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魔導書屋の少女は英雄との恋に憧れているようです 10
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「さーてと、んじゃちょっくら行ってきますよ。もしもわたしになにかあったら、実家の机は中を見ずにそのまま燃やして下さい。引き出し開けたらあの世から呪いますからね」
「……わかった、わかったから早く行け。だいたいそんな危険な道中でもないだろうに」
俺はしっし、とリューに出発を促す。
「なーんか最近モトキさんわたしに対してぞんざいっすわ。あなたあれですか、釣った魚に餌をやらないタイプですね。魚に餌を、一回やったオークに優しさを……!」
「わかった、帰ってきたらなんでもおごってやるから本当に早く行け」
「うっしゃー! じゃあ気合いれて行ってきますよ!」
リューはにんまり笑いながら盗賊スキル『壁登り』を使い、街の城壁を駆け上がった。
そしてぴょんと『クーラ』の外へと飛び降りる。
俺はリューにちょっとしたおつかいを頼んだのだ。
『クーラ』からリューの足で5日ほどかかる場所に、手紙を届けにいってもらった。
夜は街の門が閉まっていて出ることができないので、リュー得意の盗賊スキルで城壁を飛び越えてもらったというわけだ。割と急ぎの用なのだ。
**
俺は翌日、女エルフのシュカに化けて、魔導書屋を訪ねた。
「邪魔するよ」
「あ、……シュカ、さん……」
店の中で小説を書きなぐっていたルビィは顔を上げた。
「も、もうすぐ……完成します。今度こそ、うまく書けてる気が……!」
「いや、今日は原稿の催促にきたわけではなくてね、君のおじいさまの病気についての話さ」
「お、おじいちゃん……の」
ルビィの祖父は現在も原因不明の病気によって臥せっている。
いや、実は病気ではなく俺のかけた『遅効性呪』のせいなのだが、それはともかく――。
「実はね、さっき行商人から聞いたんだが、ここから東の街『セフォル』に、高名な調薬師が来ているらしい。きっとその人ならば、おじいさんの容態を良くする薬をつくってくれるはずだ」
俺は続ける。
「どうだいルビィさん、おじいさんのために『セフォル』まで薬を買いにいかないか? もちろん、道中はボクもご一緒するよ」
「べ、別の街……に……」
ルビィの顔はみるみる青ざめていく。
ここ『クーラ』から出ることが怖くて仕方がないのだろう。
以前オークの襲撃を受けてから、ルビィは家に引きこもった。
それでも近くの店に買い物にいくことくらいはあったかもしれないが、おそらく、街の外には一歩も出たことはないだろう。
彼女は何年も、この城壁の中にいたのだ。
俺は膝まづくようにして、ルビィの顔を覗き込んだ。
「怖いかい?」
「こ、怖い……です、とても、震えてしまい……ます……」
ルビィはカタカタと身を震わす。
この子が震えるのはいつものことだが、今日はいつもより余計に震えている。
もちろん爆乳もプルンプルンとスライムみたいに震えていて、こんな時なのに欲情してしまいそうになった。
……もはや凶器だな、この胸は。
「怖い、か。ではやめるかい? 別にその調薬師に薬をもらったところで、おじいさんが確実に治るという保証はないしね」
そう言うと、ルビィは一瞬安心したような表情を浮かべ――しかしキッと顔を上げた。
「や、やめ……やめ、ません! 行き、ます!」
**
旅に出ると決まってから、俺とルビィは大急ぎで準備を始めた。
丈夫な服や靴を買い揃え、道中の食料や水筒を買う。
さらに護身用の武器、各種薬、虫よけの葉なんかも購入。
それから留守にする間、ルビィの祖父の面倒をみてくれる人を雇った。
「おじいちゃん……ちょっとだけ留守にするけど、心配、しないで……おじいちゃんを治す薬を、買ってくるから……」
ルビィは病床の祖父の耳元に話しかける。
祖父は、「わしのことなんていい……街の外は危ないぞ……」としゃがれた声で孫娘を止めようとしたが、ルビィの決意は固いようだった。
そして翌日、俺とルビィは朝早くに起床し、『クーラ』の城門前で待ち合わせた。
リュックを背負ったルビィの表情は引き締まっていた。
「それじゃあ、行こうか」
「は……はい!」
しかし城門から外に出ようとする段階で、ルビィはピタリと足を止めた。
ルビィは、外の世界の広大さに圧倒されているようだった。
どこまでも続きそうな道。
地面を埋める草と木々。
怖いのだろう。
当然だ、未知のものは怖い。
俺はルビィの耳元で、ささやくように言う。
「壁を破らないものに、神は微笑まない」
すると、ルビィはハッと我に返ったようだった。
そして、ついに街の外へと一歩を踏み出す。
力強く、地面を踏みしめる。
