関係なく生じる結果であったが、母方が基本であったため、男を対象にしても影響が無く、女を対象にした場合だけ、問題が生じる可能性があっただけである。まぁ、女性当主にとって、種が誰であろうが、自分の子であるが、男性当主にとって、種が誰であるかが、問題になるからである。女性を当主として側室に迎えることで、人質代わりとするという対応も多かったので、一概に女性当主が少なかったわけではない。
難波渡辺荘の名主戸籍は、家祖渡辺綱以来の記録であり、坐摩、住吉、難波、浪花の各社に保管され、難波宮斎宮院に写しも保管されていた。幾度かの火災や戦で、社が焼けたことがあったが、社の写しから戻すことで、記録の保全に努めていた。名主戸籍は、累代の資料であり、「なにわ」発展の歴史そのものであった。
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