琉球お爺ぃ 歴史エッセイ

五戒への問いかけ

まとめ②「五戒」「不偸盗戒」は、慣習として根付いた（１）

　五戒という戒律
「不殺生戒」
「不偸盗戒」
「不邪婬戒」
「不妄語戒」
「不飲酒戒」

「不偸盗戒」は、日本では諸外国よりも、マナーとして厳しい戒律となったように思います。

　日ノ本では、記憶から記録へと、文明が遷移するのは、古事記が編纂された和銅５年712年頃となります。推古８年600年に遣隋使が送られ、日ノ本の体制確立が始まり、聖徳太子が薨去して、蘇我氏専横が始まり、大化元年645年乙巳の変で、蘇我氏が滅びると、中央集権体制と公地公民制が、徐々に確立していくことになる。
　隋の時代に、日本は柵封体制から外れており、天智２年633年白村江の敗戦もあって、遣唐使には捕虜の返還交渉を含めて、唐との外交関係の修復が組み込まれていた。
　神代の伝承期は、記憶文明であったので、文字に相当する徴しるしは、部族や地域で異なり、刺突ハジチのような形で、継承されていた。記憶文明期の記録方法については、イロコイ連邦のWampumが有名であるが、日本にも同じように記憶の象徴として、翡翠の加工品や刺突ハジチのデザインが使われていたと推定されている。鯨面というのは、刺突ハジチをいれた顔で、

　公地公民制が、律令に組み込まれたのは、蘇我氏滅亡以降、領主を廃し、日ノ本の所有権を天皇に帰することで、北の陸奥から南の薩摩まで、日ノ本全域を、日本の国土を天皇領として定めるためであった。公地公民制は、天皇家による、日本の領有権を確立して、日本国土の明確化を図るために、制度を転用したモノである。推古８年600年の遣隋使から、遣唐使の流れは、大陸の諸制度を組み入れて、記憶文明から記録文明へ遷移する流れでもあった。

　支配地域については、和銅６年５月713年「風土記」を、国司からの報告書として定型化していく。
　① 国郡郷の名
　② 産物
　③ 土地の肥沃状態
　④ 地名の起源
　⑤ 伝承、旧聞異事
　①②③④⑤「風土記」の記述には、漢字が用いられ、天平１３年741年に、国分寺国分尼寺が設置されていくと、①②③④⑤の国への報告は、国家によって記憶から記録へと封印される結果となる。諸国に建立された、国分寺国分尼寺は、国家鎮護の要であり、教育施設としても機能していた。
　日ノ本の識字率が、古代より高い理由は、天皇家による支配体制の確立が、漢字教育と共に、日本国の支配体制を確立していったことになる。日本に独自に文字があったかどうかは不明だが、漢字を使うことで、天皇家の記録が、日本国中に浸透し、天皇家による支配体制が確立していったことになる。
　石井良助著「日本法制史概説」によれば、神話伝承期の法律は、「ノリ」と呼ばれる習慣法制度であったとされる。神話伝承期は、氏族の「ノリ」は、氏神の意思ノリとして発令された。
　日本書紀では、「太古之遺法いにしえののこれるのり」という習慣法の形で、記録封印されている。記録された最初の「法律ノリ」が、聖徳太子が制定した、推古１２年604年十七条の憲法が、嚆矢はじまりとされている。

　三世一身の法養老７年723年から墾田永年私財法天平１５年743年の流れは、公地公民制で天皇領となった土地を開墾したら、開墾地の土地を領有する権利を得る法律であり、開墾と土地の私有は、あくまでも天皇の許諾事項として許認可されている。
　神代期の不動産は、「トコロ」と呼ばれ、地方豪族の争奪戦の対象であり、耕作者の財産ではなかった。土地の境界に碑を建てて、氏族の「ところ」を確立する行為が行われて、不服とすることで戦争が起こっていた。
　氏族間の紛争や戦争を調停するためには、天皇家による公地公民制が必要であり、日ノ本全土「トコロ」を天皇領とすることで、戦の調停権を得たことになる。三世一身の法から墾田永年私財法によって、私財とすることができるのは、日ノ本全土「トコロ」が公地公民天皇領であり、許認可を得て開墾した結果として、私財とする成文法となる。

　石井良助著「日本法制史概説」によれば、神話伝承期の動産は、「モノ」として、所有者を「モノのヌシ」という扱いであった。神話伝承期には、既に、動産の個人所有という概念があった。

　動産や不動産の価値は、「シロ」と表現され、稲一束を生産できる土地は、「一代イチシロ」と評価されていた。人が犯した罪科は、穢れであり、穢れを祓うには、この価値シロを基準として、賠償金を支払う形となっていた。罪科の償いが成立しない場合は、国外追放によって穢れが除去され、祓いに変えたとされる。
　これは、売買についても同様であり、米一束や絹一疋が、価値シロの基準として用いられ、商取引は神話伝承期から始まっていた。市場は、氏神を祭る神社が、交換場所として使われて、買う＝替えるであり、神社を場所としたのは、交換そのものが祭祀として扱われたからである。「アキナイ」という言葉は、「秋に行う」という形で、交換の祭祀が、秋に行われたのが、語源となっている。

　動産や不動産は、「モツ」や「タモツ」という形で、所有権の権利者を明確化していた。