――さて、始まりだ。
イニシエーションの最終段階、『出立』の始まりである。
俺はこの道中でルビィを一個の人間へと成長させ、ユータロウの運命から解き放ち――ルビィとやる。
「……わかった、わかったから早く行け。だいたいそんな危険な道中でもないだろうに」
俺はしっし、とリューに出発を促す。
「なーんか最近モトキさんわたしに対してぞんざいっすわ。あなたあれですか、釣った魚に餌をやらないタイプですね。魚に餌を、一回やったオークに優しさを……!」
「わかった、帰ってきたらなんでもおごってやるから本当に早く行け」
「うっしゃー! じゃあ気合いれて行ってきますよ!」
リューはにんまり笑いながら盗賊スキル『壁登り』を使い、街の城壁を駆け上がった。
そしてぴょんと『クーラ』の外へと飛び降りる。
俺はリューにちょっとしたおつかいを頼んだのだ。
『クーラ』からリューの足で5日ほどかかる場所に、手紙を届けにいってもらった。
夜は街の門が閉まっていて出ることができないので、リュー得意の盗賊スキルで城壁を飛び越えてもらったというわけだ。割と急ぎの用なのだ。
**
俺は翌日、女エルフのシュカに化けて、魔導書屋を訪ねた。
「邪魔するよ」
「あ、……シュカ、さん……」
店の中で小説を書きなぐっていたルビィは顔を上げた。
「も、もうすぐ……完成します。今度こそ、うまく書けてる気が……!」
「いや、今日は原稿の催促にきたわけではなくてね、君のおじいさまの病気についての話さ」
「お、おじいちゃん……の」
ルビィの祖父は現在も原因不明の病気によって臥せっている。
いや、実は病気ではなく俺のかけた『遅効性呪』のせいなのだが、それはともかく――。
「実はね、さっき行商人から聞いたんだが、ここから東の街『セフォル』に、高名な調薬師が来ているらしい。きっとその人ならば、おじいさんの容態を良くする薬をつくってくれるはずだ」
俺は続ける。
「どうだいルビィさん、おじいさんのために『セフォル』まで薬を買いにいかないか? もちろん、道中はボクもご一緒するよ」
「べ、別の街……に……」
ルビィの顔はみるみる青ざめていく。
ここ『クーラ』から出ることが怖くて仕方がないのだろう。
以前オークの襲撃を受けてから、ルビィは家に引きこもった。
それでも近くの店に買い物にいくことくらいはあったかもしれないが、おそらく、街の外には一歩も出たことはないだろう。
彼女は何年も、この城壁の中にいたのだ。
俺は膝まづくようにして、ルビィの顔を覗き込んだ。
「怖いかい?」
「こ、怖い……です、とても、震えてしまい……ます……」
ルビィはカタカタと身を震わす。
この子が震えるのはいつものことだが、今日はいつもより余計に震えている。
もちろん爆乳もプルンプルンとスライムみたいに震えていて、こんな時なのに欲情してしまいそうになった。
……もはや凶器だな、この胸は。
「怖い、か。ではやめるかい? 別にその調薬師に薬をもらったところで、おじいさんが確実に治るという保証はないしね」
そう言うと、ルビィは一瞬安心したような表情を浮かべ――しかしキッと顔を上げた。
「や、やめ……やめ、ません! 行き、ます!」
**
旅に出ると決まってから、俺とルビィは大急ぎで準備を始めた。
丈夫な服や靴を買い揃え、道中の食料や水筒を買う。
さらに護身用の武器、各種薬、虫よけの葉なんかも購入。
それから留守にする間、ルビィの祖父の面倒をみてくれる人を雇った。
「おじいちゃん……ちょっとだけ留守にするけど、心配、しないで……おじいちゃんを治す薬を、買ってくるから……」
ルビィは病床の祖父の耳元に話しかける。
祖父は、「わしのことなんていい……街の外は危ないぞ……」としゃがれた声で孫娘を止めようとしたが、ルビィの決意は固いようだった。
そして翌日、俺とルビィは朝早くに起床し、『クーラ』の城門前で待ち合わせた。
リュックを背負ったルビィの表情は引き締まっていた。
「それじゃあ、行こうか」
「は……はい!」
しかし城門から外に出ようとする段階で、ルビィはピタリと足を止めた。
ルビィは、外の世界の広大さに圧倒されているようだった。
どこまでも続きそうな道。
地面を埋める草と木々。
怖いのだろう。
当然だ、未知のものは怖い。
俺はルビィの耳元で、ささやくように言う。
「壁を破らないものに、神は微笑まない」
すると、ルビィはハッと我に返ったようだった。
そして、ついに街の外へと一歩を踏み出す。
力強く、地面を踏みしめる。
――さて、始まりだ。
イニシエーションの最終段階、『出立』の始まりである。
俺はこの道中でルビィを一個の人間へと成長させ、ユータロウの運命から解き放ち――ルビィとやる。
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