平安の終焉、鎌倉の始まり

Ittoh

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対決 伊豆下田合戦

為朝追討の命が下る

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 京洛へ訴えでた工藤茂光は、様々な思惑の中で、相国清盛から“為朝追討”の許状をとったのでありました。茂光は、伊豆の国府、三島屋形に着くと、
「牧ノ郷の皆に下知を廻せ、国府に集結じゃ。
 宇佐美にも書状を送り、熱海、伊東の者達を沼津に集めよ。
 北条には、相国清盛の下知を伝え、与力を頼むのじゃ。急げ」
「「「はッ、して敵は」」」
「伊豆大島が流人、為朝じゃ」

為朝征討の書状を、見せつけた。

「「「はッ、、、」」」

 源為朝、保元の乱で鬼神の如く戦った、上皇方が猛将、五人張りの強弓を引く、日ノ本最強の武士もののふ。一矢で何人もの甲冑武者を射貫くと言われた武士もののふを相手と聞き、少し怯えが入った者達に向かって、茂光は、

「なんの、為朝は罪人となった折、肩を抜かれておる、昔ほどの力は無い。五人張りの弓であれば、宇佐美も引ける剛の者じゃ。この茂光も、四人張りを引く、見事、為朝を射貫いてみせようぞ」
「「「おおぉッ」」」

茂光の檄に、伊豆の益荒男達が応える。
使者が送られ、茂光は兵粮を集め、酒宴の準備を進めた。





 陸の孤島とも言うべき、蛭ヶ小島にも、物騒な気配は伝わっておりました。

「殿ッ」

 佐々木蓮は、茂光から発せられた、伊豆国府参集の下知を頼朝に伝えた。
 さやは、身重の宿下がりとして、武蔵の比企群が郡司、掃部允能数よしかずの元へ下がっていた。
 頼朝の周囲には、蓮の弟達、佐々木盛綱、高綱、経高の三人と安達盛長が、平家に追われて、同じように頼朝の下へと集まって来ていた。

「玲殿が言った通りか、蓮」
「はい。姐御は、工藤茂光、宇佐美定行、北条時兼が三島の国府に集まるだろうと」
「伊豆だけでなく、相模の北条もか
 相模の北条まで参加するとなれば、総勢三千は動くことになろう。
 熱海や伊東から、戦船も五百艘は集まろう。
 いくら叔父上が最強の武士もののふであろうと、本当に勝てるのか」
「だから見に来いと言ったのではありませんか、殿」
「叔父上の戦をか」
「はい、玲の姐御が仕掛け、敵勢すべてが伊豆国府に集まり、
 大島より殿が御家人となった、源為朝が出陣する大戦」
「あぁ、叔父上は、俺の御家人となった。源氏の長と認めてくれたんだ」

 若い、頼朝にとって、父上の死んだ今、叔父である為朝は、本来は仕えるべき相手でもあった。その為朝が、頼朝を武家一門が頭領と認め、日ノ本を任せると言って、主従の盃を受けてくれた。
 平安期の宴席では、序列順序が厳しく、酒盃事は、主従関係を示す重要な位置づけを持っていた。平安後期より生まれた武家では、酒盃事は、公家衆以上にしきたり事として、重要な意味合いを持っていた。
 紙の誓詞は敗れても、盃の席上で交わした約束事は、死しても守らねばならない。武に生き、武に死する覚悟を持ちて戦う者達にとって、命を賭ける価値を見出す“夢”を見る場こそが、盃事の席にはあったのである。工藤茂光が、戦の前に宴席の支度をするのも、戦にあって必要な事柄を、決めるためでもあった。

 後年、任侠道で扱われる盃事は、武家が武家らしかった時代を模倣したものである。
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