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魔導書屋の少女は英雄との恋に憧れているようです 8

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「あ、あの、シュカ……さ、ん、これ、どこ、に……?」

「まあいいからいいから。黙ってボクについてきなよ」

 俺はルビィを連れて、街を歩く。

 商店街は活気がある。

 道行く人の話し声、荷社の車輪の軋む音、そして店の呼び込み合戦。
 様々な音が満ち溢れている。

 長身の女エルフと、ポヨンポヨンとおっぱいを揺らす爆乳少女のコンビは目を引くようで、道行く人が奇異の視線を送ってくる。

 ルビィはその視線が気になるようで、自信なさげにうつむいていた。

「いい街だね、ここは。とても明るい。こんな素敵な街に住んでいるのに、どうして君はあまり外に出ないんだい?」

「べ、別に……お外に、出かけることだけが、楽しいことってわけ、じゃ……。ど、どうして出歩くのが、好きな人って……わたしたちみたいな、……家で本読んでる方が好きな人間を、悪いことしてるみたいに、言うんです、か……!」
 ルビィは俺の発言にムッとしたようだ。

 初めてこの少女の内面に触れることができた気がした。

「いや、君は何も悪いことなんてしていないさ。家で本を読む、それも素敵なことだ。――でもね、本当にそれこそが素敵だと君が思っているなら、君はもっと堂々としているべきだ」
 俺は続ける
「君は、どこかで自分を劣った人間だと思い込んでいるんじゃないかな。外で友達と笑顔を浮かべているような人種に、自分はなにか負けているとね」

「……負けて、る…………」
 心当たりがあるのだろう、ルビィは軽く目を伏せた。

「その余計な負け犬根性を払しょくするにはね――外を楽しみつくすことだ」
 俺はにっこりと笑う。
「楽しんで、楽しみつくして、その楽しさを知った上であえて家で本を読み、物語をつむぐといいさ」

「楽し、む……」

「そうだ。――さあ、ついたぞ」

 俺はルビィと一緒に、仕立て屋に入った。

 そこの女店主はルビィの姿を見て、「あら、注文の服はできてるわよ」と言った。

「ちゅ、注文……?」
 ルビィは首をかしげる。

 そんなルビィにかまわず、女店主はルビィを仕切りの向こうに連れて行った。

 そして「じゃあ、脱いだ脱いだ」とルビィの地味なローブのような服をはぎ取っていく。

「え、……きゃ……やめ……!」
 ルビィは抵抗するが、女店主が手を止めることはない。

 肌着も下着もぽいぽい放っていく。

 女エルフに化けている俺は、何食わぬ顔でその光景を鑑賞する。

「すごいな、ありゃあ……」
 俺はごくりと喉をならした。

 ルビィの胸にはスイカのようなものが二つ鎮座していた。

 ……あんなの見たことない。
 
 しかし体は全体的には小柄で、肩なんて強く握ったら砕けてしまいそうだった。
 肌は陽にあたっていないせいかとにかく白い。

 ルビィの体に、仕立て屋の女店主は手際よく、出来たての服を着せていく。

 ルビィはきっと不思議に思っているだろう。どうして採寸したわけでもないのに、自分にぴったりな服が用意されているのかと。

 その理由は簡単だ。
 『ミラー』でルビィに化けた俺が、事前にその体で服を注文していたからだ。

 ワンピースのような形状の服。
 胸の下に布をかませるようにできているので、男の目をひく立派な乳袋が形成される。

「ルビィさん、それはボクからのプレゼンさ」
 俺はそう言って微笑みかけた。

 普段の俺ならこんなキザな笑みを浮かべることはできないが、化けている時は、なんだかなんでもできるのだ。

「……そんな、こんなに、高そう、な……」

「いいからいいから――さあ次だ」

 そして次に、俺は金属加工ギルドの店へと向かった。

 そこの店頭台には、ベルトのバックルなどの実用品の他、装飾品が並んでいる。

「これが似合いそうだね」
 俺はオリーブをモチーフにしたアクセサリーをルビィの首にかけた。

 案の定ルビィは「う、受け取れません……!」と遠慮したが、俺は半ば無理矢理それを受け取らせる。

 高価な服や装飾品を身に着けていると、自ずと心持ちも変わってくる。
 先ほどまでうつむき気味だったルビィは、今はすっと姿勢よく前を向いている。

 それに、しゃべり方もはきはきしてきた。

 ちょっと外見を変えるだけで、態度はまったく変わってくるのだ。


 その後は定番のデートである。

 おしゃれな食事屋で葉っぱで装飾されたランチを食べる。

 食後はデザート。
 かわいく果物のあしらわれたケーキを、ルビィは二つも食べた。
 その栄養はきっと、全部胸にいっているのだろう。

 俺が決めたところにだけ行くのもなんなので、ルビィに行きたいところを聞くと、迷うことなく「本屋に……行きたいです」と答えた。

 本屋ではルビィにおすすめの本を教えてもらった。
 自分の好きなものについて語るルビィは、大変きらきらしていた。


 そして夜は陽が落ちる頃、俺はルビィを劇場に連れていった。

「……劇ってわたし、久しぶり、です……小さい、頃に、両親に、連れて、きてもらって以来……」
 野外の席に座ったルビィは、幼い日の記憶を思い出しているようだった。
 
 俺も、劇場にくるのは転生してから初めてだった。

 まあ、前は演じる側だったのだが。

 なつかしいな、と思いつつ俺とルビィは劇を楽しむ。

 この時だけは、俺も姑息なたくらみを忘れ、純粋に劇を堪能した。


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