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魔導書屋の少女は英雄との恋に憧れているようです 6
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――あいつになりたい
俺は『ミラー』のスキルを使い、エルフのエリエーヤの姿に化ける。
そして路地で息をひそめ、表の通りを見張る。
「きたっ」
そこを歩いていくのは昼食から帰ってきた魔導書屋の店主、つまりはルビィの祖父だ。
俺はその背中に狙いをつける。
そしてエルフの秘伝の魔法『遅効性呪』を放つ。
ルビィの祖父は平然と歩いていくが、後にこの呪いが効果を発揮し、昏倒するだろう。死にはしないが。
「さて」
俺はさらに『ミラー』を使い、エリエーヤとは別のエルフへと化ける。
そのエルフの名はシュカラーヤといい、エリエーヤの姉だ。
女とは思えないほどの長身、切れ長の眼、ハスキーボイス――女学園にいたらファンクラブができそうな、中性的な女である。
ちなみにシュカラーヤの一人称は『ボク』である。
シュカラーヤに化けた俺は、少し時間をおいてから魔導書屋へと向かい、店内に入った。
ルビィの祖父は、エルフに変じた俺の姿に、少し目を丸くした。
「おやおやエルフのお嬢さん、見ない顔だね。どういった魔導書をご所望かな?」
「うん。ちょっと雷撃系の攻撃魔法をね」
「それならいいのが――」
などと、俺とルビィの祖父はしばらく商談をかわす。
そして20分ほどたった頃――
「う……うぅ……」
ルビィの祖父は急に倒れた。先ほどかけた『遅効性呪』が効果を発揮したのだ。
「おじいさん!? どうしたんだい、しっかりするんだ!」
俺はわざと大声で呼びかける。
すると異変を察知したようで、二階の自室で引きこもっていたルビィが急いで駆け下りてきたようだった。
「お、おぉ……おじいちゃん!?」
ルビィは白目をむいた祖父の姿にひどく取り乱した様子だった。
「お孫さんかい? おじいさんが急に倒れたんだ。急いで医者に連れていこう。ボクは街にきたばかりの新参者だから、診療所の場所はわからない。案内してくれるね?」
俺はルビィの祖父をお姫様だっこの姿勢で持ち上げる。
そして青い顔をしたルビィと共に診療所に向かう。
**
「うーん……過労、だと思うんだけど」
ルビィの祖父を診た医者は、自信なさげに言った。
『遅効性呪』は露見しにくい魔法である。これをかけられた者は自身が呪われたと気付くこともなく、じわじわと体を蝕まれていく。
まあ、俺のもどき魔法にそんな威力はないので、ほっといても次第に解けるだろうが。
「お……おじぃちゃん……は、……た、たすか、るん、です……か?」
ルビィの声はいつにも増して震えていた。
「いや、うん……大丈夫だとは思うんだけど」
医者の不確かな答えに、ルビィの体がカタカタと震えだす。
彼女にとって、祖父はたった一人の肉親である。
両親を失った自分を優しく慈しんでくれた、最愛の家族。
ルビィは今思っているだろう、『こんな時ユータロウさんがいてくれたら……』と。
しかし今、街にユータロウはいない。また遠征に出ている。
わざとそのタイミングで、俺は事を起こしたのだ。
「落ち着きな、お嬢さん。ボクがついてるから」
俺は優しい声でそう言って、震えるルビィの手をそっと握った。
心細いのだろう、ルビィはぎゅっと手を握り返してきた。
「なあ君、これからもしおじいさんの病気が長引いたら、治療費は払えるのかい?」
俺は聞いた。
「ち、治療費……そっか……稼がない、と……でも、どおした、ら……」
祖父が倒れたのだから、魔導書屋はこれからルビィが切り盛りしていかなくてはならない。
生活費と祖父の治療費を稼がなくてはならない。
だが、それははっきりいって難しいだろう。
不可能に近い。
店を経営する、というのは大変なことなのだ。
絶望に沈み込んでいくルビィ――。
「――ところでさ、おじいさんから聞いたんだけど、これ君が書いたんだって?」
俺はそのタイミングで、懐から一冊の本を取り出した。
