琉球お爺いの綺談

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if昭和史をお爺ぃが描くと

if昭和史をお爺ぃが描くと 二つの|無地領主《Landless Lord》は、日ノ本を頼る

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 正式な会議は、二日後から始まる。
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 初日は、凄まじい騒ぎであった。会議室の中で、二人の女性が、罵り合うのが、建物の外から聞こえたと言われるほどの騒ぎであったという。

 日本名、川島芳子。愛新覚羅家親王の十四王女であり、男装の麗人として知られた女傑であった。

 タチアナ皇女殿下は、ロシアの至宝にして、宝玉と呼ばれた美貌の女傑である。

 どちらも、大国が崩壊し、逃げ延びた王族であった。

 溥儀が、北洋軍閥の抗争に巻き込まれ、帝号を廃し清室優待条件の一方的な清算を通達され、紫禁城を追われたのは、if昭和元年(1924年)10月のことであった。溥儀は、清室優待条件の履行を求めて、イギリスを頼ったが、相手をしてもらえず、結果的には追われるように、天津の日本領事館へと逃げ込むこととなった。

 全方位外交で、調整を図っていた幣原外務大臣は、この件を第三国への亡命で片付けようとしたが、鉄道院総裁、江木翼から待ったがかかり、愛新覚羅家からの要請について、討議を求める結果となり、御前会議が開催されたのである。

「醍醐の御代に、五位を得たのは、鷺であったな」

 会議の最後に、このように話されて、退出なされた。

 結果としては、愛新覚羅家の要請を受けて、「特区」に宮城を建設する許可を、江木総裁へ通告した。翌日の新聞には、「窮鳥入懐」という報道がなされたのである。清、露は、敵国なれど、窮鳥となって我が国へ客人となった。無地領主Landless Lordとして、窮鳥を迎え入れる。

 「特区」における資産は、本来として、愛新覚羅家の領地であり資産であった。

 アイグン条約、北京条約の中で、ロシア帝国に奪われた領土であり、清国本貫の地でもあった。

「風間君、正直に言えば、アイグン条約が結ばれた時、愛新覚羅家は、女真の王ではなくなったのだがな」

 清国を築き上げ、最大の版図を築き上げた大帝国の始まりは、満洲であり、沿海州であった。本貫の地を捨てて、中華へ拘り、結果としては、最終的にすべてを失った国となった。

「原閣下、良かったのですか、争いになるかと思いますが」

「川島君は、盤面を返したいという思いがあるのは、否定はできんだろうな」

「はい。ただ、粛親王殿下は、無理は言わぬ。されど引けはせんと」

「奪われていること、奪っていることを確認することから始めるか」

「はい」

「風間君。何日くらいかかるか」

「まずは、言いたいことを言ってもらっても、良いと思います原閣下。時間はいかほどとれるのでしょうか」

「1日、長くて2日だ。5日以上会議にかかれば、満洲鉄道都市警備局は、非常手段に出る」

 満洲鉄道都市警備局の非常手段は、シナ派遣軍の出動要請である。旅順のシナ派遣軍を動かして、黒竜江省一帯の制圧にかかる。皇帝の受け入れはできても、領地を持たせることはできないというのが、日本政府の見解である。無地領主Landless Lordが、国際連盟の中で、日本が譲歩できる限界であった。現在の「特区」は、国際連盟の領土であり、主権そのものは、国際連盟であって、露国にも清国にも存在しないというのが、国際連盟としての結論である。だからこそ、国際連盟で、権益の調整ができるのであり、分担金の大半を「特区」から得ている状況は、そのまま国際連盟の存続にかかわる問題であり、認めることはできない。

「新渡戸様に、芳子殿下の説得をお願いしましょう」

「タチアナ殿下の説得は、任せてよいか、風間君」

「はい。権益については、現状維持であれば、皇女殿下は納得されると思います」

 奪われた側が返せと言って、奪った側は返さないという。国際条約の結果は、奪った側の権利を認め、国際連盟も承認している。奪った側が返さない限り、現状の変更は、一切認められることは無い。

「ただ、原閣下。「特区」の区域外であればどうでしょうか」

「アイグン条約、北京条約に含まれていない地域は、清国の領土であったのは間違いない」

「アメリカは、大陸利権を求めて、「特区」の拡大を望んでいます」

「熱河省、河北省の件か」

「中華民国との状況は、日に日に悪くなっていると、幣原大臣が仰っていました、閣下」

「共産党が暴れるのは、南京では抑えられんようだな」

「山海関から天津の海岸線、熱河省。大きな権益ですが、ロシアの権益ではありません」

「中華民国との交渉はどうする」

「中華民国と北洋軍閥の軋轢が、清室優待条件を破棄しています。このままでは、満洲族、モンゴル族、回族、チベット族との待遇要件についても破棄しかねません」
 満蒙に対して、北洋軍閥、中華民国との協議がなされ、満蒙蔵の諸族に対して、自治を認め、王族の資産を保護し、宗教の自由を保障するという待遇要件であった。

  回族の共和に賛同すれば、待遇す。
  満蒙回蔵各族共和に賛同すれば、待遇す。
  満蒙王侯爵秩禄は、旧に依らしめる。
  各州各県、出入り自由、現有宗教信仰を許す。

 清国の待遇要件の破棄は、そのまま諸族共和の破棄に繋がる事態であり、危険があった。これは、蒙古の諸部族との交渉が悪化する結果となる。すでにアメリカとの交渉が決裂していて、蒙古とアメリカは戦争となっていて、日本は蒙古側での中立を保ち、馬賊を介した蒙古側への支援まで実施していた。

 日本政府としては、蒙古、極東ロシアを、ソビエトに対する盾として、イルクーツク方面を境界にしたいという思いがあった。戦況は、ソビエト側がチタに攻め込むのを、防ぐのがやっとの状況であった。アメリカ陸軍としては既に撤退を完了し、チタ方面には、「フライングタイガース」のような義勇兵部隊が残っているだけとなっていた。
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