ルビィの書いた夢小説――俺が勝手に製本した本だ。
「そ、それは……!? 違っ……いえ、違わないです、けど……でも、わたしが、本に、した、わけじゃ……」
「才能がある」
俺は断言した。
「……え…………?」
「粗削りだが、描写力とキャラクターの造形力は抜群だ。うん、それに臨場感もある。ベッドシーンは女のボクでも興奮させられたよ」
俺は続ける。
「なあ君、もしよければこの小説の続編を書いてみないか? 長編化して、この続きを描くんだ。さらに2巻、3巻と続けるといい」
「そ、そんな……それ、小説、といえるようなものじゃ……」
ルビィはふるふると首を振る。
「そ、それ……に、い、いまは、そんなこと、してる場合……じゃ……」
「いや、今だからこそ君は書くべきだ――君が書くというなら、当面の生活費とおじいさんの治療費はボクが支援しようじゃないか。一冊分書きあがったらさらに金貨1枚だ」
「き、金貨……!? ど、どうして……そん、な……」
ルビィは仰天したようだった。
「おいおい、なにかおかしいことがあるのかい? 金を持つ者が才能を支援するのはよくあることだ――ボクは君のパトロンになりたいのさ」
「で……でも、わたしに、できる、でしょうか……」
「さあね、できるかどうかは知らないよ。ボクは神様ではないからね。いいかい、創作に必要なのは自信ではなく意志だ。――書きたいのか、書きたくないのか。それを自分の胸に聞いてごらんよ」
「…………っ」
ルビィはそっと自身の大きな胸に手を置いた。
うつむいて、黙りこんでしまう。
魔導書屋の経営と、小説の執筆。自分が本当にやりたいのはどちらだろう、と考えているのだろう。
それ以前に、できそうなのはどちらか、と。
ルビィはそして、顔を上げた。
「書、……書き、ます……!」
「そうかい、では書くといい。言っておくがボクは厳しいから覚悟しておけよ。――ちなみにボクの名はシュカラーヤ。シュカと呼んでくれ」
「ルビィ……です」
女エルフに化けた俺と、内気爆乳少女ルビィは、がっちりと握手を交わした。
イニシエーションの過程2
『贈与者との出会い』がこれから始まる。
俺は『ミラー』のスキルを使い、エルフのエリエーヤの姿に化ける。
そして路地で息をひそめ、表の通りを見張る。
「きたっ」
そこを歩いていくのは昼食から帰ってきた魔導書屋の店主、つまりはルビィの祖父だ。
俺はその背中に狙いをつける。
そしてエルフの秘伝の魔法『遅効性呪』を放つ。
ルビィの祖父は平然と歩いていくが、後にこの呪いが効果を発揮し、昏倒するだろう。死にはしないが。
「さて」
俺はさらに『ミラー』を使い、エリエーヤとは別のエルフへと化ける。
そのエルフの名はシュカラーヤといい、エリエーヤの姉だ。
女とは思えないほどの長身、切れ長の眼、ハスキーボイス――女学園にいたらファンクラブができそうな、中性的な女である。
ちなみにシュカラーヤの一人称は『ボク』である。
シュカラーヤに化けた俺は、少し時間をおいてから魔導書屋へと向かい、店内に入った。
ルビィの祖父は、エルフに変じた俺の姿に、少し目を丸くした。
「おやおやエルフのお嬢さん、見ない顔だね。どういった魔導書をご所望かな?」
「うん。ちょっと雷撃系の攻撃魔法をね」
「それならいいのが――」
などと、俺とルビィの祖父はしばらく商談をかわす。
そして20分ほどたった頃――
「う……うぅ……」
ルビィの祖父は急に倒れた。先ほどかけた『遅効性呪』が効果を発揮したのだ。
「おじいさん!? どうしたんだい、しっかりするんだ!」
俺はわざと大声で呼びかける。
すると異変を察知したようで、二階の自室で引きこもっていたルビィが急いで駆け下りてきたようだった。
「お、おぉ……おじいちゃん!?」
ルビィは白目をむいた祖父の姿にひどく取り乱した様子だった。
「お孫さんかい? おじいさんが急に倒れたんだ。急いで医者に連れていこう。ボクは街にきたばかりの新参者だから、診療所の場所はわからない。案内してくれるね?」
俺はルビィの祖父をお姫様だっこの姿勢で持ち上げる。
そして青い顔をしたルビィと共に診療所に向かう。
**
「うーん……過労、だと思うんだけど」
ルビィの祖父を診た医者は、自信なさげに言った。
『遅効性呪』は露見しにくい魔法である。これをかけられた者は自身が呪われたと気付くこともなく、じわじわと体を蝕まれていく。
まあ、俺のもどき魔法にそんな威力はないので、ほっといても次第に解けるだろうが。
「お……おじぃちゃん……は、……た、たすか、るん、です……か?」
ルビィの声はいつにも増して震えていた。
「いや、うん……大丈夫だとは思うんだけど」
医者の不確かな答えに、ルビィの体がカタカタと震えだす。
彼女にとって、祖父はたった一人の肉親である。
両親を失った自分を優しく慈しんでくれた、最愛の家族。
ルビィは今思っているだろう、『こんな時ユータロウさんがいてくれたら……』と。
しかし今、街にユータロウはいない。また遠征に出ている。
わざとそのタイミングで、俺は事を起こしたのだ。
「落ち着きな、お嬢さん。ボクがついてるから」
俺は優しい声でそう言って、震えるルビィの手をそっと握った。
心細いのだろう、ルビィはぎゅっと手を握り返してきた。
「なあ君、これからもしおじいさんの病気が長引いたら、治療費は払えるのかい?」
俺は聞いた。
「ち、治療費……そっか……稼がない、と……でも、どおした、ら……」
祖父が倒れたのだから、魔導書屋はこれからルビィが切り盛りしていかなくてはならない。
生活費と祖父の治療費を稼がなくてはならない。
だが、それははっきりいって難しいだろう。
不可能に近い。
店を経営する、というのは大変なことなのだ。
絶望に沈み込んでいくルビィ――。
「――ところでさ、おじいさんから聞いたんだけど、これ君が書いたんだって?」
俺はそのタイミングで、懐から一冊の本を取り出した。
ルビィの書いた夢小説――俺が勝手に製本した本だ。
「そ、それは……!? 違っ……いえ、違わないです、けど……でも、わたしが、本に、した、わけじゃ……」
「才能がある」
俺は断言した。
「……え…………?」
「粗削りだが、描写力とキャラクターの造形力は抜群だ。うん、それに臨場感もある。ベッドシーンは女のボクでも興奮させられたよ」
俺は続ける。
「なあ君、もしよければこの小説の続編を書いてみないか? 長編化して、この続きを描くんだ。さらに2巻、3巻と続けるといい」
「そ、そんな……それ、小説、といえるようなものじゃ……」
ルビィはふるふると首を振る。
「そ、それ……に、い、いまは、そんなこと、してる場合……じゃ……」
「いや、今だからこそ君は書くべきだ――君が書くというなら、当面の生活費とおじいさんの治療費はボクが支援しようじゃないか。一冊分書きあがったらさらに金貨1枚だ」
「き、金貨……!? ど、どうして……そん、な……」
ルビィは仰天したようだった。
「おいおい、なにかおかしいことがあるのかい? 金を持つ者が才能を支援するのはよくあることだ――ボクは君のパトロンになりたいのさ」
「で……でも、わたしに、できる、でしょうか……」
「さあね、できるかどうかは知らないよ。ボクは神様ではないからね。いいかい、創作に必要なのは自信ではなく意志だ。――書きたいのか、書きたくないのか。それを自分の胸に聞いてごらんよ」
「…………っ」
ルビィはそっと自身の大きな胸に手を置いた。
うつむいて、黙りこんでしまう。
魔導書屋の経営と、小説の執筆。自分が本当にやりたいのはどちらだろう、と考えているのだろう。
それ以前に、できそうなのはどちらか、と。
ルビィはそして、顔を上げた。
「書、……書き、ます……!」
「そうかい、では書くといい。言っておくがボクは厳しいから覚悟しておけよ。――ちなみにボクの名はシュカラーヤ。シュカと呼んでくれ」
「ルビィ……です」
女エルフに化けた俺と、内気爆乳少女ルビィは、がっちりと握手を交わした。
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『贈与者との出会い』がこれから始まる。
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